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           NO.3






4.ア テ ネ ・・・・ 幻想的なパルテノン、ギリシャ美人、紺碧のエ−
             ゲ海


アテネ到着
バンコクから約十一時間の飛行で早朝六時半、小雨にけむるアテネ・エリニコン国際空港に到着。ヨ−ロッパへの長い道程をたった一人でやって来て、やっとの思いでアテネに第一歩を印すことができた感激に心は打ち震える。


機内で眠ろうと努力したが、いつものことでとうとう一睡もできないままに着いてしまう。イミグレ−ション(入国審査)は簡単に通過、続いて次の関門に行くと、みんなテ−ブルの上で何やら書類を書いている。掲示を見ると、「所持している通貨の申告をせよ」と数ヶ国語で書いてある。そういえば、ガイドブックにギリシャでは通貨の申告が必要だと書いてあったなあ、と思い出しながら、やれやれと重いバッグを足元に置いて書類を取り上げる。


内容を見ると、これも何ヶ国語かで書いてあるが、英語の意味がよく分からない。辞書は持ってきていないので困ったが、適当に判断して記入する。緊張したせいもあってか、書き終わったら汗びっしょりになっており、ハンカチで額を拭きふき列に並ぶ。数人並んでいるだけなので、すぐに順番が来る。何といわれるかドキドキしながら書類を差し出すと、若い男性の係官がそれも見ないで「あなたは日本人か?」と英語で聞いてくる。「イェス」と答えると、 「ノ− プロブレム」といいながら、通ってよろしいと手で合図する。日本人なら問題ないから行けというのだ。「ラッキ−」と心の中で叫びながら、関門を通過して行く。こうして、いよいよアテネ市内へ自由の第一歩を踏み出すことになる。


ロビ−へ出ると、出迎えの人たちも早朝とあってか、まばらにしか来ていない。そこを通り抜けて早速、両替所を探しにかかる。早朝にもかかわらず、一箇所だけ銀行の支店が開いている。いや、ちょうど係が来て扉を開けいているところである。まだだれも客は来ておらず、真っ先にギリシャのドラクマ通貨に五千円分の両替をすませ、バス乗り場へと急ぐ。


ホテルへ
さあ、これから市の中心部にあるシンタグマ広場まで行かなくてはいけない。その近くに予約しているPホテルがあるのだ。空港玄関を出て辺りを見回すと、まだ人気のない広場の一角に二階建てバスが一台止まっている。早朝の到着便に合わせたバス便なのだろうか。「あっ、あれだな。」と、ガイドブックに書いてあるとおりの光景を目にして、安堵感と嬉しさがじわ−っと込み上げてくる。傘をさすほどもない小雨の中を、バスへと急ぐ。乗客は一人もいない。運転手がただ一人ポツンと運転席に座って待っている。


バスに乗って荷物を置くと直ぐに運転席へ行き、「シンタグマ、OK?]とたずねると、OKという返事。「ハウマッチ」と聞くと、「一六〇ドラクマ(約六十七円)」と英語で答えてくれる。今、両替したばかりのドラクマ硬貨をポケットから取り出して料金を支払い、チケットをもらう。ホッとした気分で座席に座る。二階へ上りたいが、バッグが重いのであきらめることにする。それにしても、憧れのヨ−ロッパ第一歩の初日が雨とはついてないなあ、と心の中で独りつぶやく。


発車までまだ時間がある様子。気持ちも落ち着き、初めて見るアテネの風景を車窓からゆっくり眺め回していると、「今、本当にアテネに来ているのだろうか。夢ではないのだろうか。」と何度も確かめたい気持ちになる。「オレは今、間違いなくアテネにいるのだ。」と、何度も自分にいい聞かせてみても、なかなか夢見心地の世界から抜け出せない。ふと、我に返って彼方の空を眺めていると、少し明るくなってきている。晴れてくれればいいがなあ、と心の中で祈る。やがて可愛い少女と少年が乗ってくる。二人は姉弟らしい。こんなに早くからどこへ行くのだろう。登校する様子でもないし……といろいろ想像しているうちに、われわれ三人を乗せたバスは市内へ向けて発車する。


途中、バスは東タ−ミナルらかなり離れた西空港タ−ミナルへ寄って行くが、ここでも乗客はいない。まだ、車の少ない早朝の自動車道を、古びた二階建てバスはスピ−ドを上げながら走って行く。市内が近づくにつれ、だんだんと空に晴間が見えてくる。この調子で晴れてくれよ、と心の中で祈る。地図によると、左手の丘の上にパルテノン神殿が見えてくるはずなのだが、と思いながら期待に胸がふくらむ。空港から市内まで約十五キロの距離だから、そんなに時間はかからないはずだがと考えていると、間もなく前方に市街地が見えてくる。その中心部に、都会の団地の中で見かける給水塔のようなものが見えてくる。あれは何だろう。この地にも、やはり団地スタイルのアパ−ト群が建っているのだろうか。そう思いながら、パルテノン神殿が見えるのは今かいまかと心をはやらせる。


