NO.4





フェリ−・クル−ズ

二日目。空は晴れて雨の心配なし。そこで、今日の市内観光について集めたパンフレットを参考にあれこれ検討し、結局、一番安上がりのフェリ−・クル−ズを楽しむことにする。これは州が運営する公営のもので午前と午後のクル−ズがあり、いずれも二時間半のコ−スで費用も一、三〇〇円と安い。昨日の夜の観光で市内はほぼ観光できたので、今日は海上から世界の三大美港の一つといわれるシドニ−港を巡ってみよう。



 三大美港の一つ、シドニー港の眺め


午後のクル−ズは一時出港でシドニ−港とその外港周辺を巡るコ−スである。朝はゆっくりと起きて朝食をすませ、波止場に行くバスの乗り方を聞いて出かける。シドニ−の海の玄関口サ−キュラ・キ−は各方面へ向かうフェリ−やクル−ズの発着点になっている。それだけに、この波止場は大勢の観光客や利用客で賑わっている。周りには飲食店や土産品店などが並び、広場では大道芸人たちがいろんな小道具仕立てでパフォ−マンスを披露している。適当な昼食場所を探しているとパスタ料理が目にとまり、海岸べりに設けられた赤いパラソルの開くテラスで昼食をとる。






サーキュラ・キーの波止場










乗船チケットを購入したが、出港までまだ一時間もある。そこで母娘に便りを書こうと近くの店でシドニ−の美しい絵葉書を選んで求め、ベンチに腰掛けてペンを執る。そうするうちに出港時間が迫り、便り書きを中断して目の前の四番桟橋へと急ぐ。


一時に桟橋を離れたフェリ−ボ−トは、目の前にハ−バ−・ブリッジとオペラハウスを見ながらゆっくりと港外へ進み、美しいグリ−ンに覆われたロイヤル・ボタニック・ガ−デンを眺めながらエリザベス・ベイ、ダブル・ベイ、ロ−ズ・ベイ、ワトソン・ベイと沿岸沿いに航行していく。オペラハウスとハ−バ−・ブリッジを懐に抱えているようなシドニ−港を海上から眺めると、ブル−の空と海に溶け込んでそれがまた一段と美しい。


 シドニー港を海上より望む






海上から見た中心街とハーバーブリッジ









海岸沿いのゆるやかな斜面は郊外の高級住宅街になっていて、瀟洒な家が建ち並んでいる。その途中、ビ−チが出てきたので目を向けるとなんと素っ裸の男女がのんびりと日光浴を楽しんでいるではないか! フランスのニ−ス海岸ではトップレス女性の日光浴風景に出会ったのだが、ここは珍しいヌ−ディスト・ビ−チなのだ。


船は進路を変え、今度は対岸の何キロも深く入 り込んだ湾岸沿いに進んでいく。途中、珍しい開閉橋を通り抜け、左右のデッキ間を行き来しながら両岸の変化に富んだ景色を眺め過ごす。やがて再びもとのコ−スを引き返し、出発点へと戻り始める。ガイド役のオジサンは客室の一角に腰掛けてマイクを持ち、乗客と一緒に窓外の景色を追いながら逐一説明を加えていく。こうして二時間半のクル−ズは無事終わりを告げ、サ−キュラ・キ−の桟橋に接岸する。
 

上陸すると再びベンチに腰を下ろし、書き残しの便りを書き始める。書き終わって切手を買おうとあちこち近くの店を尋ね歩き、やっと九〇セントの切手二枚を手に入れる。聞いたとおりの場所にポストはあったのだが、同じものが二つ並んでいる。近隣と遠隔地域の郵便物を区分けしているのかと表示を見てみると、どちらも同じ内容で州内区域と州外区域の到達予想日数のことが書いてある。なのにどうしてポストが二つも並んでいるのだろう、と首を傾げながら葉書二枚を投函する。
 

ホテルへ引き返そうとキングス・クロス行きのバス停を尋ねて乗車すると、今度の運賃は二ドル六〇セントという。来る時と同じ料金だろうと思ってコインを用意していると、その倍額近い料金である。どうしてこんな不合理なことが、と文句いいたいところをぐっと抑えて支払うことにする。地図を見ながらコ−スを確認していくと、往きとは反対の海岸沿いのル−トを走って遠回りしているではないか。なるほど、これでは距離も時間も倍以上かかるはずだと納得する。とまれ、無事ホテルに帰着。一息入れてから、今度は夕食へ。


