N0.8
旅のコース
8.トゥーン湖遊覧&ベルン観光・・・時計台・展望塔・熊公園
スイスの旅、最終日。今度の旅もとうとう最後の日を迎えることになる。時は情け容赦なく刻まれて行く。そしてすべてを過去のものにしてしまう。今度の旅もすでに7日間も過去に過ぎ去ってしまったことになる。なんと悲しく、寂しいことか!
とにかく今朝も5時に起床。身体は疲れもなく、旅の喜びがみなぎっている。旅行はほんとに素晴らしい。最後の日を祝うように、空は見事な快晴だ。これが1日ずれていれば見事なユングフラウが見れたのにと、悔まれてならないが、こればかりはどうしようもない。潔くあきらめるしかない。
朝日に輝く冠雪した山並み(宿泊ホテルの窓より)
今日、最終日の予定は、まずインターラーケンまで下り、そこから遊覧船に乗ってトゥーン湖の遊覧を楽しむ。その後上陸してスイスの首都ベルンに移動し、しばしの観光。その後はチューリッヒへ移動して、そのまま空路帰国の旅となる。
付近散策
今朝の出発は10時ということで、ゆっくりできる。そこで朝食を済ませると、付近の散策に出かけてみる。宿泊ホテルの裏手に回ると、そこは山すその高台になっており、人の気配もない細い坂道を上って高台の上に出る。
上から見下ろすと、前方には朝日に輝くアイガーが見え、それが続く山並みの谷あいにグリンデルワルトの町がこじんまりと広がっている。何とものどかで愛らしい町の感じで、これが日本人に人気をもたらす要素になっているのかもしれない。
朝日に輝くアイガー
(動画)早朝のグリンデルワルトの風景
(動画)高台より眺めた早朝のグリンデルワルトの町
グリンデルワルト(朝の風景)
駅前の通りは早朝とあって人通りもなく、静かな朝の風景を見せている。今日も間もなく登山客で賑わいを見せるのだろう。素晴らしい快晴だけに、今日のユングフラウ登山は超ラッキーである。うらやましいかぎりだが、間もなくこの地を立ち去らねばならない。今日、ユングフラウ観光に行くラッキーな人たちよ、われに代わって存分にユングフラウの景観を堪能してほしいものだ。
トゥーン湖遊覧
10時にホテルを出発し、ユングフラウの麓の町インターラーケンへ移動する。この町にはトゥーン湖とブリンツェル湖が仲良く2つに分かれて並んでいる。今日はこのトゥーン湖の遊覧を楽しむわけだ。
グリンデルワルトから下りの道を30分ぐらいかかってインターラーケンの町に到着。
(動画)インターラーケンに向かう途中、車窓よりユングフラウを望む
するとそのまま町の公園に向かう。なんと、そこからユングフラウヨッホの名峰が見れるのである。今日は快晴で冠雪したユングフラウが山の間から素敵な姿を見せている。さすがは我らがヴェテランガイドさんで、こんな観賞ポイントを知っているのには驚かされる。バスのドライバーさえ知らないポイントなのだ。
青空の下に輝くユングフラウヨッホ(インターラーケン市内の公園より)
(動画)青空の下に輝くユングフラウヨッホ(インターラーケン市内の公園より)
しばらくその美しいユングフラウの姿に見とれた後、インターラーケン・オスト駅へ向かう。このすぐ近くが遊覧船の乗り場なのだ。インターラーケンにはOst(オスト)とWest(ウェスト)の2つの鉄道駅が少し離れてあり、ユングフラウ登山には便利なインターラーケン・オスト駅から登山電車に乗車する(ウェスト駅からも乗車できる)。
インターラーケンの街
インターラーケン・ウェストの駅舎
トゥーン湖の遊覧船は、このインターラーケン・オスト駅が見えるすぐ近くの岸壁から出航する。トゥーン湖は隣のブリンツェル湖と細い運河でつなっがているのだが、遊覧船はこの運河をゆっくり入って来て岸壁に接岸する。
遊覧船が運河を入って来た
三階建の遊覧船
遊覧船のキャビン
乗船してしばらくすると出航である。ところがなんと、広い湖面に出るまで運河をバックで後進しながらゆっくり進むのである。船は約15分ぐらいかかって広い湖面に出ると、ここで方向転換して舳先を前にして航行する。
運河をバックで航行する
運河をバックで航行中
突堤を過ぎると広い湖面へ
3階建てのやや大きな遊覧船で、1階の船首と船尾が2等客のエリアとなっていてベンチが置いてあるだけ。船側デッキにもベンチが数脚置かれている。雨天の場合はどこで過ごすのだろうと気にかかる。
