N0.10




国立故宮博物院
衛兵交替式の見物が終わると、次は国立故宮博物院の見学に向かう。ここは台北市北部の山裾に抱かれながら静かに建つ広大な博物館で、世界の4大博物館(大英博物館、ルーブル美術館、メトロポリタン美術館)の一つとされている。



   壮大な故宮の建物




その歴史をたどれば、中華民国政府が歴史的遺産の保護にいかに心血を注いだかがうかがえる。そもそも故宮博物院は1925年、紫禁城宮殿内で清朝が所蔵していた美術品などを一般公開したのが始まりとされ、当時の所蔵品総数は117万件を超えていたという。


その後1933年、日本軍の進攻により、それから守るため蒋介石の中華民国政府は重要文物を南京へ疎開させたが、さらに危機が迫ったため四川省へ避難させる。第二次大戦後、所蔵品は南京・北京に戻されたが、中共との内戦が激化し、不利な形勢となった中華民国政府は、故宮の所蔵品を精選して台北へと運んだ。こうして現在、元来の故宮博物院の所蔵物は中国の首都・北京と遼寧省の省都・瀋陽故宮、そして台湾の台北の3ヶ所に分かれて展示されている。ガイド氏の話によると、北京には移転が困難な重量物が残されているという。


台北の故宮博物院には書、絵画、玉、陶磁器、工芸品、青銅器など約61万件の所蔵物があり、これが3ヶ月ごとに展示品の入れ替えが行われて、すべての所蔵品を見るのには約8年もかかるという。  


本日はガイド氏の案内で食器・酒器、武器などの青銅器、陶磁器類を中心に見学して回る。知恵と工夫が凝らされて精巧に作られた数々の遺物に舌を巻きながらじっと見入る。イヤホンを使用するので少し離れても説明が聞こえて便利である。館内では撮影禁止となっているのが残念である。


館内はどこも見学者で混雑状態であり、隣のガイドの説明の声と重なって喧騒そのものである。我らがガイド氏は日本の諺などをはじめ日本のことを良く知っており、各展示物の説明の終わりには必ずといっていいほどオチをつけて皆を笑わせる。それが外国人のガイド氏が日本の諺と関連づけるので余計に面白く、思わずくすくす笑わずにはいられないのである。


展示物が3ヶ月ごとに入れ替わるので解説も大変だろうと思い、後で本人に尋ねてみると、入れ替わると博物院に出向いて下調べをし、どの展示物を案内するか、そして、どんな風にオチをつけたら面白いかも研究するのだという。なかなか熱心なガイド氏である。


この故宮院は2001年より大規模な耐震・改装工事が行われ、館内の一部が閉鎖されていたそうだが、2006年末に完了し、2007年2月よりリニューアルオープンし全館が一般公開されている。


院内には数軒のレストランやカフェがり、また展示遺物に関連したミュージアムショップが4軒ある。一番大きなメインショップは本館の地下1階に、本館1階と図書文献館にもコーヒーショップを併設したミニショップが、そして本館2階にもミニショップがある。


正面入口横には無料の手荷物預かり所がり、無料ガイド(中国語・台湾語・英語のみ)が午前と午後に行われている。開館時間は午前9時〜午後17時(入場は4時半まで。土曜日は午後8時まで)で、年中無休となっている。観覧料は一般160元、学生80元となっている。(2007年11月現在)


ウーロン茶の入れ方
こうして約2時間の故宮見物は終わりとなり、その後は茶店へ移動してショッピングの時間となる。ここは各種のお茶を並べた専門店で、ここでお茶の立て方を教わる。ベテランの女性が数種類のウーロン茶を入れて試飲させてくれるのだが、その立て方を見ていると、最初に急須にお湯を注ぎ、軽く煎じ出た一番茶を注ぎ出して捨て去る。それからおもむろに2回目のお湯を注ぎ、いわゆる2番茶を飲むという手順である。


女性のお点前を取り囲むようにして腰掛け、前のテーブルに並べられたドライフルーツをつまみながらお茶をいただく。数種類のお茶を入れてくれるのだが、これはもちろん商品の宣伝が目的である。ウーロン茶は台湾の3大おみやげの一つに挙げられるだけに、本場の味は結構なものである。だが、値段が高価なだけに、そう簡単に手が出るものではない。








