N0.8
(&ルクセンブルク)




ジャンネケ・ピスの小便童女
折角だから、話の種に1987年になってお目見えしたというジャンネケ・ピスの像を探して見に行ってみよう。これは小便小僧を意識して造られたのだろうが、小さな女の子が小便をしている像だという。それを聞くと、みんなはどんな姿を想像するのだろう? そんなことを思いながら広場を横切り、ショッピングア−ケ−ドのギャルリ−に入って、その途中から先夜夕食をしたあの狭いレストラン街を通り抜けて行く。
 

その途中で、ある海鮮料理店の店頭に見事なまでに魚介類でレイアウトして絵画のように仕立てあげたディスプレイが目に留まる。あまりにきれいなので、一言断って写真に撮らせてもらう。前にも述べたように、この通りには海鮮料理の店が多く、それらの店ではそれぞれに工夫をこらしながら、競うようにディスプレイ模様を作り、人目を引くようにしている。私が見比べた範囲では、この写真の店の作品が頭抜けて見事な仕上がりになっている。
 





魚介類で見事に模様を描いたディスプレイ









ここを通り抜けてしばらく直進すると、右側に入る道幅2mほどの狭い袋小路がある。ここのはすだがと思って路地に入っても、ピスの像らしきものがどこにも見当たらない。そこで、店の人に尋ねると、その奥だと言う。だが、指差すその奥には何も見えない。不思議に思って進んで行くと、路地の奥まったどん詰まりに当たる右側の壁面に、それをくり貫いて像が置かれている。これでは隠れて見えないはずだ。だから突然現れるので驚いて眺め入ることになる。 


像を一目見るなり、これはいただけないなあと言うのが率直な感想である。素裸の女の子がしゃがみ込んで放尿する姿なのだが、いくら童女とはいえ、真正面を向いているだけに目のやり場に困ってしまう。大人の男性の不純な考えがそういう気にさせるのだろうか? これでは小僧のように愛嬌もなく、ただ「ちょっとこれは……」といった困惑の気持ちがわいてくる。 








 見るのにちょっと気が引ける
 ジャンネケ・ピスの像














小便小僧の印象とはあまりにもかけ離れた感じで、果たしてここまでしてピスの像を作る必要があったのだろうか。それは作らずもがなの観さえある。作者の意図が奈辺にあるのか分からないが、それが小便小僧のパロディだとすれば、あまりにも的外れの感じがしてならない。こんなことを言うと、作者に怒られそうだが……。この像を訪れる人は、みんなどんな思いを抱いて帰るのだろう。


グラン・プラス
再び広場に戻り、今度はじっくり周囲の建物を鑑賞することにする。全面石畳になっている広場の中央にたたずみながらゆっくり眺め回すと、それぞれが建築の粋と趣向を凝らして造り上げたという感じで、その競い合う姿はまさに壮観である。まず南のコ−ナ−に立って西面と北面を眺めて見る。西面側には割りと細い建物が6棟並び、その昔はパン屋、油商、樽屋、射手、船頭、小間物商などの各同業組合(ギルド)が集会場として利用していたという。現在はカフェ、旅行社、銀行などが入っている。
 

北側面に目を移すと、その中央にひときわ大きく目立つ華麗な建物が左右に並ぶ建物を従えるかのように建っている。これが「王の家」で、実際には王様は住んだことがない名ばかりの建物である。中世時代には新教徒を監禁する牢獄としても使われたそうだが、今は市立博物館になっている。この3階には世界各国から小便小僧へ贈られた衣装のコレクションがあり、その中には日本からのものもあるという。他の建物には現在、チョコレ−ト屋、レストラン、カフェ、コ−ヒ−ショップなどが入っている。 




 左側が西面、右側が北面。右側の中央ブルーの高い優雅な建物が「王の家」




今度は位置を変えて北のコ−ナ−に立ちながら東面と南面を眺めてみる。東面側にはブラバン公爵の館と呼ばれるコロサル様式の大きくどっしりとした館が建っている。この東面にはこの黄金色に彩られた建物だけが塞ぐように建っているのみである。昔は仕立屋、製粉業、大工、スレ−ト採取工などの各同業組合が利用していたという。今はチョコレ−ト博物館、ホテル、レストラン、事務所などが入っている。
 

南面側に目を移すと、屋根の中央からにょっきりと突き出た高い塔を持ついちばん目立つ建物が迫ってくる。これが広場の中心的存在となっている市庁舎で、フライボワイヤン様式の絢爛たる建物である。最初は1402年に建てられ、その半世紀後になって右翼が増築されたり、中央の塔が造られたりしている。各国語によるガイドツア−によって内部見学もできるようになっている。
 

市庁舎の左側には5棟の建物が建っているが、その昔は酒場、肉屋、なめし革、じゅうたん販売業、ビ−ル製造業などの同業組合が使用しており、現在はビ−ル博物館、レストラン、カフェ、宝飾店などが入っている。



 左側が東面、右側が南面。左端の大きな建物がブラバン公爵の館。右側の高い塔がそびえる建物が市庁舎。




この石畳の長方形の広場は、こうした大小さまざまの建物群に四面を囲まれ、それらが渾然一体となって中世独特の趣を広場全体に醸し出している。これらの建物は1695年、フランスのルイ14世の命で砲撃され、市庁舎を除いてそのほとんどが破壊されたという。しかし、その後各同業組合は、あっと言う間に現在の石造りの建物を再建したという。この壮麗な建物群が、再び戦火で破壊されることのないよう祈らずにはいられない。


