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 NO.7
(アメリカ編)




5.フィラデルフィア・・・・ 緑に埋もれるアメリカ建国の古都
 
第十日目。今日はフィラデルフィア行きである。次のワシントンを回った後は、再びニュ−ヨ−クへ戻ることになるのでバッグはホテルに預けることにし、着替えだけ持って身軽な格好で旅立つ。八時五分発の普通列車に乗ろうと地下鉄でペンシルバニア駅へ向かう。
 

フィラデルフィアへ
列車に乗車するまでの手順はこうである。まず、目指す列車のホ−ムナンバ−を電光掲示を見て確認する。そして、その番号のホ−ム入り口で並んで待つのである。ホ−ムへは階段を降りて行くのだが、その入り口にドアがあって係員が開けるまでホ−ムへは勝手に出られない。ホ−ムの番号も列車の到着直前にならないと発表されないので、それまで待合いで待つしかない。十分前ぐらいになってやっとドアが開かれ、ホ−ムへ降りてすでに到着している列車へ乗り込む。改札はヨ−ロッパと同様になし。車内はオ−プンで二人掛け、中央に通路があって車両幅も少し広い。荷載せ棚の奥行が深く、大きな荷物でもゆったり載せられるのだが、小さな荷物を奥に押し込むと取り出すときにはシ−トのてすりに乗って取り出さないと手が届かない。そうやって荷物を取り出す女性の姿が見られる。
 

若干の空席を残しながら列車は定刻に発車、隣の座席も空いている。それも次の停車駅で満席となり、ブラジルから来たという熟年夫婦連れの婦人が隣に坐る。夫は英語は話せず、夫人が少し話す程度。道連れの旅で会話が楽しめるなと思って話しかけてみるが、相手の夫人は愛想悪く話したがらない様子。どこから来たのかやっと聞いただけで、話の穂が途切れてしまう。そのうち空いた席に夫婦で移って行き、ひとりぽっちになってしまう。
 

改札がないからここの車掌も忙しい。まず、列車が発車、停車する度に乗降ドアを開け閉めしてステップを上げ下ろししなければいけない。ホ−ムとの段差が一メ−トル近くもあるのだ。そして発車すると車内検札が始まり、一人ひとり乗客の行き先を調べてカ−ドにパンチを入れ、それを荷載せ棚の端に差し込んでいく。乗客が降りると、次の巡回の折にそのカ−ドを取り去っていくのである。停車する度に、これを繰り返すのだが、まあなんと面倒なことをするのだろうと感心させられる。
 

さすがはアメリカ大陸。車窓から飛び込んでくるのは、何一つさえぎるもののない大平原の続く彼方に地平線が見える雄大な眺めである。起伏のないのっぺらぼうの風景は変化に富まないが、狭い日本に住む者にとってはとても珍しい。移り行く風景を眺めているうちに、やがて列車はフィラデルフィアに到着。一時間半の列車の旅である。 


フィラデルフィア三〇ストリ−ト駅のコンコ−スに降り立つと、そこは駅舎とは思えぬ総大理石張りの豪華な建物で、天井の高さも五十メ−トルはあるかと思われるほど抜けるように高い。






フィラデルフィア・30st駅











ホテル探しに迷う
早速、駅から二分のところにあるという目指すホテルを探しにかかる。確かにこの辺だがと思って探すのだが、殺風景でホテルらしい建物は見当たらない。そこで通行人の黒人女性に住所の地番を見せて尋ねると、ここからもっと先の方向だという。おかしいなあ、ガイドブックによればそんなに遠くないはずなのだがと思って周辺をうろつき回るが、ストリ−トの番号表示も違っていてなかなかそれらしきホテルは見つからない。首をかしげながら歩いていると、先程尋ねた黒人女性と再び出会う始末になり、「どうしたのですか?」と親切に問いかけてくる。「どうも見つからないのですが。」というと、もう一度住所を確認し、やはり向こうのほうだという。


