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            NO.5




5.緑深き亜熱帯植物とコアラの街・・・・ ブリスベン
 
朝目覚めると、こぬか雨が降っている。でも、ホテルの前から空港バスが出るので心配無用だ。下着や上着シャツを夏物に着替え、七時五〇分発のバスに乗って空港へ。当分の間は上着が邪魔になるがしようがない。ブリスベン行きの飛行機は九時五分発である。預ける荷物はないからといってチェックインをすませ、しばらく待ち合わせた後搭乗しようとチケットを読み取り機に入れて通り抜けようとすると、「ソ−リ−・サ−」と係の女性が声を掛けてくる。「?」と不思議に思って振り返ると、「そのバッグをこのゲ−ジに入れて下さい。」というではないか。そこで、目の前に置いてある金網製のゲ−ジにバッグを乗せてみると、横が少しはみ出して中に入らない。それを見て相棒の係と何やら相談していたが、結論が出たらしく「OK」といって許可してくれる。
 

国内線の機内持ち込み手荷物の大きさは二十三cm×三十四cm×四十八cm、重さは四kg以内という制限があることは知っていたが、重さは六kgで横長が少しはみ出すぐらいだから大丈夫だろうと高をくくっていたのだが、やはり咎められてしまう。メルボルンを発つ時は何もいわれなかったから安心していたのだが……。よく注意してみていると、どの空港にも機内持ち込みの手荷物を計るゲ−ジが置いてあり、そこには「航行の安全と乗客の迷惑を考えて、このゲ−ジをオ−バ−する荷物は機内持ち込み不可。」と掲示してある。国際線と違って機種が小さいからだろうか。荷物を預けると到着してから受け取るまで最低二十分以上はロス時間が生じるのでもったないのだが……。
 

この国は何かとル−ルが厳しい。国内線はすべて禁煙席、空港も禁煙、バスの中は禁煙・禁飲食となっている。バスの運転手にそのことを話すと、「まるで監獄のようですね。」といっておどけてみせる。それでいて歩行者の交通ル−ル違反は当たり前で、車さえいなければ赤信号でもみんな堂々と渡っている。これは日本と反対だ。そんなことを考えながら出口に一番近い座席に座る。
 

隣席の婦人
隣席にはサン・サルバドル出身の中年婦人が座っている。彼女はスペイン語を話す人なつこい気さくなオバサンで、こちらといい勝負のたどたどしい英語で話が進む。相手が英語圏の人でないと、機関銃のようにペラペラと話しかけられないのでゆっくり会話ができる。話によると、シドニ−の友人のとろへ遊びに行った帰りだそうで、彼女の夫はブリスベンにあるサルバドルの在オ−ストラリア大使館員だという。当地に移動して二年になるそうだが、ブリスベンはサルバドルの気候とよく似ているので住みやすいという。本国の経済や治安の状況はよくないので、ここは安全で暮らしやすい。子供は三人で夫の両親と七人家族。英語の学校に通って勉強したが、なかなか上達できない。聞き取りはなんとかできるのだが、話すのが苦手だという。空港には夫が出迎えに来てくれているという。
 

ブリスベンの上空にさしかかると、南国らしい強烈な陽光を浴びながら欝蒼と茂る熱帯樹林が見えてくる。ここはもう南回帰線が走る熱帯地域なのだ。シドニ−から一時間でブリスベンに到着、さすがにムッとして暑い。夫人の荷物が多いので手伝いながら到着ロビ−へ出ると、彼女の言葉どおり家族そろっての出迎えだ。夫と子供三人に祖父という賑やかな出迎えで、私もみんなに紹介され挨拶を交わした後、別れを告げる。ここで時計の針を一時間戻して現地時間に合わせると、アンセット航空のカウンタ−へ行って次のフライトの時間変更がないかを確認する。
 

ホテルへ
ここの空港バスもホテルまで送り届けてくれるので有難い。シャンドン・インという名が示すように、ここは小さなお宿の感じで家族的な雰囲気が漂い、ヒスパニック系の世話好きで気さくなオバサンが取り仕切っている。「観光の申し込みは部屋でゆっくり考えてからいらっしゃいよ。」というオバサンの勧めを無視して、もらった資料を片手にいろいろ尋ねながら、その場で今日の午後と明日の観光を予約する。
 

