No.3
(フィンランド)




11.ヘルシンキ市内観光(二日目)
 
旅行最終日。11日間の旅も今日で終わり。明日は帰国の旅が待っているだけだ。バルト3国とヘルシンキの旅もあっと言う間に終わりを告げようとしている。旅の最後はいつもシュンとなって寂しい気持ちになる。まだまだ旅を続けたいという気持ちが強いからだろうか? 異国の地の風景やそこにただよう空気、それに異国の文化やそこに住む人々と縁が切れるかと思うと寂しい気持ちにさせられる。旅によって生み出される異次元の刺激的な世界から、帰国することによって日常の世界に引き戻される。これは旅の宿命なのかもしれない。
 

この街は中世ヨ−ロッパの町並みや建築物がないだけに、観光的な見所はあまりない。が、街を彩る公園や並木の緑が美しく、それらが静かでしっとりとした北欧的な雰囲気を醸し出している。また、海に開けた街でもあるので、大型クル−ザ−が出入りする港の風景が素敵なアクセントをつけている。冬の季節がどんな様子なのか、一度見てみたい気がする。さぞ、この季節とは打って変わった厳しい風景を見せるのかもしれない。
 

スオメンリンナ島
最終日の今日は、港外にあるスオメンリンナ島を探訪する予定である。7時に起床して朝食を済ませると、一休みしてから港へ出かける。今朝は曇り空ではあるが、雨ではないのが幸いだ。バスと電車を乗り継いでマ−ケット広場の波止場まで行き、スオメンリンナ島行きの桟橋に出る。そこの待合い室には、島へ渡る人たちが結構集まっている。この島は橋でつながった4つの島からなり、フィンランドの南海岸を守る要塞として幾多の戦争において重要な役目を果たしたものである。現在は幾つかの博物館や教会、カフェなどが点在し、静かな行楽地となっている。遠足で引率された子供たちの姿も見られる。
 

10時発の連絡船に乗って波静かな港外へ向かう。狭いヘルシンキ港を出ると、間もなく沖合に島影が見えてくる。船は15分でスオメンリンナ島の北端に到着。






スオメンリンナ島への連絡船









上陸すると、そこからてくてくと島の中央部を目指して歩いて行く。広い未舗装の道路が走っており、時折作業用の車が通るぐらいで、人影もなくひっそりとしている。途中、ひっそりとたたずむ教会に出会ったり、小さなレストランを見かけたりしながら、適当にメインストリ−トらしい道を選んで進んで行く。
 





ひっそりと林の中にたたずむ教会









するとやがて、島の途切れ目にさしかかり、建物が見えてくる。そこにインフォメ−ションの看板が出ており、この島の観光案内所になっている。ここで島の案内マップをもらい、すぐ前のきれいな入江の風景を眺めながら橋を渡って次の島へ移動する。ここからぶらりぶらりと道路に沿って南へ進むと、島の南端に出る。
 





二つの島の水路
橋のたもとの右側の建物はインフォメーション








その一角に昔の要塞の後が残っており、海岸線に沿って砲台が並んでいる。使われた当時の大砲なのか、今も数門が残っていて沖合をにらんで錆つきながら据えられている。ここからの眺めは素晴らしく、目の前にはバルト海の青い海原が視界いっぱいに広がっている。これをひとまたぎした向こう側はエストニア・タ−リンの街だ。7年ぶりに見る同じ風景に、しばし感慨深げに眺め入る。はるばる遠く日本を離れて、いま北欧のしかもその小島の一角にたたずみながらバルト海を眺めている。これが旅の醍醐味というものだろう。



 スオメンリンナ島の南端。ここには砲台跡や要塞の跡がある。前に広がる海はバルト海。




しばらく感慨に耽った後、もと来た道を引き返し、インフォメ−ションの方へ戻る。ここの橋のたもとにも船の発着する桟橋がある。その時刻表を見ると、次はちょうど12時発となっている。それならこの場所から乗船して帰ることにしよう。しばらく待っていると、今度は来た時とは違う小型のボ−トがやって来る。それに乗ってヘルシンキ港へ向かう。沖合から港を眺めながら走ること15分、船は朝とは違う桟橋に到着する。どうも船会社が違うようだ。そこで尋ねてみると、スオメンリンナ行きの船は2つのラインがあるそうで、このボ−トがインフォメ−ション前の桟橋との往復を運航しているという。
 

サーモンで昼食
マ−ケット広場に上陸すると、昨日の夢よもう一度とばかりに、サ−モンの鉄板焼きの味を思い出し、再びその店を探してみる。ところが、昨日の場所には他の店のテントが張ってあり、どこを探しても見当たらない。出店希望が多く、毎日と言うわけには行かず、日替わりで交替しながらの商売なのだろうか? やむなく別のサ−モン焼きの店で済ませることに。昨日と同様、サ−モン一切れにポテトとを添え、ビ−ルも注文する(1,200円)。やはり昨日の店の味の方がおいしく、少し失望しながらの昼食となる。
 

ヘルシンキ大聖堂と元老院広場
サ−モンの昼食を終えると、今度はすぐ近くのヘルシンキ大聖堂へ足を向ける。エスプラナ−ディ公園の横を走るポホヨイスエスプラナ−ディ通りから裏手へ2つ目の通りへ出ると、その前に40万個の御影石が敷きつめられた広大な元老院広場が開けている。その中心にはお供の像に囲まれたロシア皇帝アレクサンドル2世の立像が置かれている。