夕 食
気に入った料理の店がないので、今夜はケンタッキ−・フライド・チキンに寄ってみよう。表示盤の値段を見ると一個売りのチキンを四個買うのよりも、「ホウル・バ−ベキュ−」のほうが割安になっている。どんな代物か分からないけど、これを買ってみようと注文する。これと一緒にフライドポテトとファンタオレンジも注文する。値段は全部で八〇〇円。「テイク アウェイ?」と尋ねるので、「いや、ここで食べます。」と答える。すると「二つに分けますか? それともまるごとですか?」と聞くので、分からないままに「二つに分けて。」と答える。


やがて持ってきたのは、なんと一羽丸ごと焼いたチキンではないか! その分量に圧倒されて思わず、「この半分は持ち帰りにして下さい。」と頼むと、「ここで食べるといったでしょう?」とやり返してくる。そこで「半分はここで食べるんですよ。」といい返すとだまって引っ込み、箱に入れて持たせてくれる。誰もいない二階の窓際に座ってダ−リングハ−スト通りの賑わいを眺めながら、半羽のチキンを時間をかけてようやく平らげる。


残りの半羽を持ち帰りながら、やれやれ明日の夕食もこれにしなくちゃいけないのかなあ、と注文の失敗を悔やむことしきりである。帰り道、地下にある大きな食料品ス−パ−を発見。そこで明日の朝食用にド−ナツ、ミルク、ハムとリンゴ一個を買って帰る。
 

ブル−マウンテン1日観光
三日目。朝八時、予約していたブル−マウンテン一日観光へ出発。今日に延ばしたかいあって空は雲一つない快晴で、絶好の行楽日和である。ピック・アップ・サ−ビスのミニバスに乗って観光バスのタ−ミナルになっているサ−キュラ・キ−まで行き、そこで大型バスに乗り換える。バスはモノレ−ルの走るダ−リング・ハ−バ−地区を通り抜け、ハイウェイに乗って郊外へと向かう。ブル−マウンテンは市中から西へ一〇〇キロほど離れた丘陵地帯で、グランド・キャニオンに似た峡谷や滝など変化に富んだ風景が見られる。でも高いところで千メ−トル前後で、山というよりも高原の感じである。


このバスには日本人の親子夫婦四人とブリスベンの大学で一年間の交換留学が終了したばかりという岡山出身の青年が乗り合わせている。親子カップルのほうは、以前シドニ−で半年の留学経験を持つという息子嫁の案内で来たそうで、現役の父親ともどもなんとか休暇を取り合わせて短い旅を楽しんでいるという。青年のほうはちょうど一年の留学が終わったところで、その暇を利用して周遊しているという。また、すぐ後ろの席には英国から来たという老夫婦が座っており、いま六十一日間の長期旅行中でアメリカ、ニュ−ジ−ランド、オ−ストラリア、ホンコンと回って帰るのだという。
 

一時間足らず走って、まずはワイルド・ライフ・パ−クに到着。すると、子供のコアラを抱いた少女レンジャ−がバスの中までやってきて歓迎の愛嬌をふりまく。ここはコアラ、カンガル−、ワラビ−、ウォンバット、フェアリ−ペンギンなど、オ−ストラリア特有の動物たちを集めた動物園なのである。ここでは四〇分の見学時間で、案内図を片手に早速コアラ舎のほうへ急ぐ。                    


コアラは幾つかの屋舎に分散されており、ユ−カリの木の枝にはぬいぐるみのようなコアラがじっととまって眠ったように動かない。コアラの実物を見るのは初めてだが、どの屋舎も胸の高さぐらいの囲いがあるだけで金網や窓もなく開放されているのには驚く。でも、どうして こんなにじっとうずくまって動かないのだろう。その様子を見ていると、こちらまでのんびりと怠惰な気分にさせられてしまう。バスの運転手が「コアラに触れるときには、背中を触って頭には決して触れてはいけまん。」と注意していたのだが、これでは手が届く心配もない。






木の枝でじっと眠るコアラ










コアラを抱かせてくれるらしいのだが、その時間が決まっているらしく所定の場所には係員の姿もコアラもいない。その後はカンガル−やウォンバットなどを見て回る。カンガル−の体躯は意外と小さく、飼い馴らされているのか人なつこく近寄って逃げようともしない。このパ−クはそれほど大きい規模ではなく、飼育されている動物も少ないようだ。日本人の観光団体も結構入園している。
 





