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  N0.9





8.タクラマカン砂漠縦断……522km・ラグ麺・竜巻
 
6日目。朝6時に起床。天を仰げば曇り空だが、今日も砂嵐が吹き荒れるのだろうか? 兎にも角にも今日は、今度の旅のハイライト、そして待ちに待ったタクラマカン砂漠縦断の日である。初めて体験する大砂漠の走破だけに、期待はどこまでも大きくふくらみ、胸は高鳴る。


今日は12時間かけて最終目的地のクチャ(庫車)まで860kmの道程を走破する予定である。まずは柔軟体操で身体をほぐし、全身を目覚めさせよう。
 

朝の風景
身繕いをして階下に下りると、前の通りに出て朝の様子をうかがう。まだ人通りはないが、近くの店では店開きの準備が始まっている。1軒の店先では昨日の朝見た同じ麦の粉の揚げ物を作っている。いい色に揚がっておいしそうだ。その隣の店先ではナン焼きの準備に忙しい。すでに温められたカマドの穴の中に、何やら洗面器の容器に溶かした液体を手で丹念にふりかけている。ナンの生地がうまくくっつくようにするのだろうか? 朝の食堂は、どこも準備に忙しいようだ。
 








 朝食の準備に忙しい食堂店主
















ナン焼き釜に液を振りかけるている

わが食堂へ入って中華料理の朝食を始める。定番料理の饅頭を1個食べるとお腹がふくれて他の料理が入らない。私好みのおいしい饅頭だが、それが難点で時にはパスすることにもなる。今日の砂漠縦断に備えて、少しずつ料理を取り分けしっかりといただく。昼食は砂漠のど真ん中を走るだけに、当てにはできないからだ。
 

ニヤ(民豊)へ
お腹を十分に満たし、荷物を整えると、あとは出発するだけである。8時になって、いよいよホテルを出発。ここから東へ数十km先のニヤ(民豊)の町(人口3万人)を目指して走行する。昨日から今日にかけて、ホ−タン→ケリヤ→ニヤといずれも西域南道のオアシスの町を何気なく車で駆け抜けているが、その昔この道は歴史的な人物が命がけで歩いた道でもある。まず399年には、高僧法顯が65歳の時に天竺へ向かう途中に通りがかり、次いで7世紀には玄奘三蔵が、そして13世紀にはマルコポ−ロが歩いた道でもある。こうしてシルクロ−ドは、歴史をたぐれば限りないロマンにひたれるところでもある。
 

車窓からの眺めは相も変わらず砂漠ばかりである。それもそのはず、この地帯はタクラマカン砂漠の南縁を走り続けているわけだ。


砂漠の中の畑? 何やら植えてある


典型的な礫砂漠

出発から1時間以上経ってケリヤ河に至り、そこから間もなくでニヤ(民豊)の町に入る。この辺りではきれいなポプラ並木が見えたり、時には泥レンガ造りの農家が見えたりなどして、泥砂漠に飽き飽きした目を喜ばせてくれる。
 

こんなポプラ並木に出遭うとほっとする


高いレンガ塀で囲まれた民家


民家の風景


砂漠公路へ入る

          砂漠公路の位置


ニヤの町を通り抜けてしばらく走ると、目指す砂漠公路の分岐点に出る。ここを左に入ればタクラマカン砂漠を縦断する砂漠公路、右に行けばこれまで走ってきた西域南道の延長でチャルチェン(且末)に通じる。その昔、玄奘三蔵が向かった道でもある。もちろん、われわれはハンドルを左に切って砂漠公路に向かう。いよいよこれからタクラマカン砂漠のど真ん中に入って行く。これからどんな風景が展開するのか、興味津々というところだ。
 

この道に入ってまず出迎えてくれたのは、波打つ悪路である。一応舗装はされているものの、路面が波打って激しくポンピングするのである。だから、スピ−ドも出せない。地下水脈が浅いと地面が不等沈下を起こして波打つことになるそうだ。すると間もなく、今度は道路工事現場にさしかかる。片側はブルド−ザ−で掘り起こされており、その片側の地道をがたぴしと揺れながら砂塵をあげて走ることになる。
 

ただいま道路工事中


ニヤ大橋
ここを抜けてしばらく走ると、大きな河が見えてくる。ニヤ河である。そこには8つのア−チを描くニヤ(民豊)大橋がかかっており、河岸の断崖風景とあいまって砂漠の中に素敵な情景を見せている。ここでフォトストップ兼トイレ休憩となり、しばし憩いのひとときを過ごす。 


アーチが美しいニヤ大橋


ニヤ河の岸辺はそそり立つ断崖になっている


ニヤ河大橋の表示板


ガソリンスタンドは日本と同じ
再出発してしばらく走ると、ガソリンスタンドが現れ、ここで給油ストップとなる。このスタンドも同様だが、どこのガソリンスタンドも日本のそれと全く同じスタイルの造りで、日本に来たのかと見まごうばかりである。そして看板には「中国石油」の文字がどこも申し合わせたように大きく表示されている。国営なのだろうか? スタンド前の立て看板を撮影していると、それを見た係員が「撮影はダメ」と制止にやってくる。中国語とウイグル語で書かれた看板で、もう1枚の看板には油種と料金が書かれていたのだが、その撮影ができない。
 