今度はそれを信頼し、少し遠いがそちらへ向かって歩き出す。しばらく歩いて緑のキャンパスに覆われたペンシルバニア大学の前を通り過ぎると、やっと目指す三十六丁目ストリ−トに出る。付近をきょろきょろ見回していると、「あった!」。なんと、ガイドブックのミスプリントで、本当は駅から十二分のところが“十”の数字が抜け落ちたためにただの二分となってしまっているのだ! この一字のお陰で振り回される。
 

ホテルの窓口には老夫人がいて、シングルの部屋があるかと尋ねるとOKの返事がすぐに返ってくる。ニュ−ヨ−クで苦労しただけに、イッパツOKでホッとする。通された部屋はツインの部屋でスペ−スも広く、やや古い感じだが清潔感が漂っていて快適だ。ただ、ベッドのスプリングが弱いせいか、ブカブカしているのが欠点である。このホテルは非営利団体の経営とかでちょっと毛色が変わっており、男女の部屋は別フロア、禁煙、禁酒、女性のスラックス、パンツ、ミニスカ−ト不可、ストッキング着用、男性は短パン、袖無しシャツ不可、シャツはズボンの内側に入れ、靴下着用などと厳しい規則が定められている。その代わり、一泊二十三〜二十六ドル(シングル)と低料金なのが魅力である。一泊三千円もかからない。


昼食と展望台
一服するとすぐに外出、地下鉄で中心部にあるインフォメ−ション・センタ−へ向かう。そこで午後二時発の市内観光チケットを購入し、近くのしゃれたカフェテリアで昼食を取る。満腹すると、すぐ目の前にあるフィラデルフィア市庁舎に立ち寄り、そこの展望台へ上ってみる。庁舎のてっぺんには、この町の創始者ウィリアム・ペンの像がそびえ立っている。展望台へ上がるエレベ−タ−は五人乗りと小さいので、係員が時間予約の整理券を渡してくれる。ベンチで待っていると、二人連れの日本人青年がやってくる。二人はアメリカ旅行の途中で出会ったそうで、一人は有職青年で三ヶ月間の、もう一人は学生で半年間の旅行を楽しんでいるという。話がはずんでいると、時間がきて一緒にタワ−へ昇り上がる。
 
                    







 フィラデルフィアの市庁舎














ここフィラデルフィアはアメリカ建国の歴史的町で、アメリカ植民地に対する支配を強化しようとするイギリス本国の圧制に対抗して立ち上がり、独立戦争を経て一七七六年七月四日、トマス・ジェファソンによる独立宣言文がこの地で採択され、独立するに至るという歴史的舞台となった地である。当時は名実ともにアメリカ第一の都市であったが、一八〇〇年に首都がワシントンに移り、現在では第五の大都市となっている。“オ−ルド・シティ”と呼ばれる地区は、現在でもインディペンデンス・ホ−ル、カ−ペンタ−ズ・ホ−ルなど二百年前のたたずまいをそのまま残し、独立の頃の建国の父祖たちの活躍をしのばせている。
 

展望台から一望する景観は三百六十度に広がって、澄みわたった青空の下に歴史の街が静かに横たわっているのが見える。大都市とはいっても、それほど大きいとは感じられない。その中に、地平線の彼方まで続いている一本の直線道路が街の仕切りをつけている。これが世界一長い通りといわれる“ブロ−ド・ストリ−ト”なのだ。ここでも四枚連続のパノラマ写真を撮っておこう。 








世界一長い通りといわれる“ブロ−ド・ストリ−ト”




 市庁舎展望台より市街を望む。左側には「世界一長い通り」が地平線の彼方に消えているのが見える。




これから昼食を取るのだという青年二人に、「すぐ近くにきれいなカフェテリアがあるから、そこで食べたら? チキンにミネラル水をとって五百円足らずだったよ。」と教えてやると、「ボクたちにはそんな予算がありません。もっと安くあげないとやっていけないんです。安旅行なんですから…。」と二人顔を見合わせながら微笑んでいる。好感の持てる青年たちだけに、昼食ぐらいふるまってやりたいと思うのだが、こちらは済ませたばかりだし、観光バスの時間も迫っているので旅の安全を祈り合って別れを告げる。
 