チョコレ−ト博物館
広場の鑑賞を終えたところで、今度はブラバン公爵の館にある「チョコレ−ト博物館」に行ってみる。入場料4ユ−ロ(=560円)を払って中に入ると、チョコレ−トの匂いが部屋いっぱいに漂っている。ふと見ると、小さな機械がきれいな生チョコを流しながら回転している。






右手前円形の機械から生チョコがエンドレスに流れ出ている。








珍しそうに眺めていると、係がやってきて「召し上がりますか?」と尋ねるので、「もちろん!」と答えて賞味することにする。小さなウエハ−スを取り出すと、それに流れ出ている生チョコを流してコ−ティングする。そしてその端を手が汚れないように紙で包んで渡してくれる。こうして生チョコを食べる機会は珍しい。このテイスティングも入場料金のうちなのだ。さすがはチョコレ−トの本場だけあって、なかなかいい味をしている。
 

フロアの目立つ所に、何やら異様な物が大きなブル−のリボンを掛けられて安置されている。それはでかい玉子型をしたもので、色は純白である。触ってみると、がちがちと硬くて重そうである。そこで係に尋ねると、なんとそれはチョコレ−トを固めた物で、さらに外側を砂糖で固めたものだと言う。この大きさから見ると、かなりの分量のチョコを使っているに違いない。謎が解けたところで、もう一度触ったり、叩いたりしながら珍しそうに眺め入る。
 







この白くデカイ玉子の塊が全部チョコ















部屋の奥には各種のチョコレ−トが陳列され、買うこともできる。小粒の食べやすそうなチョコがばら売りされているので、それをお土産に買おうとすると、長時間の保存には不向きで溶ける恐れがあるという。それではあきらめるより仕方がない。
 

別のコ−ナ−にはチョコを造る昔の器具や機械が展示され、またビデオでその歴史や製法が放映されている。2階にも展示場があると言うので狭い階段を上って行くと、その一角に衣装の展示室がある。ドレスを着た女性マネキンやチョッキを着たネクタイ姿の男性マネキンが数体立っている。これはなんだろうと何気なく眺めていると、なんとそれらはチョコで作られた衣装なのである。普通の布地で作った衣服と見まごうばかりの見事な出来栄えである。これには舌を巻いてしまう。
 





チョコで作られた衣装










さらに奥の部屋に入ると、そこにもさまざまなチョコを使った面白い作品が展示されている。網状のハット、鳥の羽であしらったハット、クモなど、チョコを素材にした見事な作品ばかりである。何の先入観もなしに見ると、これらがチョコでできた物とは誰にも分からないだろう。大した博物的な展示はないが、チョコレ−トへのベルギ−の人たちの思い入れが垣間見られた感じを持ちながら博物館を後にする。


 チョコで作られたハットなどの芸術作品


ビ−ル博物館
次はビ−ル博物館を見学してみよう。ビ−ルと聞くとなんとなくそわそわしてくる。南面の市庁舎に隣接する5棟の建物のうち、その真中がビ−ル博物館になっている。この建物は昔、ビ−ル製造業者のギルドとして使われていたそうで、博物館はその地下になっている。狭い階段を下りて天井の低い部屋に入ると、目の前には大きな木の樽が並んでいる。かなり古い時代の醸造樽なのだろう。その他にもいろいろな醸造用の小道具が展示されている。
 





中世時代のビール醸造樽









入場料は要らないのだろうか? と思っていると、部屋の片隅にある小さなバ−から老係員が出てきて、「帰りには必ずこのバ−に立ち寄ってください。入場料3ユ−ロ(=420円)は、その時で結構です。」と、いかにものんびりム−ドの応対である。こんなところに、この博物館らしいのどかさが感じられる。
 

部屋の奥では、ベルギ−ビ−ルの歴史などがデ−タ検索ができるようになっている。部屋の中央にはベンチがあり、そこに座って一息ついてから楽しみのバ−へ行ってみる。狭い部屋にはテ−ブル、椅子がセットされ、人懐こい老マスタ−が1人で切り回している。小さなテ−ブルに着くと、マスタ−がビ−ルをグラスに注いで持ってくる。この1杯のビ−ル代が入場料3ユ−ロに含まっているのである。
 

あちこち歩き回って良い具合に乾いた喉には、この1杯のビ−ルは喉にしみ入るようである。いつ飲んでも、ベルギ−ビ−ルはうまい。彼の話では、日本人客が結構多いと言う。日本人は地球上のどこでも歩き回っているから、出会わない所がが珍しいくらいである。また、それだけに犯罪に遭遇する頻度も多くなるのはやむを得ないことなのかもしれない。


夕食は毎度の中華料理で
ビ−ル博物館で喉が潤ったところで、目と鼻の先のホテルに引き上げ、一休みすることに。この点、近くて非常に便利である。この時季の日は長く、日暮れがなかなかやって来ない。だから、夜の時間帯になってもゆっくりと過ごすことができる。しばらく休んだ後、夕食に出かける。6時半というのに、外はかんかん照りで夕暮れの気配さえ感じられない。行き先は、今夜もお決まりのあの中華料理店である。そこがなかなか気に入ったからである。
 

例のギャルリ−を通り、その途中から海鮮料理店の並ぶ路地に入ると目指す中華料理店がある。店内に入ると、馴染みのウェイタ−が顔を見せない。尋ねてみると、今日はお休みで映画を見に行っているという。映画館がこのギャルリ−の通りの中にあるのだ。今夕の注文は、ヤキソバとワンタンス−プ、それにビ−ルである。どの料理も満足のいくもので、お腹を満腹に満たしてくれる。
 

夕食が終わると、今日の予定はすべて終わり。明日はルクセンブルクへ移動の日だ。果たして、どんな世界が待っているのだろう? ときめく心を抑えながら眠りに就く。



(次ページは「ルクセンブルク観光編」です。)










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