船首のデッキ
船尾のデッキ
1等の3階デッキはデラックス
1階と2階の中央部は広い食堂キャビンがあり、何かをオーダーしないかぎり入室ができない。そのため2等乗船客ははじき出されて船首と船尾の狭いデッキのベンチに座るしかない。
素敵な食堂キャビン
(動画)ハンググライダーの集団飛行
今日の湖面は風もなく穏やかで湖岸にはなだらかな山並みが連なり、のどかな風景を見せている。ざわざわと白波の踊る音を聞きながら、眼前に広がるパノラマ風景をじっと眺めていると、心やすらぐ思いがする。遠く左手前方には冠雪したアイガーやメンヒの山の頂が見える。
遠くにアイガー(左)やメンヒ(右)の山が見える
(動画)トゥーン湖の風景(遊覧船上にて)
(動画)トゥーン湖遊覧。メンヒ、ユングフラウの山が見える。
乗船客は結構多く、インド人やイギリス人のグループが乗り合わせている。我々も含め、ほとんどが団体グループの旅行客のようだ。横に座ったイギリス人の夫人に話を聞くと、35名の大集団でルクセンブルクとスイスをめぐる旅なのだそうだ。イギリスからユーロスターで来たそうで、大集団だから何かと大変らしい。その夫人はロンドンに近いコッツウォルズの町に住んでいるとのことで、その町のことをいろいろ尋ねたりしながら、楽しい会話を交わす。
こうしてのんびりと船旅を楽しむこと1時間超、下船地であるシュピーツ(Spiez)の町へ到着。ここで下船する乗客はかなり多い。シュピーツは鉄道ともつながる交通の要衝だからだろう。下船して桟橋に立ちながらふと振り返ると、その遠く向こうに冠雪した3つの山の頂が見える。左からアイアガー、メンヒ、ユングフラウヨッホなのだ。遠景ながら素晴らしい眺めではある。これがお別れのプレゼントなのだろうか?
シュピーツの街が見えて来た
(動画)シュピーツの町に到着(トゥーン湖遊覧)
シュピーツで下船する乗客が多い
シュピーツの船着き場
三角形の山が美しい(シュピーツ埠頭にて)
ヨットハーバー(シュピーツ埠頭側)
左からアイアガー、メンヒ、ユングフラウヨッホの山々(シュピーツ埠頭にて)
ベルンへ
上陸すると、出迎えのバスに乗ってスイスの首都ベルンへ向かう。シュピーツからの距離は短く、約30分でベルンの町に到着。有名なクマ公園の側でストップし、そこで下車。ここから徒歩観光が始まる。
ベルンに入ってきた
ベルンのこと
ベルンはスイス連邦の首都で、人口は約13万人。チューリッヒ、バーゼル、ジュネーヴに次ぐ4番目の規模の都市で、街の語源は熊(独:Bar)。市の紋章にもなっている。万国郵便連合などの国際機関も置かれていて、言語はドイツ語圏に属する。
ベルンは、アール川沿いに12世紀に誕生した都市であるが、現在ベルンがある場所には、古代ローマ時代以前からすでに集落があったという。ベルンの名前の由来には、いくつかの説がある。現在ベルンがある場所の近くにあったケルト人集落“ブレノドール”に由来するという説や、ベルンの創設者であるデューク・ベルヒトルド・V・フォン・ツェリンゲンが狩で捕らえた熊(ドイツ語で熊は『ベーレン』という)からつけたという説もある。
15世紀に作られた熊の動物園“熊公園”は、ベルンのシンボルにもなっている。この公園は2009年に改装され、もとの10倍の広さになっている。一時期、12頭のクマがいたそうだが、現在は数頭しかいないようだ。
ベルン市とクマの関係は長く、その歴史は500年にも及ぶという。冬に生まれた小熊を聖週間にお披露目する儀式もあった。何世紀にもわたり、パレードにクマが出動させられた。現在でもベルンのカーニバルは「クマの解放」から始まる。クマのはく製がベルン市の門から釈放されるという儀式である。
1983年に旧市街が「ベルン旧市街」の名で世界遺産(文化遺産)として登録されている。また連邦議会議事堂の近くには、大聖堂や時計塔があり、16世紀に作られた数多くの噴水がユネスコ世界文化遺産にも登録されている。
旧市街観光
熊公園を横目で見ながら、アール川にかかる橋を渡って旧市街に入る。市街には幅の広い大通りが貫いて、その中央部を朱塗りのスマートな路面電車が走り、道路わきをこれも朱塗りのトロリーバスが走っている。通りの所々に古い歴史を重ねたような噴水が設けられ、街のシンボル的存在になっているようだ。
