NO.10




バチカン美術館

第四日目。朝九時からヴァチカン美術館ツア−へ出かける。(費用五二、〇〇〇リラ=三、四〇〇円) ヴァチカンは四十四ヘクタ−ル、人口わずか千人という世界最小の国である。しかし世界に信者が八億人いるといわれるカトリックの総本山である。サン・ピエトロ広場を通って美術館入口に行くと、長い入場者の列ができている。ここは法王の住居として使われてきた宮殿で、一、四〇〇以上もある部屋や礼拝堂の一部は、二〇もの博物館、美術館、絵画館として開放されている。
 

中に入ると、そこには無数の絵画、彫刻、天井画、壁画、カ−ペットやミケランジェロ、ラファエロの世界が広がっていて、その壮観さに圧倒され息をのむばかりだ。









 バチカン美術館の黄金色に輝く回廊



















 迫力のある大絵画

















 見とれるばかりの美しい絵画






















 美しい天井画















教師に引率された子供たちもいっぱい来ていて、歴史的な作品の前に車座に座って先生の説明に聞き入っている。すべてをじっくり見ようと思ったら一週間はかかるところを、私たちは三時間で美の宝庫を後にする。でも世界美術史上最大の傑作といわれるミケランジェロの「最後の審判」が拝めただけでも幸いだ。
 

モニカ嬢とのデ−トの約束は午後一時なので、昼食をすませ近くの果物屋でバナナ、オレンジ、リンゴを買って待ち合わせの場所へ歩いて出かける。途中、すれ違った一人の若者が私の肩越しに何やらわめくので振り返って見ると、指にクリ−ム状のものがくっついているのを見せながら、これが背中についているとゼスチャ−で教えている。ややっ、典型的なスリの手口に出会ったぞ、と思いながら、それには動ぜず振り払って立ち去る。これには相手も手の出しようがなく、未遂に終わってことなきを得る。終始クリ−ムのようないい匂いが立ち込めていたが、後でホテルに戻って調べてみると、背中の部分に三十センチの長さにわたってピンク色のクリ−ムが塗り付けてあった。ポロシャツだったのでつまみ洗いすると、簡単に落ちるしろものである。見かけは好青年なのに困った輩だ。
 

コロッセオ
やっと彼女のホテル前にたどり着き、待つことしばし。時間が過ぎても出て来ないのでフロントにたずねると、すでに外出しているという。約束しているのだから戻ってくるに違いない、と思いながら待つこと三十分。それでも彼女は顔を見せないので、やむなく一人でコロッセオに出かける。ここは紀元八十年に完成した大きな円形闘技場で、当時は熱狂する超満員の市民の前で残酷な闘技が行われていたという。





円形闘技場コロッセオ
















 コロッセオの内部










場内を見下ろすと、今にも群衆の喚声が聞こえてきそうである。もしやと思って彼女の姿を追うが、どこにも見当たらない。こうして彼女とのデ−トはすれ違いに終わり、寂しくホテルへ引き上げることになる。


夜になって彼女から電話がかかってくる。今日の約束は一体どうしたのか、自分は決めた場所で三十分以上も待ったのにというと、そうではない、ホテルの近くのサンタ・マジョ−レ教会といったはずだという。よく考えてみると、彼女のホテル名が「ポルタマジョ−レ」と語尾が同じなので、どうもそれと聞き間違えたらしい。折角近くまで行ったのに、とんだ失敗をやらかしたものだ。今日はロ−マ最後の日、明日になると彼女はドイツへ帰り、私はヴェネツィアへ発つので、もう会える機会はない。行き違いになったおわびをいいながら、半月後ベルリンに立ち寄る際また電話することを約束して別れを告げる。素晴らしい思い出を与えてくれたことに感謝しながら……。
 

映画「ロ−マの休日」で王女のヘプバ−ンが宿泊先を抜け出し、グレゴリ−・ペックの新聞記者と束の間の楽しい休日を過ごしたように、私もまたモニカ嬢と出会って忘れ得ぬロ−マの休日を過ごすことができた。その幸せな満足感にひたりながら、ガイドブックに紹介されているヴェネツィアのロマンティックホテル「ホテル アッバツィア」へ予約の電話を入れてみる。ところが、あいにく満員で空いていないという。少し高いが、ム−ドのあるホテルに泊まろうと思ったのに残念である。


(次ページは「イタリア・ヴェネツィア編」です。)










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