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 NO.3
(カナダ編)




3.トロント・・・・ 感動的なタワ−の夕景色

第五日目。ゆっくり起きてバイキング式の朝食をとる。今朝の私たちのテ−ブル担当は、青い目とブロンドの髪をなびかせたフランス人形のようにとても可愛いウェイトレスである。話しかけると、その美しい顔に笑みを浮かべながら愛想よく応対してくれる。
 

「ここの冬の気温は何度ぐらいなの?」「マイナス二十度以下にはなりますよ。でも部屋の中は暖かいので心配いりません。」「私たちはこれからトロントへ行くのですが、あなたは行ったことがありますか?」「えゝ、行ったことがあります。人やくるまがたくさんいて、とても大きな町ですよ。」「私たちと一緒に来ませんか?」「仕事があるので行けません。」とクスクス笑いながら答える。「CNタワ−には上りましたか?」「えゝ、行きましたとも! すごく高くて目が回りそうでした。恐かったですよ。」「ナイアガラフォ−ルも行きましたか?」「えゝ、あそこはすごい所で、きっと驚きますよ。」
 

忙しく立ち回る彼女をとらえての寸話に、朝の爽やかさを感じる。周りの連中が、「あんな可愛い娘と話ができていいですね。羨ましいですよ。自分たちも英語が話せたらなあ…。」と羨ましがる声を心地良く耳に残しながら席を立つ。ツア−で回ると外国人と接触することがないので、こんなチャンスをとらえないと話す機会がない。この点がツア−の一大欠点だ。
 

八時過ぎにホテルを出発したバスは、カルガリ−空港へ向かう。二日前に通ったハイウェイなので見馴れた風景が続き、二時間のドライブには少し退屈である。相変わらず走っているくるまは少ないが、キャンピングカ−がよく目に付く。やはり乗っているのは老夫婦ばかりで、どこも暇があってのんびりできるのは、この年代層ばかりである。カルガリ−郊外には、キャンピングカ−を何十台も置いているレンタカ−会社が目に付く。カナダでは、週末になればキャンピングカ−でレジャ−を楽しむらしい。その辺の事情は、まだ日本と違う。
 

案内係とおしゃべり
十二時発のトロント行きに搭乗するまで一時間の自由時間があるので、バンフへのバスの便を調べてみようと空港のバス発着所へ行ってみる。案内カウンタ−には誰もいないので、近くに立っている構内係員に聞くと、カウンタ−横の事務室から係の女性を呼び出してくれる。私を見るなり日本人と分かって、「日本人の係員が間もなく出勤して来るので少し待ってください。」といいながら部屋へ戻ろうとする。それを呼び止めながら「いや、私は英語で話がしたいのですよ。」というと、にこにこしながらきびすを返して来る。それから一時間たっぷり、よもやま話に花が咲き、とうとう集合時間に五分も遅刻してしまう羽目になる。
 

彼女はお人好しの気のいい中年婦人で、私が引退した高校教師だと知ると、「私は教師を尊敬しています。」といいながら、一段と話にはずみが付く。何の科目を教えていたのか、生徒は何歳なのか、何年間教師をしていたのか、などと尋ねてくる。日本のどこから来たのかと聞くので「長崎から来ました。私は原爆の体験者です。」というと、被爆者に会うのは初めてだと驚きながら、私の体験談にじっと耳を傾けている。そして、「自分の家族は夫と男女の子供二人、それに犬と子ブタが一匹ずついるの。この子ブタがとても可愛いの。」といいながら事務室に戻り、わざわざ家族と一緒に写った犬と子ブタの写真を持ってきて見せる。幸せそうな家庭の雰囲気がこぼれ出て来そうだ。
 

それから、あなたの家族は何人か、一人娘さんは何歳でどんな仕事をしているのか、などと矢継ぎ早の質問を浴びせてくる。「娘は東京に住んでいてプロのソング・ライタ−だ。レコ−ドもすでに何枚か出している。」というと、「ワオ−、イッツ ナイス。ワンダフル!」と大袈裟なゼスチュアで驚いてみせる。この時、またしても英語のアクセントで勉強させられる羽目になる。それは「レコ−ド」の発音で、ついうっかり日本語的に「レコ−ド」と“コ”にアクセントを置いて発音したのだが、何度繰り返しても相手にさっぱり通じない。そこで、“ディスク”といいながら円盤の形をゼスチュアで示すと、「オゥ、コ−ド!」といいながら発音して見せてくれる。アクセントの位置がいかに大事かということがこれでもわかる。
 