 テーブルには各種の
  ドライフルーツが並ぶ

















夕食は石焼鍋
お茶の試飲会が終わると、この建物の1階にある食堂へ移動する。すでに午後5時半を回っていて、夕食時である。今夕はここで石焼鍋の料理をいただく。円卓に着くと、中央には分厚い石造りの大鍋が用意されていて、それに山のように野菜その他の具材が盛り込まれている。これをガスの火でぐつぐつと炊きあげ、それを皆でつぎ分けていただく。多種類の具材から出たスープがいい味を出している。


ひととおり食べあげると、今度は鍋の中に麺を入れて炊き始める。麺好きの私には、これがひとしお美味しく感じられる。これを食べあげると、最後は雑炊である。日本でも鍋料理の最後には雑炊をつくって終わるのだが、ここでも同じやり方である。ご飯を鍋の中に入れてしばらく炊くと、雑炊の出来上がりである。やけどしないように、ゆっくりと冷ましながらいただき、料理のしめくくりとする。


石焼鍋。麺を入れて煮ている。


最後は雑炊でしめくくる

圓山大飯店の見学
夕食が終わると、あとは宿泊ホテルへ向かうばかりである。ところがその途中、前述した超高級ホテル・圓山大飯店に立ち寄ることになる。というのは、一行の中の1組がグレードアップして今晩の宿にここを指定しているのだ。これは絶好の機会とばかりに、カップルにお供して便乗見学をさせてもらうことに。


バスは電光飾に輝く中国風の大門をくぐり抜けて玄関ポーチに到着。ホテルマンの出迎えを受けて玄関を通り抜けると、眼前には赤絨毯を敷き詰めた広大なロビーが広がっていて圧倒されてしまう。う〜ん、さすがに世界的なホテルであることには間違いなさそうで、その豪華絢爛ぶりはさすがである。外観も中国風の建物だけに、内装や装飾もすべて中国風に統一されている。


赤絨毯が敷き詰められた豪華なロビー

ロビーを通り抜けて奥へ進み、中央正面の幅広い階段をゆっくり上って踊り場に立つ。そこからロビーを見下ろすと、穏やかな明かりの中に浮かび上がった朱色の空間が静かに広がって、来客を優しく包んでいる。ここは昼間より夜のムードの方がよさそうだ。


二階踊り場から眺めたロビー

この様子では、トイレもさぞかし豪華な設備だろうと、ロビー横手にあるトイレに入って検分する。ところがである。予想に反して、なんとその設備の貧弱なことよ。スペースは狭くてデラックス感もなく、平凡極まりないのである。ロビーの豪華さと比較して、大きく見劣りのするトイレに失望して引き返す。


ホテル玄関前の中国風門

翌日、宿泊したカップルの話を聞くと、室内装飾や調度品が豪華で天井の装飾が印象的だったと語っている。果たして、どんな夢を見られたのだろうか?



 ホテル玄関前広場から眺めた台北市街の夜景




101ビル見物
バスは圓山大飯店を後にすると、今夜の宿・リバービューホテルへ向かう。今夜はこれから大事な行動計画がある。それはツアーの日程には組まれていない101ビルの個人見物である。台湾へ来たからには、このビルに上らずして帰国は考えられないと意気込んでいる。チェックインが終わって部屋に荷物を置くや否や、再び玄関に出て車に飛び乗る。帰途につこうとする我らが小型バスに便乗して101へ向かう。


このビルはギネスブックにも登録されている世界一ののっぽビルで、信義区にある超高層ビル。その高さ508m、地下5階・地上101階からなるこのビルは、7年間の工期を経て、2004年の秋に世界一の超高層建築物として竣工したそうだ。施工は日系企業が中心で、地震や台風の多い台湾だけに防震、暴風対策に力を注いだ設計になっているという。101階ということから、そのビル名が付いている。このビルは主に金融・IT企業などが入るオフィスとなっている。