元老院広場
中央の立像はロシア皇帝アレクサンドル2世









その背後の階段上に白亜の大聖堂がモスグリ−ンの5つのド−ムを載せて広場を見下ろすように建っている。建築当初は真ん中の大きなド−ムだけだったのが、その後になって四隅に小さなド−ムが付け加えられたという。
 





ヘルシンキ大聖堂










十数段の階段を上って左手の入口から堂内へ入ってみる。すると意外にも、簡素過ぎると思われる空間が広がっており、中央にシンプルな祭壇がぽつりとあるだけで、さっぱりとしたものである。こうして多くの教会や寺院を見学して回っていると、教会内部の装飾も様々でヴィリニュスの聖ペテロ&パウロ教会のように30年もかけて凝りにこった彫刻群が施されているかと思えば、この聖堂のようにシンプルな寺院もある。その時の建築者の考えによるものだろう。
 







 大聖堂の内部















ここを出ると前の階段に腰を下ろし、広場を見下ろしながらしばし休息とする。広場の周囲はクリ−ム色の柔らかい色合いに統一された3〜4階建ての建物で囲まれている。写真左端の建物は官庁らしく、写真には写っていないが右側にはヘルシンキ大学の建物がある。そして、広場の周りをツ−ト−ンカラ−のトラムが往き来している。7年前に訪れた時は、この広場で軍事パレ−ドが行なわれていたのだが……。
 

地下鉄試乗
ここで憩っている間に、地下鉄に乗ることを思いつく。乗り放題のヘルシンキカ−ドをフルに活用しなくてはとの思いからである。最寄りの地下鉄駅を通行人に尋ねながら駅ホ−ムに下り、とにかく行き先も分からないまま乗ってみることにする。乗り心地は上々である。何駅か過ぎたところで適当に下車し、地上に出てみる。ここはかなり郊外に来た感じだが、駅前はバスの発着点になっていて、各方面別のバスが止まっている。そこで、今度はバスに乗り換えて波止場まで戻ってみることにしよう。
 

バスで波止場へ
手前のバスドライバ−に、波止場へ行きたいのだが、どのバスに乗ればよいかを尋ねると、向こうに止まっているバスに乗ればよいと教えてくれる。そこで、そのバスの年配ドライバ−に、「ハ−バ−」とか「ポ−ト」とか、「マ−ケットスクェア」などの単語を使って尋ねてもなかなか要を得ない風である。そこで地図を示し、ここに行きたい旨を告げるとやっと理解してくれ、それならこのバスに乗りなさいと教えてくれる。
 

コーヒーブレイク
バスは発車すると、町中を走ったり、海の見える海岸線を走ったりしながら、見事にマ−ケット広場前のバス停に止まる。やはり、間違いなくこのコ−スを回るバスだったのだ。ドライバ−がここですよと教えてくれる。「キ−トス!(ありがとう)」と礼を言って下車すると、再び公園内のレストラン「カッペリア」に行き、コ−ヒ−ブレイクとする。前と同様に、セルフサ−ビスのコ−ヒ−をカップにたっぷりと満たし、窓際の席に座ってゆっくりとくつろぐ。昨日と変わらぬのどかな風景を見ながら、憩いのひとときを過ごす。またいつの日か訪れた時にも、こんな変わらぬ風景を見せてくれるのだろうか?
 

最後の夕食は中華料理
最後の見納めをすると、席を立って夕食へ向かう。昨夕と同じ中華料理店を目指す。味も分かっていることだし、あちこち探し回るより手っ取り早く無難である。目の前の電停から電車に乗って昨日と同じ停留所で下車し、見慣れた中華店に入る。今夕の献立注文は焼き飯と野菜炒め、それにお決まりのビ−ルである。やはり期待しただけあって、確かな味でどれもおいしい。ヘルシンキ最後の晩餐は、こうして中華料理で幕となる。
 

一息入れてからゆっくりと席を立ち、まだ明るすぎる夕暮れの街をホテル目指して歩いて行く。7年ぶりに見た懐かしい風景もこれで見納め。明日はいよいよ帰国の日だ。現実の世界に引き戻される時がやってくる。また訪れるのは、いつの日のことだろう。11日間、9泊の旅もいよいよこれで幕引きだ。とにかく予定通り無事に過ごせたことを感謝しながら、静かに別れを告げるとしよう。


《ヘルシンキ観光情報》(2004年5月現在)
ヘルシンキでは、市内はもちろん、郊外やエストニア・タ−リンへのツア−など多種に用意されており、観光には不自由しない。ただ、寒い北欧の季節柄、年中催行されているとはかぎらないので催行期間の注意が必要だ。

・ヘルシンキカ−ド
 これには次の3種類がある。
 24時間……25ユ−ロ(3,400円)
 48時間……35ユ−ロ(4,800円)
 72時間……45ユ−ロ(6,100円)

このカ−ドには市内の交通機関は無料、各種博物館は無料、その他割引になる料金が多数ある。うまく利用すればもとは取れると思う。

・バスによる市内観光
 毎日、所要1時間半。料金20ユ−ロ(2,700円)。ヘルシンキカ−ドでは8
 ユ−ロ

・バスとボ−トによる観光
 5月末〜9月始めの期間。所要3時間。料金28ユ−ロ(3,800円)

・森と湖の観光
 6月中旬〜9月中旬の期間、火・木・日。所要4時間。料金43ユ−ロ
 (5,900円)

・スオメンリンナ島
 6月〜9月の期間、毎日。料金14ユ−ロ(1,900円)

・エストニア・タ−リン1日観光
 毎日。料金139ユ−ロ(19,000円)


                                        (完)
                           (2004年7月28日脱稿)










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