ベルン市内を走るトロリーバス
同 上
道の両側には古い石造りの建物が立ち並び、中世の雰囲気を醸し出している。しかも面白いことに1階部分がアーケードになっていて、各ビルを通して貫いている。これは歩行者にとっては、なかなか便利な造りである。かのアインシュタインもこのアーケードをよく利用したようで、雨に濡れずに歩けて便利と手紙にも書いている。
その立ち並ぶ建物の一角に、
「EINSTEIN-HAUS」
と表示された入口がある。かつてここにアインシュタイン博士が住んでいた建物だそうだ。有名な相対性理論は、このクラム通り49番地で生まれたと彼自身が語っている。彼はヴインテラー校長の家に下宿していたそうだが、ここがその場所だろうか? 彼の第一子はスイス滞在時代に生まれている。
アインシュタイン博士が住んでいたハウス
同上入口
ベルンでも朝顔が・・・
ベルン市内を走る路面電車
歴史のある噴水
尖塔のある教会
時計塔
ベルン市内を走る朱塗りの路面電車
ビルの谷間から大聖堂の塔が見える
遠くにアイガー、メンヒ、ユングフラウの山並みが見える
面白い噴水
ベルン市内のメインストリートには便利なアーケードが・・・
同 上
通りのどん詰まりに通せんぼするように古い
時計台
が立っている。これは1530年に設置されたそうで、毎正時に鐘がなり、正午には人形が踊り出す仕掛けがある。鐘の響きはから〜ん、ころ〜んとよく響く音色で、それを見ようと時計台下には多くの観光客がつめかけている。
歴史を刻む時計台
(動画)時計台の鐘の音(ベルン市内)
レストランでマス料理の昼食を取った後、市内観光を続ける。通りを抜けて緑色のドーム型屋根を持つ
連邦議会議事堂
へ。この建物はベルンのシンボル的存在となっており、威容を誇っている。議事堂前の広場には楽しい変化を見せる噴水があり、そこで子供たちは水浴びをしながら遊んでいる。のどかな午後のひと時が流れる。午後の気温は26℃と汗ばむほどで、水浴びにはもってこいの気温である。
議事堂に通じる広場
ドーム型屋根の連邦議会議事堂
議事堂前の噴水で遊ぶ子供たち
(動画)議事堂前の噴水で遊ぶ子供たち
(動画)シャボン玉を楽しむ子供たち(ベルン市内)
連邦議会議事堂と広場
ここから移動して
大聖堂
へ向かう。ゴシック様式で建築されたベルン大聖堂の起工式は15世紀初頭に行われたが、その建築には長年の時間を要し、19世紀にようやく完成した。高さ103mの大聖堂の塔はスイスで最も高い塔で、250段のらせん階段を上ると展望台に至る。当初、この大聖堂には街のすべての住民を収容できたという。
ベルン大聖堂。塔の上部は修復工事中。
何度か行われた改築の際には、礼拝堂の色とりどりのフレスコ画や石像が取り除かれた。不思議なことに、15世紀を反映するあざやかな色彩の窓や正面玄関にある最後の審判と善悪二元論を表す234体の像は保存されている。
ベルン大聖堂入口の像。中央部が最後の審判と善悪二元論を表す像。
大聖堂の入口まで来たところで午後の正3時近くになり、時計台の動きを見ようと私独りだけ一行から外れて急きょ時計台へ急ぐ。ぎりぎり間に合って、何とか鐘の音は聞くことができたが、人形の動きはすでに終わっていて見られずである。時計台の下には大勢の観光客が集まって見物している。
再び大聖堂へ引き返して寺院の中に入ると、今ちょうど合唱団の練習が行われている最中である。シンフォニーに合わせた本格的なコーラスである。間もなくコンサートのイベントがあるらしく、それに向けての練習らしい。高い天井がそびえる荘厳な雰囲気の中で響き渡る合唱曲は素晴らしいものである。しばらくたたずんで聞き惚れてしまう。
(動画)大聖堂では合唱曲の練習の最中
次は塔の展望台に上ってみようと、聖堂内から出て玄関ホールへ。そこにはショップがあり、展望台の入場チケットも売られている。料金は5フラン(500円)。そこで係の老女性の前に、最後のコインの残金をポケットからかき集めてさらけ出し、数えてもらう。すると、わずか0.5フラン(50円)の不足と言う。そこで割引きしてもらえないかと交渉してみる。しかし、「ノー」と首を横に振られてしまう。