日本とまったく同じカソリンスタンド風景


店頭の掲示板。中国語とウイグル語で書かれている。

ここを過ぎて走り出すと、道路の両側には砂漠とは思えぬ草原が広がっている。植林したのか、それとも自然のものかは分からないが、遠く彼方まで緑の草原が続いている。その上、珍しいことに、ツバメの群れが白い腹を見せながら天空低く滑空しているではないか。おや? 「空に飛鳥なく、地に走獣なし」とまでいわれるタクラマカン砂漠なのに、これはいったいどうしたことなのだ! これこそ“想定外”の出来事に、一瞬とまどってしまう。
 

砂漠のはずがこんな緑の草原が広がっている


砂漠公路入口門
砂漠とは思えぬ緑豊かな?窓外の風景に見とれながら過ごしていると、やがてそれも途切れて次第に砂漠らしい風景に変わっていく。いよいよタクラマカン砂漠の始まりだ。そう思っていると、遠く向こうに何やら門らしいものが見えてくる。あれが砂漠公路の入口なのだろうか? すると間もなく、門の手前で停車する。やはり、砂漠公路の起点なのだ。このゲ−トは公路の「出口」に当たり、その「入口」はここから522km北へ離れた位置にあって、一応そう決められているようだ。通行する者にとっては、どちらの門でも入る所が入口であり、出る所が出口に決まっている。
 

砂漠公路入口門。その側をロバ車が通るのどかな風景。


チャルチェン(且末)へ292km


碑 文
ゲ−トの手前には大きな大理石の記念碑が建てられており、その片面には中国語、反対面にはウイグル語で碑文が長々と書かれている。ウイグル語でも書かれているところが、この新彊地域の特殊性を物語っている。読めないままにも、その碑文の中をよく見ると、「全長522公里」の文字が読める。ふ〜ん、この砂漠公路は522kmもあるというわけだ。砂漠のど真ん中をこんなにも長く貫いているのだろうか? この途方もない砂漠道路をこれから走破するわけだ。なんだか武者震いにも似た緊張感が全身を走り抜ける。
 

ウイグル語で書かれた碑文


中国語の碑文


「全長522公里」の文字が・・・

この碑文の概略は、次のようになっているそうだ。

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「タリム砂漠公路、これは流動砂漠に建設された世界で最長の公路である。1991年10月にこの建設事業を正式に国家の重点検討項目として定め、17の科学技術研究部門と180人の科学者が参加した。1991年から92年にかけて30kmの実験道路を造り、10項目にわたる新規技術開発を行い、15の新理論を開発し、10種類の材料検討を実施して流動砂漠での道路建設について世界でも例を見ない研究を行った。1995年9月全長522km、そのうち流動砂漠446kmの道路を完成させた。これにより、タリム盆地の油田の開発を行い、新彊地区の経済の発展、政治にの安定に寄与することができた。これは国家の石油資源戦略を実現させた希望の道であり、南彊地区人民の幸福の道でもある。」
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タクラマカン砂漠の広さは東西に約2000km、南北に約600kmにわたっており、日本とほぼ同一面積という途方もない流動砂漠が広がっている。この砂漠のど真ん中を南北に縦断するという世界に例を見ない「砂漠公路」を建設したわけである。その完成に至るまでの経緯が上の碑文で分かる。
 

つまり、この砂漠公路は砂漠の地下に眠る油田開発(埋蔵量107億トンといわれている)のために造られたもので、総工費7億元(100億円)?ともいわれている。1995年に完成し、2年後の97年に一般開放されたのだが、それまでは石油関係者のみしか通行できなかったという。これだけの年月と工事費用がかかっているとはいえ、それが有料道路ではなく、すべてフリ−のハイウェ−というところがすごい。中国の懐の深さがうかがえる。完成からすでに10年も経過している現在、果たしてどんな様相を呈しているのか興味をそそるところである。
 

制限速度60km
記念撮影が終わると、いよいよ出発である。砂漠公路に入る分岐点から30分ほどは道路工事や波打ち路面に悩まされてきたが、それもどうにかなくなり、きれいな舗装道路に変わっている。出口門をくぐり、速度制限60kmの標示板を横目で見ながら、時速80kmぐらいのスピ−ドで走行する。








 制限時速60kmの標識















ここに来て、珍しく青空が広がっている。過去5日間というもの、ずっと砂嵐に見舞われ続け、空は砂色にどんよりと曇る日々が続いている。それが今日は、砂嵐の気配もなく、穏やかに晴れ上がって砂漠縦断にはもってこいの日和である。
 


(次ページへつづく・・・)










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