案内された部屋はベッドカバ−をはじめ家具やクロスなど愛らしい花柄模様で統一され、いかにも若い女性が好みそうなメルヘンチックな雰囲気が部屋いっぱいに漂っている。天井には大きな羽根扇風機がゆっくりと回転していて、なんだか昔の外国映画に出てきそうな感じである。エアコン設備はないが、このファンで結構涼しく問題はない。テレビ・冷蔵庫はないが、一泊四千円で珍しくも朝食付きときているから割安である。そして、リビング室に行けばコ−ヒ−やティなどは飲み放題だし、共同の冷蔵庫もある。
 

アフタヌ−ン・ツア−
アフタヌ−ン・ツア−は午後一時半出発なので、それまでに洗濯をすませ近くのコンビニでポテトサラダとミルクを買ってきて昼食を取る。ベッドの上で食後のティを飲み、横たわって一服しているとそろそろ出発時間である。迎えのミニバスに拾われたのは一番乗りで、その後数ヶ所のホテルを回ってお客をピックアップする。そろった乗客は英国の老夫婦、マレ−シアから来た父子、米国・テキサス州から来たという若い女教師、それに若いカップルと私の八人だけ、こんな家族的な観光ツア−は滅多とない。新米女教師は国語とジャ−ナリズムを教えているという。


バスはまず市中心部を抜けてブリスベン川を渡り、対岸の市街地を一望できる小高い丘カンガル−・ポイントへ向かう。ここから眺める中心部の高層ビル群は少なくて、美しいスカイラインを描くにはちょっともの足りない。それだけ、こぢんまりとまとまった小規模な街なのだ。






ブリスベン市街・流れる川はブリスベン川









バスはそこから市街中心部へ戻り、さほど見るべきポイントのないブリスベンの街を一通りめぐり、クイ−ンズランド大学の緑したたるキャンパスの側を通り抜けながら、アフタヌ−ン・ツア−一番の目玉であるロ−ンパイン・コアラ保護区へと急ぐ。


この保護区はコアラを中心とした規模の大きい動物園で、欝蒼とした熱帯樹林の中にコアラ、カンガル−、ウォンバット、ワラビ−をはじめ、南国特有の極彩色の鳥類やワニ・ヘビなどのは虫類、それに大型コウモリ、モモンガ−などさまざまなオ−ストラリアの動物たちが飼育されている。ここには一〇〇匹を超すコアラが多数のコアラ舎で愛嬌を振りまいており、その数は全オ−ストラリアの動物園のコアラの数よりも多いといわれる。午後とあってか入園者も少なく、広大な園内はひっそりとしている。


早速コアラの区域に行くと、いるわいるわ大小さまざまの屋舎に多数のコアラが群がっている。相変わらず、ほとんどのコアラはじっと眠ったように動かない。一日二〇時間は眠るそうだから、起きているコアラはなかなかお目にかかれない。でも、これだけのコアラがそろうと、なかには珍しく立ち上がってユ−カリの枝を折り曲げながら食べているものも見かけられる。






枝を折り曲げるコアラ










一番大きなコアラ舎の前では、時々係員がコアラについてスライドによる説明を行っている。その途中、なにやら奇声が聞こえてくる。「ゴ−ヴィ−、ゴ−ヴィ−」という声のほうを見ると、なんとコアラが鳴いているではないか。あのヌイグルミのよ うなコアラにはおよそ似つかわしくないブタの鳴き声にも似た変わった声である。


その横手のほうでは、コアラを抱いて写るポラロイドカメラによる記念写真の撮影が行われている。これは有料で一枚七ドル(五八〇円)という。料金を払って写ると、後は自分のカメラで抱いているところを自由に撮ってもらうことができる。そうでないかぎり、他人が抱いているところを近くから撮影することさえ制止される。数人の客がコアラを抱いて写り終えると、他にはだれも人影がいなくなってしまう。


