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            NO.23





14.ストックホルム・・・ 働き者の青年と小学生とドロットニングホル
               ム宮殿と
 

朝六時過ぎに目覚めて窓のカ−テンを開けると、外はギラギラの上天気だ。この地方は夜の暮れるのは遅く、明けるのは早い。車窓から眺める景色は相変わらず美しい。羊や牛が群れる牧場あり、鏡のように静かな湖あり、こんもりと茂る森林あり、といった素晴らしい田園風景がどこまでも続いている。
 

ストックホルム到着
七時四十九分、ストックホルム中央駅に到着。早速、駅で両替、ホテル予約、オスロ行きの座席予約と手際よくすませ、構内の一角にあるスナックでパン、コ−ヒ−にハムを取って朝食。ホテルは近くになくて徒歩十五分のところ、バッグが肩に食い込んで痛い。今日は聖霊降臨祭の祝日の朝ということもあってか、町は人通りや車もなく、人が住んでいるのかと思うほどひっそりとしている。一泊料金は、今日は祝日ということで四〇〇クロ−ネ=五、四八〇円(朝食付き)、週日は六〇〇クロ−ネ=八、二二〇円とやや高い。こちらでは週末と祝祭日は宿泊料金が安くなるらしい。このホテルは小さいながらも清潔でクリ−ン、部屋のライトも珍しくふんだんに取り付けてある。シャワ−室などの設備もピカである。
 

この国スウェ−デンは、世界でトップの社会保障で知られており、また世界的女優イングリッド・バ−グマンやグレタ・ガルボを生んだ国でもある。総人口は八百六十万人と北欧三ヶ国の中では一番多い。
 

市内観光
そんなことを思い浮かべながら、一服する間もなく十時発の市内遊覧に繰り出す。(三時間コ−スで費用二三〇クロ−ネ=三、一五〇円) 海岸べりにあるロイヤル・オペラ・ハウス前から出発というので、そこまで二十分近く歩いて行く。ここでも観光客は少なく、なんとなくひっ そりしている。まず、市の中心にある七百年以上も前に造られたという古い街並みを訪れ、それから狭い路地を通りながら七百年の歴史をもつ教会を訪れる。





ストックホルムの美しい風景










その後は市内を一望できる対岸の小高い丘に回り、その素晴らしい眺望に感嘆の声をもらしながらシティホ−ルへと移動する。ここ市庁舎の二階にある“黄金の間”は金色に輝く素晴らしいサロンで、ノ−ベル賞の晩餐会がここで催されるという。ここにはロ−マ、パリ、ロンドンのような華やかなビュ−ポイントはないが、「北欧のベニス」と呼ばれるだけあって、幾多の島や半島にまたがるストックホルムの景観は時の過ぎるのを忘れさせてくれる。
 




高台よりストックホルム市内を 望む。














 市庁舎のタワー















市庁舎黄金の間・ここでノーベル賞受賞者の晩餐会が開かれる









遊覧を終えてから駅のスナックへ回り、サンドイッチとコ−ヒ−で昼食をすませる。歩きながらカフェテリアを探し回るのだがなかなか発見できず、適当な食事所が見当たらない。ホテルに戻って午睡を取り、夕方、近くのピザショップで不本意の夕食をとる。昼間は太陽がいっぱいで結構汗ばむほどの暖かさだったが、夕暮れには雲が厚くなって急に冷え込んでくる。昼間の気温は十八度である。
 

第二日目。このホテルは食堂がないらしく、朝食はル−ムサ−ビスである。内容はパン二個、ハム三切れ、チ−ズ、ゆで卵、バタ−、ジャム、それにコ−ヒ−またはティ−の簡単なもの。ここでもレンタサイクルがあるというので、観光案内所へ出かけて聞いてみると、ここではやっていないが外れの公園の橋のたもとに貸し自転車があるという。かなり遠いが、そこまでぶらぶら海岸線を歩くことにする。結局、ホテルを出てから一時間がかりでやっと辿り着く。そこではロ−ラ−スケ−トやボ−トもそろえて商売している。
 





