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            NO.15




9.マドリッド・・・ フラメンコと闘牛と
 
朝六時に起床。八時半発の列車に乗ろうとホテルを出てしばらく行くと、だれかが後から叫ぶ声が聞こえる。多分、ジョギングの掛け声だろうと思って無視しながら歩いていると、息を切らしながら追い付いてきたのは老ホテルマンである。スペイン語で叫ぶので分からないはずだ。何事だろうと思って立ち止まると、手振り身振りでホテルに戻ってくれという。重いバッグを肩に負いながらホテルへ戻ってみると、まだ宿泊代をもらっていないという。私は昨日クレジットカ−ドを渡した際、係が機械にかけていたので、てっきり前払いですんでいたものとばかり思っていたのだが、まだだったらしい。そういえば、まだサインもしていなかったなあ、と自分の早とちりに苦笑しながら、「ベリ− ソ−リ−」といってあやまる。
 

マドリッドへ
出掛けのトラブルにもたついてフランサ駅に行くと、もう列車はホ−ムに入っている。車両ナンバ−を確かめて乗車する。この一等車もオ−プンスタイルで、テレビ、イアホ−ンがついている。車内はガラ−ンとして少なく、話相手もいない。ここからマドリッドまで七時間の一人旅が始まる。乗り心地はイタリアの列車のほうがよい。車窓からは、緑も少なく岩肌の多い荒れた土地の風景がどこまでも流れていく。美しい緑の田園風景は見られない。昼食は、車内販売のサンドイッチと持ち込みの牛乳ですませる。
 

午後三時過ぎ、マドリッドのチャマルティン駅に到着。ここはフラメンコと闘牛を生み出した情熱の国スペインなのだ。早速、案内所で市内地図とホテル案内図をもらって市内の目抜き通りグラン・ビアまでメトロで移動する。駅の近くにはホテルも少なく、市のはずれにあるので何かと不便だからである。その前に、ロンドン行きの航空券を手配しなくてはいけないので、人にたずねながら旅行社を探すがなかなか見当たらない。駅の案内表示も悪く、不必要にウロウロさせられる。重い荷物に疲れ果てたので、とにかくグラン・ビアの中心街へ移動することにする。


ホテル探し
地下鉄を上がると、さすがに活気あふれる繁華街である。辺りを見回すと、すぐ近くに三ツ星ホテルが目に入ったのでフロントに聞くと、満員だといって断わられる。二軒目を探して交渉してみるが、ここもダメ。がっくりして疲れがどっと出てくる。三軒目の三ツ星ホテルでやっとOKが取れる。一泊六、八〇〇ペセタ=五、二〇〇円と、バルセロナより安い。  


やっとのことで旅装を解き、一息ついてから旅行社探しに出かける。フロントに聞いて行ったがなかなか見当たらない。通行人は英語が通じないので両替所に飛び込み、旅行社をたずねるがよく分からない。三度目に聞いてやっと旅行社を見つけ出す。係の若いスペインの美女は、客と応対しながらガムをかみ、タバコを吸ったりとお行儀が悪いが、英語が上手でなかなか親切である。安いチケットをあちこち電話であたってくれるが、取りに行くのが間に合わないという。


航 空 券
もし安いチケットが手に入ったら、今夜あなたをディナ−に招待しますよ、と冗談を飛ばすと、クスクス笑いながら、それは有難いがこれからチケットを取りに行くので時間が間に合わない、という。ここで買える航空券は、ロンドンまで片道だと五万ペセタもするという。だから三万八千ペセタ=二万九千円の往復航空券を買ったほうが得だという。月曜日に発つ予定だし、週末にかかって旅行社も閉店なので、仕方なくそれで手を打つことにする。帰りのチケットがもったいないから一緒にロンドンまで遊びに行かないか、とからかうと、往きの運賃をみてくれるなら、といって笑い合う。
 

英語はどこで勉強したのかと聞くと、三ヶ月間ロンドンの学校に行って勉強したという。また彼女は長崎を知っていて、私が原爆の体験者だというと、原爆体験者に会ったの初めてだと珍しがっている。日本にはまだ行ったことがないという彼女に、ぜひいらっしゃいよというと、ぜひ行きたいという。「あなたは親切で、その上とても美しい人だ。」というと、顔を少し赤らめながら、にっこり微笑み返す。こうしたやりとりが、一人旅を一段と楽しくさせてくれる。 


夕食はカフェテリアですませるが、ここは少し値段が高い。ホテルに戻ってフラメンコショウと闘牛の予約を取る。今日は列車の旅と宿探し、そして飛行機の予約とかけずり回ったのでくたくたに疲れ果てる。ゆっくり休養しなくては体がもたない。
 

第二日目。昨夜、近くの食品店で買ったカップケ−キ二個と牛乳、リンゴで朝食。しめて一三〇ペセタ=約一〇〇円と安い。昼までベッドに寝そべって休養する。午後になって初の本格的雨降り。雨の中、携帯用カサを初めて使用しながら昼食に出かけ、中華飯店で焼き飯、ラ−メン、中国茶をとる。焼き飯の分量が多く、ラ−メンは少し食べ残す。食事代一、二〇〇ペセタ=九二〇円。