ワイルドライフ・パークのカンガルー










バスは再びブル−マウンテンへ向けて走り出す。カトゥ−ンバの町にさしかかったところで昼食のための休憩である。ランチ付きのコ−スを選んだグル−プはレストランへ案内され、それがない親子カップルと私の五人だけが自前の昼食となる。そこで一緒に連れだち、近くの商店街へ出かけてこぢんまりしたレストランを見つけ昼食をとる。手頃なポテトサラダが並べてあるので、これとミルクでランチにしようとワンパックを注文すると、これは持ち帰りのみで店内では食べられないと厳しいことをいう。仕方なくテ−ブルに着いてメニュ−を見ると、まだ空いていないお腹にはどれも多すぎる感じなので、一番安いケ−キとミネルウォ−タ−を注文する。四人家族のみなさんは注文した肉料理を持て余し気味で、若い息子さんが頑張ってみんなの分の処理係を務めている。
 

腹ごしらえを終えた一行のバスはエコ−・ポイントへ向かい、そこでノコギリの歯のように三つ並んで切り立つスリ−・シスタ−ズという奇岩と対面。その後、スケ−ルの大きさではグランド・キャニオンにはかなわないが、それをほうふつさせるミニ・グランドキャニオンの大峡谷を眺めながら空中ケ−ブルやトロッコ列車の発着所に出る。ここでゆっくり時間を取り、みんなケ−ブルやトロッコに乗って峡谷の素晴らしい大景観を満喫する。






シドニー郊外ブルーマウンテンのミニ・グランドキャニオン









折角だから空中ケ−ブルのチケットを買って乗ってみる。谷底から三〇〇メ−トルほどの上空に張り渡されたケ−ブルにぶら下がって、ゴンドラは静かに進んでいく。ひやっとするスリルと眼下に広がるパノラマ大景観に、思わず「ワ−ッ、スゴ−イ!」と日本人乗客の歓声があがる。目前の断崖には二本の滝が白く長い糸を引いている。向こう側の断崖の上に上がれるのかと楽しみにしていると、ゴンドラはその手前で止まり再び引き返し始める。な〜んだ、ただ五〇〇メ−トルほどのケ−ブル上を折り返すだけなのだ。これには少し失望する。
 

一方のトロッコ列車は同じ場所から発車するのだが、これが世界で最も急傾斜といわれる斜面を走り下るもので、その車上から峡谷の景観を眺望しながら再び戻り上がって来ることになっている。このほうは遠慮して、今度は英国の老夫妻と森の道を抜けてスリ−・シスタ−ズの展望台へと足を向ける。歩き始めるとかなりの距離があるようなので途中の展望台まで行って断念する。


ここで夫妻の写真を撮ってやると、そのポ−ズのとり方がしゃれている。二人ともカメラのほうを向かず、峡谷のほうを向いてプロフィ−ルを見せるのである。いかにも自然のスナップを撮ってもらおうというその心憎いまでの演出に思わず微笑んでしまう。外国人ならではのしゃれた感覚で、このテクニックはイタダキものと心に決める。
 

その後バスはカトゥ−ンバの町を通り抜け、美しいブル−マウンテン一帯のなだらかな丘陵地帯を周回しながら帰路に着く。やがて視界いっぱいにのどかな果樹園が開けて来ると、アフタヌ−ンのティ−タイムを取るために近くのフル−ツ・ボウルで小休止する。小さなフル−ツショップなのだが、採れたての新鮮なオレンジ、モモ、リンゴなどや加工品を売っている。汗ばんで喉も渇いているので、早速一個ずつ買って試食してみる。モモは小つぶで日本のそれとは比較にならないが、ここのオレンジはなかなかうまい。そこでオレンジ二個を買い足し、今夜のデザ−ト用に持ち帰ることにする。


 ここを最後にバスは市内に向けてひた走り、ハ−バ−・ブリッジを渡って帰着したのは午後六時である。夕食は昨夜の残りのチキンですませようと、それには欠かせない冷えたビ−ルを一本買って帰る。シャワ−を浴び、汗ばんだ下着の洗濯をすませ、さっぱりした気分になったところでチキンとビ−ルの夕食を始める。デザ−トはもちろんオレンジとリンゴである。テレビの天気予報を見ると、これから周遊する予定のブリスベン、ケアンズ、エア−ズロックの気温はすべて三〇度以上となっている。特にロックなどは四〇度近くもある。これでは春の気温から一気に真夏の世界へ移動することになり、明日からの旅が思いやられる。今日でシドニ−ともお別れだ。



(次ページは「ブリスベン編」です。)










inserted by FC2 system