それから、なぜ奥さんと一緒じゃないのか、旅行はどこを回ってきたのか、これからどこを旅行するのか、など立て続けに聞いてくる。しまいには、「ぜひ今日は私の家に一泊していらっしゃい。」と言い出す始末。そこで「有り難いが、これからトロントへ行くのです。」というと、「ここには戻らないのですか、ぜひ戻ってきて泊まりなさいよ。」という。「いいえ、トロントから次はニュ−ヨ−クへ回るのです。」というと、「じゃ、次の旅行ではきっと奥さんと一緒にカナダへきて、私の家に泊まるのですよ。」と念を押すようにいう。本当にお人好しで世話好きの婦人らしい。「あなたもきっと長崎へ来てくださいね。」といいながら、アドレスの教え合いをする。「早速、ノ−トに記録しておきましょう。」といいながらアドレス帳を取り出して書き写す。そして「もうこれで登録ができました。大切な人のアドレスは、こうしてノ−トに記録しておくのですよ。」とにっこり笑う。
 

トロントへ
久し振りの楽しい会話につい集合時間を見過ごし、私を探している添乗員にあやまりながら機上の人となる。トロントまで三時間半の空の旅は、隣合わせた同じグル−プの年配婦人二人組と話が途切れない。この二人は福岡の上山田出身で小学生時代からの同級仲良しだそうで、たまに誘い合って旅行をするのだという。私より一年先輩である。その一人は夫が塾経営者とかで、子供たちも独立して今は専業主婦としてのんびり暮らす身分だという。
 

他の一人は小柄だが異色の女性経営者で、兄が開発した中小金融機関向けのコンピュ−タ−ソフトを販売する小さな会社を経営しているという。自分でソフトの改良もするというから立派なものである。未だ独身の彼女はその経歴も変わっていて、若いころに車の大型免許を取得し、七年間自動車学校の教官をしていたという。そして、すべてに積極的でスキュ−バダイビングの免許を持ち、沖縄や徳之島方面へ海底散歩に時々出掛けるという。またビデオ・カメラも趣味らしく、海底を撮ったビデオを出したビデオコンテストで一位入賞を果たしたこともあるという。この旅行にも重いビデオカメラを持参しながら、慣れた手付きで撮影に余念がない。 そのほか英会話の勉強にも通っているそうだが、なかなか上達しないと悔やんでいる。


昨日、バンフのカフェで「ミルク」を頼んだが、その発音がどうしても相手に通じず、仕方なくあきらめざるを得なかったという。そこで“L”の発音に注意しながらこんな風に“MILK”と発音するのだと教えておいたのだが、今日早速空港のスナックで試してみたら相手にうまく通じたといって子供のように喜んでいる。とにかく彼女は女性には珍しい行動派で、すべてに好奇心が強く挑戦的であるのには驚かされる。
 

こうした熟年仲間の会話で時間を過ごしているうちに、機はそろそろカナダ第一の都市トロントに到着である。空港の入国はスム−ズに通過し、迎えのバスに乗ってホテルへと向かう。途中、カナダ特産の毛皮を製造販売する直販店に案内するというので、そんなショッピングには用無しの私は、先にチェックイン手続きをしにホテルへ直行するという添乗員と同行する。みんなの今夜の予定は、カナダ名物のロブスタ−を有名なCNタワ−の回転展望レストランで夜景を見ながらディナ−を楽しむことになっている。これはオプションで一五、〇〇〇円もするので、当方は付き合えない。だから自分で適当な食事場所を探して、安く上げないといけないわけだ。


でも、CNタワ−はこの地一番の観光スポットなので、見逃すわけにはいかない。宿泊するホテルはロイヤル・ヨ−ク・ホテルという千四百室もある大規模高級ホテルで、ユニオン駅の正面に建っている。このホテルは駅や地下街にも通じる通路があって便利だが、それだけにロビ−は込んだデパ−トのように多くの人で混雑している。やはり規模が大きいのも考えものだ。キ−をもらって部屋にバッグを置くや、すぐにロビ−のコンセルジュに行って市内地図をもらい、地下街へ繰り出す。
 