ストックホルムの繁華街











サイクリングを楽しむ
その店には、人なつこい係の青年がいていろいろと話し込む。彼は日本が大好きで、近い将来ぜひ行きたいという。その時は長期間滞在して全国を回りたい。そして、大都市よりも地方の小さな町を見て回りたいという。大都市はどこも同じだから興味ないらしい。また、原爆のこともよく知っていて、その投下が広島は八月六日、長崎は九日ということまで知っている。そして、なぜ長崎に原爆が落とされたのかと聞いたりする。それから、日本人はよく働く。この国の若者は、老後の保障があるため怠けて働かずダメだという。自分は毎日十時間働いてがんばっている。税金が三十パ−セントも引かれるそうだが、お金を稼いで貯めたら日本へ行くのだという。私が伝票に漢字のサインをすると、それがとても美しいといって眺め入る。日本びいきのなかなか感心な青年である。


自転車を借り、スタンドでサンドイッチにバナナ、ファンタジュ−スを昼食用に仕入れてサイクリングへ出発。さわやかな北欧の風を頬に受けながら、人気のない広大な公園を駆けめぐる。そのしたたるような木々の緑と芝生が描き出す公園のの美しさは、息をのむばかりである。一人で来るのはもったいない。






息をのむような美しい公園










静かな湖水のほとりに腰を下ろして昼食を取っていると、小学生の一団がやってきてはしゃぎ回っている。どこの国の子供たちも、元気で可愛いものだ。つい、からかいたくなって、近くに来た一人の子に「遠足に来たの?」と声をかけると、人なつこく近寄ってきて話し始める。すると、たちまち五、六人の生徒たちが興味ありげに寄ってきて私を取り囲む。そして、こちらの質問に、自分たちは十一歳で、ここから少し離れたダンドリッドからバスで遠足に来たのだと答えてくれる。そして、一クラス二十五名で、十二歳で小学校は終了するという。
 

生徒の一人が「どこから来たの?」と聞くので、「どこだと思う?」と問い返すと、「チャイナ?」と聞く。おやおや、彼らにはそんな風に見えるのかなあ、と思いながら「ノ−」というと、今度は「ジャパン!」といい当てる。やがて引率の女教師が、「帰りますよ」といってみんなを呼び集め、手を振りながら立ち去る。彼らは学校で習うのだという英語で、結構上手に話しかけてくる。日本の小学生とは大変な違いである。もっとも、アルファベットが共通だから英語の学習も容易なのだろうが。
 

こちらも公園を後にして、今度は市街のほうへサイクリングする。海岸へ向かってきちんと並んで走る幾筋ものストリ−トを、ゆっくり縫うようにして自転車で駆けめぐる。不思議なことに、どこにもポルノショップは見当たらない。あれほど有名な国なのに……。どこかにかたまって商店があるのだろうか。そんなことを思いながら、出発点へUタ−ンする。戻ってみると、ロ−ラ−スケ−トやボ−ト乗りの若者たちで結構賑わっている。レンタル料は十一時から午後二時半まで借りて一四〇クロ−ネ=一、九〇〇円と、コペンに比べて高すぎる。
 

一服して駅へトボトボと歩いて立ち寄り、スナックでハムにポテトサラダとビ−ルをとって早目の夕食をすませる。これがなかなかうまい。夜食に菓子パンと牛乳を買って帰る。今日はたっぷり歩かされて、疲れ果てた感じである。鏡を見ると、一ヶ月を超える長旅で顔や手の甲などは日焼けで黒っぽくなっている。南欧の日差しがきつかったので、大半はそこでの日焼けに違いない。帽子だけでは防ぎようがない。洗濯をして早目に就寝。


ドロットニングホルム宮殿
第三日目。たっぷり九時間も寝て、朝六時半に目覚める。今日は美しい庭園を持つといわれるドロットニングホルム宮殿を、十時発の船に乗って一人で探訪する予定である。波止場まで迷いながら三十分もかかって到着。船は今時に珍しくクラシックな蒸気汽船で、小型ながらも一階と二階にそれぞれカフェを備えている。(往復料金七〇クロ−ネ=九六〇円) プリンス・カ−ル・フィリップ号は、両側に変化に富んだ美しい光景を展開しながら、エンジンの振動もなく滑るように島々の間をぬって航行する。ひとにぎりの観光客を乗せて五十分でドロットニングホルムに到着である。静かな海辺に影を映しながら建つ宮殿の全景を、ゆっくりと近ずく船の上から眺めるシ−ンは本当にため息ものである。