それでは両替しようと場所を尋ねると距離がありそうだ。これではあきらめるより仕方ないなあ・・・と思案しながら、もしや小銭がどこかに残っていないかとバッグの中やポケット全部を探してみる。するとラッキーなことに、バッグの片隅に1フランコインが残っているのを発見! これで助かった!と小躍りしながらチケット窓口へ。係の婦人はにっこり笑いながらチケットを渡してくれる。
こうして無事、すぐ目の前にある
展望台
への階段口へ。狭い螺旋階段で250段もあるので少々難儀なことである。だが、その先の眺望を楽しみに自分を励ましながら上って行く。
大聖堂の塔に上る250段の螺旋階段
息を切らしながら、やっとのことで展望台に出ると期待通りの眺望が待っている。眼下にはアール川をはじめ360度に見渡せる見事なパノラマ風景が広がっている。旧市街の建物の屋根瓦はくすんだレンガ色に統一され、いかにも歴史を刻んだ古い建物の雰囲気をただよわせている。はるか遠くの向こうには冠雪して白く輝くユングフラウの山並みが横たわっているのが見える。何とも素晴らしい景色である。
(動画)大聖堂展望塔よりの眺望(ベルン市内)
熊公園
展望台からの眺望を満喫した後、地上に下りて集合場所の熊公園へ向かう。前にも記述したように大通りの建物の1階部分はアーケードになっているので、なかなか便利な造作だなあと感心しながら通り抜けて行く。雨でも濡れず、直射日光も避けられて至極便利である。
ベルン市内のストリート
このストリートの突き当たりに熊公園がある
教会の尖塔が見える。左手に熊公園がある。
ぶらぶらとウィンドーショッピングしながらアーケードを通り抜けると、間もなく熊公園に出る。公園はアール川沿いの斜面に設けられており、上からも川沿いからも見物できるようになっている。熊の数が少ないせいか、ちょっと見ただけではどこに熊がいるのか分からない。よ〜く目を凝らして探すと、木陰で寝そべっていたりしている。インドでは牛が神聖な動物として扱われているが、この地ベルンでは熊がそれに似た存在のようである。
熊公園の看板
斜面に広がる熊公園
木陰で昼寝中の熊
バラ公園
一行が集合したところで、すぐ近くのバラ公園へ移動する。自由に出入りできる公園で市民の憩いの場となっている。カップルや家族連れなどが芝生に寝そべりながら憩っている。この公園では220種類、18000本のバラが咲きほこるという。
バラ公園
同 上
バラ公園の芝生で寝そべるカップル
この公園はバラの花もだが、高台にあるため市街が一望できる絶好のロケーションにあることでも有名である。公園の端に立って見下ろすと、湾曲するアール川に沿って細長く伸びる旧市街の様子が手に取るように分かる。その中心部には天空を突き刺すように大聖堂の塔が伸びている。残念ながら、塔の先端部分は修復工事のためシートで覆われている。
バラ公園から眺めたベルン旧市街の眺望。高くそびえる塔が大聖堂。
この公園からのおすすめ散策コースは、バラ公園〜熊公園〜クラム通り〜時計塔〜大聖堂通り〜大聖堂で、歩いて回るのには丁度よい距離だという。私もこのほとんどを歩いてみたが、ベルンの街の要所を知るには打ってつけのルートであろう。
出発の時間となり、若いカップルが楽しそうに芝生の上に寝そべる姿を横目で見ながら、バラ公園に別れを告げる。これで今度の旅の観光はすべて終わり、あとは空港へ向かうのみである。
チューリッヒ空港へ
最後の観光地となるバラ公園を後にすると、バスは一路チューリッヒ空港へ向けてハイウェーを快走する。ここから約2時間のバスの旅だが、この8日間事故もなくよく走り続けて、いよいよ最後のフィナーレに入る。
16年ぶり二度目のスイス訪問だったが、肝心のマッターホルンやユングフラウヨッホは生憎と天候に恵まれず残念な結果に終わった。その意味で悔いは残るものの、総体的にはまずまずの天候でスイスの素敵な側面を見ることができた。
8日間の素敵な思い出に耽りながら時を過ごしていると、空港が近づいてきた。これから日本まで12時間の空の旅が待っている。数々の素敵な旅の思い出を贈ってくれたスイスに感謝しながら、夜のチューリッヒ空港に降り立つ。
(完)
2011年10月18日脱稿