トロントの地下街
ここは地下街が発達しているということなので聞いてみると、あまりに広大すぎて入り組んでおり、これでは地図があっても迷子になる恐れがる。そこで、あまり遠くまで行かないように近隣をうろつきながらカフェテリアを探すが、好みのものが見当たらない。やむなくユニオン駅の地下街でマカロニ料理をワンパック三五〇円で買い、それを店向かいのビヤホ−ルに持ち込んで一人夕食を始める。


カナダではアルコ−ル類の販売が規制されていて、資格のあるアルコ−ル専門店でしか売られておらず、どこでも簡単には手に入らない不便さがある。だからこんな持ち込みスタイルにしないとビ−ルも飲めないわけだ。ビ−ル代と合わせて五〇〇円也、みんなとケタ違いのスマ−トな夕食である。それでもマカロニは分量が多すぎて残す始末、もったいないが仕方ない。
 

CNタワ−
腹ごしらえが終わると、ここからスカイ・ウォ−ク(タワ−へ通じる連絡通路)を通ってCNタワ−へ向かう。この通路は、大通りや線路をまたいでタワ−とスカイド−ムへ直通しているので、これを利用すると便利である。外はまだ明るいのだが、夜の八時過ぎとあって通路内の店舗はみんな店仕舞いしており、無気味なくらい通行人もだれ一人いない。急ぎ足で通り抜けると、目の前にスマ−トなCNタワ−が現れる。カメラに収めようと試みるが、高すぎてなかなかはまらない。全体像はあきらめて上半分の写真を撮る。

 







 世界一のCNタワー














このタワ−の高さは五五三メ−トルで世界一、その三分の二の高さのところにスカイ・ポッドという展望台があり、そこには展望レストランもある。そこからさらに一〇〇メ−トルほど高いところにスペ−ス・デッキという展望台があるが、ここは地上四四七メ−トルのまさに世界一高い展望台である。チケット売場でシニアだと申し出て割引(十二ドルの料金を三ドル割引)を受け、ガラス張りのエレベ−タ−でスカイポッド展望台まで一気に昇り上がる。チケットには、午後八時六分の刻印がある。グル−プのみなさんは、今ここのレストランでロブスタ−料理の夕食真っ最中な界のだ。


そこをしり目に、さらに高いスペ−ス・ デッキへと向かう。この展望台へ行くにはスカイポッドでいったん降りて乗り継ぎ、さらに追加料金を払って四、五人乗りの小さなエレベ−タ−で昇ることになる。料金は合わせて七〇〇円ぐらいである。ついに世界最高の展望台に足を乗せる。三六〇度に展開するタワ−からの眺望は、すべての人をうならせる絶景である。ちょうど夕日が傾きかけて、その景色はまた一段と美しい。


すぐ眼下には、対岸さえ見えない広大なオンタリオ湖が暮色に包まれた美しい水平線を見せている。真下の小さな入江には、三本マストの真っ白な大型ヨットが鏡のような水面を静かに滑りながら入港している。市街のほうを見れば、林立する高層ビルが夕日に映えて美しいシルエットをつくっている。西のほうを見れば、視界いっぱいに地平線が広がっている。これが地平線なのだ。起伏の多い日本に住んでいるせいか、地平線を見るのは生まれて初めてである。






夕日に映えるトロント市街















地平線に沈む夕日

  








その地平線が、いままさに夕日を飲み込もうとしている。まるで、赤く焼けた鉄板の上に大きな卵の黄身を落として壮大な目玉焼きをつくっているような光景だ。夕暮れの刻々と変化を見せる光景に、ただうっとりとしながら時の過ぎるのを忘れて眺め入る。ここの高さは長崎の彦山より四〇メ−トルほど高いだけだが、裾野が広がる山の頂上から見る光景と、一本足で立つツルのように地面から垂直に伸び上がったタワ−上から見るそれとでは、やはり大きな違いがある。それは高所恐怖感に襲われるほど、足元直下の光景に吸い込まれそうになるからだ。


地平線に夕日が沈み切る瞬間を写真に撮ろうと、シャッタ−を待ち構える。こうして撮ったのが上にの写真である。日が沈んでもまだあたりは明るい。そこで、街の灯が輝きを増すまでねばってみる。闇がゆっくりと忍び寄り、すべての視界が静かな夜景へと移り変わっていく。陽光が電光に変わり、エレクトリックのきらびやかな夜の世界が広がる。ふと時計を見ると九時過ぎ、トロントの夜景をもう一度確かめてからタワ−へ別れを告げる。ホテルへはスカイ・ウォ−クを歩いて五、六分のところである。



(次ページは「ナイアガラ」編です。)










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