ビルの玄関前に到着すると、見上げる夜空に電光飾に彩られたビルの塔が立ちふさがるようにそびえていて、その先端は夜の闇に消えて見えない。








 そびえる101ビルの夜景
















展望台へのエレベーターは5階にあるというので、まずは広々とした玄関ロビーに入ってエスカレーターで上り始める。5階までの各階はショッピングモールやレストランなどの施設が並んでいる。各フロアーには様々な高級ブランド品を並べたおしゃれなショップが並んでおり、フロアーに下りては半周して、また次のエスカーレーターに乗るといった具合である。


101ビルの1階ロビー

どうしてこんな手間暇がかかることをさせるのだろう? なぜ1階にエレベーターが設置されていないのだろう? そんな素朴な疑問がわくのだが、よく考えてみると、これは商業政策上のことなのだ。つまり、入場者のほとんどが1階からエレベーターで展望台へ上ってしまえば、5階までのショップはすべて素通りされてしまうことになり、商売にならないと言うことなのだろう。これはどこでも採用されている常套手段なのだ。


こうしてエスカレーターの乗り継ぎを繰り返しながら5階まで上りあがる。このフロアーに展望台行きのエレベーターがあり、その入場チケットが売られている。料金は大人350元(約1400円)、12歳以下の子供320元である。現在の時刻は夜の8時ごろだが、人出はそれほど多くなく、割りと空いている。


チケットを購入して、いざエレベーターへ。内部はやや広い空間になっており、案内嬢と一緒に乗り込む。やがて振動もなく上昇し始めると、室内の照明が落とされて暗くなる。おやおや?と驚いていると、プラネタリュームさながらに見上げる天井には見事な星空の演出がなされている。流星が流れ、天の川がきらめき、北斗七星も見える。う〜ん、なかなかやる〜と、その素敵な演出効果に目を奪われる。


演出効果満点のエレベーターの天井の星座

側面には階数電光板があり、エレベーターが上昇していくスピードが分かるようになっている。それを見ていると、あれよあれよと言う間に89階の展望台まで、わずか37秒で上りあがってしまう。これは世界最速のエレベーターだそうだが、これも世界初となる気圧制御システムが設けられているので、耳の異常感はほとんど感じない。この優れたエレベーターは、なんと日本の東芝製なのだ。









 エレベーター内には階数電光板が















89階でエレベーターを降りると、周囲全面が大きなガラス張りになった円形大展望台のスペース空間が広がっている。ここから眼下に広がる大景観を俯瞰できるようになっている。このフロアーでは無料の音声ガイド機が貸し出されており、日本語版もあるので、これを聞きながら眼下に広がるパノラマ景観を見下ろすことができるのである。(音声機の貸し出しには身分証明か1000元を預ける必要がある)


これを借りてイヤホーンを耳に当て、案内を聞きながら眼下に広がる台北の夜景に眺め入る。街の灯りがいやに小さく見える。展望台があまりに高くて景色が遠過ぎるせいだろうか? それとも灯りが少ないのだろうか? そのためか、100万ドルの夜景とまではいかないようだ。ここには数台の望遠鏡が設置されているので、これを利用すると迫力のある夜景が見えるのかもしれない。この音声ガイドは幾つかに区分けされた展望区域に従って順次案内が切り替わるようになっている。一周の展望を終わるのに10分以上はかかる。 


89階の展望一周を終わるとイヤホーンを返却し、さらに91階(高度390m)の屋外展望台をめざす。ここへ上るには、さらに100元(400円)の追加料金が必要だ。これで合計450元の料金となる。チケットを買うと、今度は徒歩で階段を上って行く。わずか2階分の階段を上るだけだから、少しも疲れることはない。出口の所には係員がいて誘導してくれる。


101ビル91階の表示

高さ390mの屋外の展望台に出ると、静かな夜なのか意外と風当たりは少ない。この高さの建物上で外気に触れるのは初体験である。空を見上げると、この階より上の階層がグリーンの光を輝かせながら伸びている。その最先端は明るい光を放っている。








 101ビルの先端部分
















展望台の周囲には高いフェンスが張り巡らされており、この金網越しに下界の景色を眺めることになる。人間て、高い所に上るのが好きな動物なのだ。そのフェンスの隙間からカメラを握った手を伸ばして撮影を始める。適当に連続写真を撮ったのだが、うまく撮れているのだろうか?