ドロットニングホルム宮殿の遠景















桟橋より眺めたドロットニングホルム宮殿













宮殿の玄関前
向こうに見えるのが船着場










上陸して宮殿内部に入る。入場料三〇クロ−ネ=四一〇円を払って階段を二階へ上って行くと、豪華な室内装飾や大きな絵画、天井画などの美しさに圧倒される。監視係の品の良いお嬢さんが、だれもいない部屋でポツンと一人立っている。そこで、いろいろ質問すると丁寧に説明してくれる。   


この宮殿は一、六〇〇年代に建築が始まり、一、七〇〇年代に完成したそうで、現在、王室の住まいに使われているそうである。
 

彼女はこの仕事について未だ四週間しかならないそうで、それまで学生だったとのこと。毎日、バスで通っているそうだ。「日本から来たのですか?」と聞くので、「そうです。あなたは日本に来たことありますか?」とたずねると、「まだ行ったことがありません。ぜひ行きたいのですが。」と答える。「千ドルもあれば往復航空運賃OKですよ。」といえば、「でもホテル代や食事代もかかりますよ。」となかなか細かい。
 

エレガントな彼女と別れて、庭園のほうへ出てみる。ウ−ン、素晴らしい。よく手入れされた見事なロイヤル・ガ−デンが静かに広がっている。庭園の周囲には、大きな樹木が取り囲むように整然と立ち並んで緑のカ−テンをつくっている。砂利も掃きならされて、きれいな筋目が立っている。ベルサイユ宮殿も含め、今度の旅行で見てきたロイヤル・ガ−デンの中では最良の美と雰囲気をもった庭園ではなかろうか。その美しさに打ちのめされ、ため息さえ出そうにない。近くのベンチに座って、しばし美と静寂の中に全身を委ねる。
 





 宮殿の美しい庭園















 庭園横の並木










我に返って昼食の手配に動き出す。この辺り一帯は宮殿に続いて広大な公園になっており、その一角に高級レストランが一軒見えるのみで、商店などは見当たらない。わずかに上陸した波止場の近くに食品スタンドがあるのみである。そこでサンドイッチとファンタオレンジを仕入れ、再びロイヤル・ガ−デンへ戻って昼食とする。貧弱な食事ではあるが、これほどゴ−ジャスな場所のセッティングがほかにあるだろうか。
 





 宮殿側の公園










独りのガ−デンパ−ティ−を終えて公園のほうへ回ると、ここにも二、三の小学生グル−プが遠足にきている。後の船便でやってきたらしい。また味を占めて、彼らに話しかけてみる。昨日の小学生よりも英語が少したどたどしい。彼らの決まり文句で、「どこから来たの?」と質問が始まる。そこで、こちらも素直には答えないで「当ててごらんよ。」と問い返す。すると目を輝かせながら、みんなで国名の当て比べが始まる。「ホンコン?」「ノ−」「タイワン?」「ノ−」「コリア?」「ノ−」「チャイナ?」「ノ−」「トウキョウ・ジャパン!」とだれかが最後にいい当てる。みんな歓声をあげて喜んでいる。彼らの見立てがなかなか面白い。それにしても、最後にしか日本国名が出てこないのはどういう意味だろうか。ヨ−ロッパの子供たちから見た自分の人相が伺えてなかなか興味深い。
 

一時発の汽船で帰り、ホテルでしばし午睡。六時になって、帰り道にやっと見つけたカフェテリアへ夕食に出かける。ビ−フと肉ダンゴにバタ−炒めライス、それにビ−ルをジョッキ一杯とって七二マルク=九八〇円。久々に充実感のある夕食で食欲も満たされる。最後の日になって中華レストランも見つかったが、もう遅すぎる。夕方は冷やついて寒い。道行く人もコ−トを着ている。ところで近年、日本ではとんとお目にかかれなくなった乳母車だが、当地ではそれがよく活用されている。船にまで車ごと乗り込んで行楽に出かけるのは常識らしい。また、自動車は昼間でもライトを点灯して走行するのが規則のようだ。



(次ページは「ノルウェー・オスロ編」です。)










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