そこで、こちらも記念撮影を申し込み、七ドル払ってコアラと対面する。まず、持ち物はすべて置き台の上に置いて身軽になり、それからコアラを抱いて待つ少女レンジャ−の係のところへ進む。そして、両手指を組んでお腹の前で固定すると、その上にそっとコアラのお尻を乗せて抱かせてくれる。これは意外と重い。ずしりとした重量感とふかふかした毛の感触がいかにもアンバランスである。そこでポ−ズを決めてポラロイドの記念写真を撮り、さらに自分のカメラでスナップを撮ってもらう。オ−ストラリアのいい記念だ。写真の台紙には、「記念写真の収益は動物保護とコアラの研究のために使われます。」と書いてある。






コアラと記念撮影










ひとしきりコアラと戯れてから、次はカンガル−区域に行ってみる。フェンスで囲まれた広い芝生の中には五〇頭以上ものカンガル−があちこちに群れている。二重扉を開けて中に入ると、そこはカンガル−の世界だ。母親の腹袋から可愛い頭を覗かせている子カンガル−の姿が、なんともほほえましい。






親の腹から子カンガルーの頭がのぞく









広い園内をあちこち歩き回りながら、ウォンバットやワニたちと出会ったり、極彩色に包まれた珍しい鳥たちに見とれる。ふと金網の向こうを見ると、何やら真っ黒な塊が幾つもぶら下がっている。なんと、大コウモリが並んでお昼寝中なのだ。カラスのように真っ黒で、こんなに大型のコウモリは珍しい。                               






 黒コウモリの昼寝










ここでたっぷりと一時間近くコアラやカンガル−たちと過ごしてから、今度はボタニカル・ガ−デン(植物園)へ向かう。ここは広大な区域にトロピカル・ゾ−ンをはじめ、いろいろな地域の植物がゾ−ンごとに区分けされて群生しており、ジャングルのようになっている場所もある。その一角には日本庭園も設けられている。家族連れや若いカップルには格好のピクニック場所だ。少し歩いてみるが、その広さに圧倒され、暑さも加わってとても回れるものではないと断念する。


そこで、日本庭園まで行って憩うことにする。歩いていると足元に何やらうごめくものがいる。目をやると、そこにはシマ模様の大きなトカゲが歩いている。これは珍しいとカメラを向けてアングルを決めていると、十歳ぐらいの少年がやってきて「ちょっとすみません。あちらにもっと大きなのがいますよ。」と教えてくれる。「サンキュ−」といってそちらを見ると、なるほど四〇センチものが、のそりのそりと歩いている。ピクニックにやって来た親子四人連れが、そのすぐ傍でシ−トを広げて寝そべっている。そこから私の様子を見ていた両親が、そのことを私に知らせるようこの少年を走らせたのだ。両親の好意に礼をいうと、「ここにはもっと大きいのがいるんですが、今日は出てきませんね。」という。
               

      



 珍しい大トカゲ










ボタニカル・ガ−デンを後にしたバスは、展望台のあるマウント・ク−サへと向かう。ここに立つと、蛇行するブリスベン川に抱かれた市街地が遠くに一望できる絶好のポイントで、ロ−ンパイン・コアラ保護区と並ぶこの地の名所らしい。バスはここを最後に市中へと向かい、五時半過ぎに中心部へ戻り着く。夕食を取ろうと、中心街の近くで下ろしてもらう。 


 ブリスベン郊外の高台より市街地を望む(マウント・クーサにて)


ストリ−ト全体が歩行者天国でショッピングモ−ルになっているクイ−ン・ストリ−トに出ると、今日はあいにく日曜日とあってどの店も閉店休業で、人通りもほとんどなく閑散としている。食事処はマクドナルドのファ−ストフ−ド店が開いているくらいで、どこも閉まっている。ただ一ヶ所、通りのど真中に設けられている小さなレストランだけが営業している。近寄ってみると陳列ケ−スに焼き飯が見える。そこでトマトサラダと焼き飯、ビ−ルを注文し、やっと夕食にありつく。客は他に一組いるのみでガラ−ンとしている。「この焼き飯は、なかなかうまいですよ。」とウェイタ−にいいながら店を出ると、やっと日が暮れ始めた人気のないストリ−トを、宿のあるアッパ−・エドワ−ド通りへ向けて一人テクテク歩き始める。



(次ページは「ゴールド・コースト編」です。)









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