 101ビル91階から眺めた台北市街の夜景。灯りが小さく見える。



 上と反対方角の夜景





高さから言えば過去、101ビルより高いカナダ・トロントのCNタワーで、高さ447mの展望台から眺望した経験があるので、私にとっては珍しいことではない。


とまれ、ぐるりと一周見終わって階下へ下りようとすると、ここをご覧なさいと階段の手すりの隙間を指差して案内する。そこには折れ曲がった階段の手すりが限りなく伸びていて、ずっと下まで見通せるのである。それは目が回りそうな光景だが、果たして1階まで続いているのだろうか? その眺めに度肝を抜かれながら89階の展望台へ戻る。


階段手すりの隙間がずっと下まで見通せる

この階には資料館があって、世界最速のエレベーターの模型が置かれている。







 高速エレベーターの展示模型

















またここで、着工から完成までの様子を5分にまとめた映像を見ることができる。世紀の工事の様子が分かり、また竣工時の仕掛け花火の壮観さや派手なセレモニーの様子が分かる。また、新年カウントダウンには華麗な花火のショーが見られるようだ。


そしてまた、風による揺れを防ぐための装置としてマスダンパーが設置されていて、これが見られるようになっている。その重量は660トン、直径5.5m、厚さ12.5cmの輪切りの鋼板41層を重ねて球状にし、これを92階から長さ42mのケーブルで吊っている。








 これが鋼板41層を重ねた重さ
 660トンのマスダンパー
















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<参考資料>
いまや世界は超高層ビル建設の大競争時代である。この101ビルはギネスにも登録された公認の世界一高いビルではあるが、現在ではすでにその座を他に譲らざるを得なくなっている。


アラブ首長国連邦のドバイでは、すでに現在建設中のブルジュ・ドバイが2007年10月に101ビルを抜いて世界一の高さとなっている。これは2008年末の完成予定で、軒高643m、アンテナ高818m、162階となる予定だそうだが、確定的な高さは他との競争上極秘とされているらしい。


また、現在建設中のフリーダム・タワー(ニューヨーク)、フォーダム・スパイア(シカゴ)などの超高層ビルが先に完成しても、ブルジュ・ドバイが完成すればこれらのビルの高さを上回ることになる。現在のところ世界一高い人工建造物はトロントのテレビ塔CNタワー(553m)であるが、ブルジュ・ドバイは2007年9月にこれをも超える564mに達している。さらに計画通り建設が進めば、現存する最も高い塔であるKVLY−TV塔(628m)をも抜くことになる。


ところが同じドバイに、今度は高さ1050mのアル・ブルジュが2007年中にも着工される予定だというし、クウェートでも1000m超のビル建設が予定されている。こうしてみると、世界はすでに1000m級のウルトラ高層ビルの建設ラッシュ時代に突入したといえるのだろう。

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これで一通りの見物を終わり、再び高速エレベーターに乗って5階まで直行する。下りも耳の異常は何も感じない。ここのフロアーから下は中央部が高い吹き抜けになっており、階下にカフェなどが見えるので、ここでコーヒーブレイクとする。とあるオープンカフェのテーブルに腰を下ろし、バニラアイスクリームを注文。運ばれてきたアイスクリームにスプーンを立てながら、超高層ビルの空間でゆったりと身を休める。


中央部が高い吹き抜けになっている

しばしのブレイクタイムを終わると、再びエスカレーターでめぐり下りながら1階玄関ホールへ出る。最後にもう一度夜空にそびえる101を眺め上げながら、タクシーを拾う。ドライバーにホテルカードを示して行き先を告げると、夜のネオンがきらめく市街を通り抜け、ホテルに向けて走行する。こうしてホテルに戻ったのは9時過ぎのことである。タクシー料金は240元(960円)。

(101ビルに関する詳しい情報は、こちらをご参照)


部屋に戻ると、バスタブにお湯を張り、ゆったりとつかりながら1日の疲れを癒やす。明日はまた早朝から台湾新幹線の試乗体験を試みる予定だ。新幹線乗車は、これもツアーに組み込まれていないので、この機会をとらえて自己オプションで行くしかない。ホテル出発までの間隙をぬっての行動だけに、果たして予定どおりうまく運ぶのだろうか? 見ものである。



(次ページは「台北観光・2」編です。)












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