市内観光
観光バスは駅馬車風にしつらえられ、真赤な帽子に黒のコスチュ−ムをまとった六十歳代と思われる年配の老女ガイドがにこやかに迎えてくれる。三時間コ−スの観光は、一七七〇年に建てられイギリスの植民地弾圧政策に対抗するため第一回大陸会議が開かれたカ−ペンタ−ズ・ホ−ル、トマス・ジェファソン起草による独立宣言が採択された独立記念館、独立宣言の際高らかに鳴らされたリバティ・ベル(自由の鐘)が収められているリバティ・ベル・パビリオンなど、アメリカ建国の歴史をひもどいて回る。この歴史地区一帯は国立公園になっているので、屋内ではボ−イスカウト風の帽子や服装をしたパ−ク・レンジャ−の係員が説明をしてくれる。
 





インデペンデンス・ホール(手前の建物)














アメリカの自由の象徴「リバティ・ベル」









バスの車窓から眺める市内の街並みはしたたるような緑に埋もれ、あちこちに公園や並木が美しい緑陰をつくって道行く人たちに心なごむ潤いを与えている。特に博物館や美術館が集中するミュ−ジアム・エリアの一帯は、広大な緑の公園になっていてひっそりと落ち着いた雰囲気はとても素晴らしい。フィラデルフィアの緑のシャワ−を浴びながら、アメリカ建国の歴史を探訪する三時間の旅は終わる。
 





市内の美しい公園










ダウンタウンに大きなショッピングセンタ−があるというので、そこで夕食を取ろうと訪ねてみる。そこは中心部に大きな吹き抜けがあって広い空間が広がり、それを取り巻くようにさまざまな商店が並んでいる。それも都会的な洗練されたショップばかりである。二階には広いスペ−スいっぱいに、とりどりの飲食店がズラッと並んでいて壮観である。その中には“スシ・ボ−イ”という名のスシを売っている店もある。両サイドに店が並び、その中央部にテ−ブルとイスが十分に用意されている。だから、自分の好きな店から好みの食べものを買ってきて、好きな所に自由に座って食事ができるのである。ファ−スト・フ−ド、インド料理、中国料理など一通り見て回ると、やはりスパゲッティに目が魅かれ、これに肉ダンゴ、ハム、ポテトサラダを皿に盛って夕食にする。ビ−ルを探すが、ここでは売っていないというのでミネラル水で我慢する。
 

帰りの途中、明日のワシントン行きの切符を買っておこうとフィラデルフィア駅に地下鉄で回り、切符を手に入れる。駅構内の飲食店街を通り掛かるとアイスクリ−ムのスタンドが目にとまり、食後のデザ−トに食べてみたくなる。高いイスに坐って足をぶらつかせながら物色していると、隣席の若い黒人女性が何を注文したいのかと尋ねてくる。そこで“アイスクリ−ム”と答えると、それにはビッグ、ミドル、スモ−ルのサイズがあると教えてくれる。


店員が応対に来たのでバニラの“ミドル”を注文ると、これがまた容器に山盛りの分量である。勘どってミドルを注文したのだが、それでも予想を超えて多すぎる。とても食べ切れないぞ、と圧倒されながらスプ−ンをクリ−ムの山に突き刺す。味はなかなかのものだが、尽きることを知らない量の多さにへき易しながら、ただ食べ切ることだけに専心する。さすがのアイスクリ−ム好きも降参だ。それでも無理してどうにか食べ終わり、お腹をさすりながら「今度注文するときは、絶対スモ−ルにしなくては!」と心に固く誓い、ホテルへ向かってゆっくりと歩き始める。


(次ページは「ワシントン編」です)











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