下 見
昼食を終わって観光バスタ−ミナルの下検分に出かける。送迎バスは来ないので、自分でそこまで行かなくてはいけない。ホテルから近いというが、迷わないように前もって下見しておくことが肝心だ。
 

案の定、タ−ミナルはなかなか発見できず、「ドンデ エスタ」を連発しながら三度目にやっと探し出す。途中、三越デパ−トを発見、助け船とばかりに中に飛び込んで日本人スタッフを探し出し、場所をたずねるが、それでも発見できない。やはり事前調査してよかった。ほっとしたところで、次はエアポ−ト行きのバスタ−ミナルの下見にメトロで出かける。


今度は一回の「ドンデ エスタ」で、すぐに見つかる。帰途、地下鉄の改札口を通り抜けた後、切符売場に地下鉄マップを置き忘れてきたのを知り、一瞬肝を冷やす。懸命に記憶の糸をたぐりながら乗換駅を思い出し、間違えずに無事帰着。地下鉄にはロ−マ、バルセロナ、マドリッド、ロンドン、ベルリン、ウイ−ン、パリと七ヶ所で乗ったが、案内表示はマドリッドとバルセロナが同じ表示で最も分かりやすい。
 

ホテルに戻り、夜のフラメンコショウに備えて入浴、休息。どこも一時から四時まで長い昼休みに入るので、開くのを待って近所の食品店へ買い出しに出かける。明日は日曜で休みというので、いっぱい買い込む。カップケ−キ四個、バナナ二本、リンゴ二個、オレンジ二個、牛乳三本、ミネラルウォ−タ−一本、合計五三五ペセタ=四一〇円。そして、夜の外出に備えてバナナ一本と牛乳で腹ごしらえ。テレビのスイッチを入れると、たまたま闘牛の中継放送があっている。これはとばかり、食い入るようにテレビに見はまる。やはり、すごい迫力である。明日見に行く予定なので、わくわくしてくる。
 

フラメンコショー
夕方には雨もあがり、夜八時半出発のフラメンコショウ見物に参加。(費用はディナ−付き、一〇、五一〇ペセタ=八、〇〇〇円) バスタ−ミナルへ行って待合室で待っていると、隣に上品な東洋系の女性が来て座る。話をしてみると、彼女は中国人でデンマ−ク人と結婚しコペンハ−ゲンに住んでいるという。コペンの気温は十五度くらいで、少し肌寒いという。週末を利用して夫と観光に来たそうだ。彼女は話好きの様子で、「カメラは持っていないのですか? 日本人はいつもカメラを持っているので、どこの国でも評判になっていますよ。」というので、ポケットに入れて持っているのだというと、納得したらしい。グル−プの中に三十歳前後の日本人男性がいるので話しかけてみると、彼はいま英国留学中で、国際事情の研修で会社からオックスフォ−ドへ派遣されているのだという。彼とはショウの最後まで付き合うことになる。
 

バスはしばらく夜のイルミネ−ションに輝くマドリッドの市街を巡回しながら、とある公園の中の劇場へ到着。豪華な雰囲気の中で彼と一緒に座ったテ−ブルには、ウイ−ンから来たという三十代の素敵なカップル二組が同席する。やがてシャンパンにワインと料理も運ばれ、まず同席者みんなとシャンパンで乾杯する。ワインは飲み放題というので、ボトルのおかわりを取りながらみんなで飲み合う。このワインが実にうまい。彼らはドイツ語しか話せないので、手話での会話を続けながらディナ−を楽しむ。
 

いい気持ちに酔いがまわったところで、いよいよ十時から開演である。有名なカルメンやボレロの曲に乗って、フラメンコの激しいステップが会場いっぱいに響き渡る。ワインカラ−の垂れ幕をバックに入れ替わり立ち替わり男女のダンサ−が登場し、汗のしぶきを飛ばしながら情熱的に踊り続ける。その迫力に思わず身を乗り出し、引き込まれるように見入ってしまう。





情熱の国スペインの夜はフラメンコで燃える















 











陶酔の一時間半が終わり、後はフォ−クソングに変わる。席を立ち始める者もいるが、十二時の集合時間までに間があるので、留学生の彼と居残ってフォ−クソングに聞き入る。
 

そろそろ時間となり、彼と連れだって途中から退室し表通りの集合場所へ急ぐ。そこに行くと、いるはずのバスも同じグル−プの人影もない。十二時集合といったのに、おかしいなあ、と二人でボヤキながら待ってみたが、何の気配もない。スペインという国は大雑把なところがあるから、恐らくわれわれ二人を置いてきぼりにして帰ってしまったのだろうという結論に達し、タクシ−を拾って帰ることにする。こういう訳で、「グラン・ビア ポル ファボ−ル(グラン・ビアまでお願い)」と運転手に告げて深夜のタクシ−走行となる。途中で彼を降ろし、グラン・ビアまでの料金四〇〇ペセタ=三〇〇円を払う。旅にハプニングはつきもの、それもまた一興である。そう思いながら一時に就寝。
 


(次ページは「闘牛観光編」です。)










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