NO.5
5.タヒチ島・パペ−テへ
今日はのどかなボラボラとも別れてパペ−テへ移動する日だ。後ろ髪を引かれる思いだが、時の刻みは残酷にも私をこの地から引き離そうとする。どんなにもがいても、時の流れに逆らうことはできない。
時計を見ると朝の7時過ぎ。未練の気持ちを断ち切ってベッドから抜け出し、いつものようにテラスに出る。昨夜来の強風も夜明けとともにおさまり、今はもとの静けさに戻っている。ほっと胸を撫で下ろしながら、最後の見収めと目の前のラグ−ンの風景にじっと見入る。何度眺めても見飽きない心和む風景である。空は雲で覆われている。
身仕度をして、あの魅惑的な食堂にいそいそと足を運ぶ。昨日と変わらず、その静かなたたずまいに心を癒やされながら食卓に着く。コ−ヒ−の注文をすると、取り皿を持ってバタフライのようにあちこちと飛び回り、好みの物を物色して皿に盛る。ぜいたくな朝食である。窓外の眺めも変わらず、静かなラグ−ンが広がっている。今朝もパンくずのエサに小魚たちが元気よく群がっている。こんなにも時間がゆっくりと流れる環境と美しい風景の中で食事していると、全身がゆるんだゴムのように伸びきってしまいそうだ。そのム−ドに合わせて、ゆっくりと食事をいただく。
朝食を終わって部屋に戻る途中、フロントの日本人スタッフにモ−レア島日帰り観光のことで尋ねてみる。個人で行きたいのだか、島に渡ってからの観光は、うまくできるものかどうかを知りたいのだ。すると、こんな回答が返ってきた。モ−レア島では観光バスの類はなく、レンタカ−で回るかしないと個人での観光は無理だという。また、宿泊ホテルから島へ渡るフェリ−乗り場までの距離もあるので、その移動などを考えると、日帰りツア−で行くのがベタ−だろうという。この情報を得たので、明日は現地旅行社に申し込んでモ−レア島観光に出かけてみよう。
空港へ
部屋に戻って一息つくと、ぼつぼつ荷物の整理にかかる。とは言っても、小型バッグ1つなので、数分もあれば簡単に終わってしまう。12時半発の飛行機でパペ−テへ向かうのだが、昨夕ホテルから案内があり、今朝は10時半までにチェエクアウトを済ませ、11時発のボ−トに乗るようにとのことである。それに従って行動する。
最初に来た時と同じボ−トに乗って、モツにあるボラボラ飛行場へ向かう。ボ−トが走るにつれて、水上コテ−ジの影がだんだんと小さくなって行く。癒やしとくつろぎの場所が小さく、遠くなって行く。なかなか思いが断ち切れない。この3日間、私を揺りかごのように優しく癒やしてくれたモツなのだ。そんな思いを断ち切るように容赦なくボ−トは進み、本島を回り込むとコテ−ジの風景は視界から消え去ってしまう。やっと吹っ切れて前方を見ると、もう飛行場のあるモツの波止場だ。
上陸してチェックインすると、飛行までまだ少々時間がある。時間待ちにショップを見て回りながら時を過ごす。清潔な感じのこぢんまりとした空港ロビ−には、カフェや土産品店、衣料品店など各1店舗があるだけで、土地名産のパレオや真珠、その他の手工芸品などがそれぞれ売られている。その土産品店でボラボラ記念にと小さな木製魚を買うことに。あとはのんびりとベンチに座って外の様子を眺めたりしながら時間を過ごす。やがて、パペ−テからの飛行便が到着。生憎とシャワ−が降り始め、その中を乗客が降りてくる。彼らは、これからボラボラの旅が始まるのかと思うと、うらやましく思えてくる。
ボラボラ空港のロビー
間もなく搭乗となり、窓際の席を確保。だが、予想が外れて眼下の眺めは見られない。反対側の席が当たりのようだ。片側2座席ずつの小型機で、隣り合わせたのは30代の欧米人男性である。それとなく話しかけてみると、ロサンゼルスに住む眼科医だという。結婚してまだ日が浅い新婚さんだそうで、ドイツ人の奥さんは通路を隔てた隣席に座っている。彼らはやっとバカンスが取れて旅行に来たのだという。ここタヒチはロスから飛行機で6時間ほどの近距離である。
眼科の仕事は忙しく、なかなか休めないという。先祖の出身はアイルランドとかで、新妻はドイツ出身でアメリカに住んで10年になると言う。彼女の仕事はシンガポ−ル航空の予約オペレ−タ−だそうで、そのお陰で夫妻は同社の飛行機運賃がタダだと言う。次の旅は、それを利用して世界一周旅行を計画しているらしい。ただ、二人とも仕事が忙しいのが難点だという。そんな会話を交わしながら1時間ほど過ごしていると、眼下にタヒチ島が見えてくる。往きと違って直行便なので早い到着である。こちらの空には青空がのぞいている。タヒチの天候は、少し離れると様子が異なるらしい。パペ−テの天候が良くても、ボラボラの空は雨模様だったりすると言う。間もなく着陸だ。
タヒチ島のラグーンが見えて来た
パペ−テのあるタヒチ島は、ランギロア島に次いで諸島の中で2番目に大きな島であり、ポリネシア全体の人口の70%に当たる16万人が住む経済、政治、文化の中心として、諸島でもいちばん重要な島となっている。植民地時代からポリネシア全体を総称して「タヒチ」と呼ぶほど重要な役割を持っている。国際線の空の玄関口ファアア国際空港があるのもこのタヒチ島であり、国内便のほとんどはここから出発する。
ホテルへ
彼らに別れを告げてロビ−に出ると、出迎えのスタッフに迎えられ、ホテルへ直行する。そこはパペ−テのダウンタウンから離れた郊外にあり、空港から車で20分の距離である。途中の道路の様子を見ると、車の多さに驚かされる。さすがは中心の島だけあって、日々の活動も活発のようだ。到着してみると、広々とした庭園の向こうに檜皮葺きのような趣のある屋根を持つホテルの建物が見える。すぐにチェックインを済ませると、ウェルカムドリンクのサ−ビスである。2階のカフェでまずは喉を潤し、その足で明日のモ−レア島日帰り観光を申し込む。
ホテル玄関前の庭園
トロピカルムードいっぱいの
ウェルカムドリンク
そして、ダウンタウンへ出かけてみようと、ホテルのシャトルバスのこと尋ねると、予約が必要だと言う。間もなく出発の2時半のバスはすでに予約は満席だと言う。そこで、夜の部の8時発のバスを予約する。このフリ−のシャトルバスは、毎日午前と午後に1回ずつ運行され、水と木曜日だけ夜の便も運行されている。
一段落して部屋に入ると、ラグ−ンビュ−のデラックスな部屋である。ここはここで、水上コテ−ジとはまた違った良さがある。早速、お湯を沸かしてコ−ヒ−を入れ、ボラボラから持参したパンをつまんで遅い昼食にする。もう午後の2時を回っている。ここで一休みしながら陽が傾くのを待つとしよう。
周辺散策
夕方になってホテル周辺の探索に出かける。ふと、フロントのあるロビ−から裏側を眺めると、いかにも涼しげな風景が目に留まる。窓のすぐ外側一面に広い池がゆったりと鏡のような水面をたたえて涼しそうな風景を展開している。池の中には植木鉢に植えられた小さな椰子の木が並んで、いかにも南国らしい風景を醸し出している。なるほど、ここに池があると強い日差しの照り返しも避けられ、天然のク−ラ−の働きがあるのかもしれない。 |
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