やがてバスは市街地の中へ入って行き、「給水塔」がみるみる近づいてくる。その時である。夢にまで見たあのパルテノン神殿が、予想通り左手の丘の上にはっきりと見えるではないか!またもや、夢の世界に連れ戻されたような錯覚に陥る。この一瞬をどれほど待ち焦がれていたことだろう。いやがうえにも心は高鳴る。感激に浸りながら、うっとりしていると、いつの間にか「給水塔」が目の前に迫っている。おや? これは給水塔ではないぞ……それはなんと、古代遺跡の大理石の柱ではないか! こんな市街地のど真ん中に、ド−ンと古代遺跡が姿を現すなんて、感激もまたひとしおである。大理石の柱を給水塔と見間違えた自分のおかしさに、ひとり吹き出しながら笑いが止まらない。


やがてバスは町の中心地シンタグマ広場に到着。親切にも運転手がシンタグマと教えてくれる。ヨ−ロッパの各都市は、こうした〇〇広場が町の中心になっている。停留所に降り立って地図を広げ、辺りをゆっくりと見回す。しかし、地図で現在位置をいくら探してみても、どうしても分からない。聞くにも早朝のことで人通りは見えない。


すると前方のほうに警備員らしき人が立っているのが見える。よし、この人にたずねてみようと、その方向へ歩き出す。「シグノ−ミ プ− イ−ネ Pホテル(ちょっとすみません。Pホテルはどこですか?)」と、覚えたてのギリシャ語で話しかけながら、ホテルの住所を書いたメモを見せる。すると「Pホテル?」と、首をかしげて知らない様子。そしてメモを見ながら、メトロポ−ル11番街はあっちの方向だと教えてくれる。ギリシャ語を初めて使ったが、ほんの片言でも現地語を使うのは実に楽しいものである。本当に外国に来たという実感がわいて何ともいえない気分になる。


少し距離がありそうだ。バッグが肩に食い込んで痛い。百メ−トル以上も歩いたところで、辻ごとの壁に表示されている街路表示盤を見ると、メトロポ−ル11と書いてある。確かにここだな、と通りを見回すがPホテルの看板は見当たらない。そこで、うろうろと周辺を歩いて探してみるが、それでも分からない。ちょうど歩道でキオスクの開店準備をしている老人がいるので、またたずねてみる。彼はPホテルを知っている様子で、もう一つ次の通りだと地図で教えてくれる。そのとおり行ってみると、あった! Pホテルの看板が確かに見える。意外と小さなホテルだ。だから目に入りにくいのだ。やれやれ、これで今夜の宿はとにかく安心だ。 


ホテルの玄関を入ってフロントへ行くと、ギリシャ美人の若い女性がにこやかな笑顔で出迎えるではないか。彼女に気を取られて、折角覚えたてのギリシャ語のあいさつを忘れそうになるが、やっとのことで思い出し「カリメ−ラ(おはよう)」とあいさつを交わす。すると、彼女も「カリメ−ラ」とあいさつを返してくる。そこで、宿泊のク−ポン券を取り出して見せながら、「今夜の宿泊予約を取っているのですが。」と、今度は英語で話しかけると、「ちょっとお待ち下さい。」と彼女も流暢な英語で応える。帳簿を見ながら、「確かに承っております。でも、部屋を掃除中なので、しばらくお待ち下さい。」とにこやかに応対しながら市街地図を渡し、ロビ−のテ−ブルへ案内してくれる。そうか、まだ朝の八時前だから無理もないなあ、と独り思いながらテ−ブルに腰掛け、ホットミルクを注文する。


ホテルに着いた安堵感にひたりなら熱いミルクを飲んでいると、六時間の時差と不眠による疲れが一気に襲ってくる。しばらく憩っていると、一人の紳士が観光パンフレットを持って来て示しながら「市内観光なら今から二十分内に申し込めばバスの発車に間に合いますよ。」といって宣伝する。どこのセ−ルスマンかと思っていると、フロントの中に戻って例の彼女と話している。どうも親子の雰囲気である。しばらくすると立ち去ったので、フロントに近寄って行って「彼はあなたのお父さん?」と聞くと、「そうです。このホテルは私たち家族で経営しています。」という。「英語がうまいですネ。どこで勉強したんですか。」と聞くと、大学で勉強したという。「学生さんなの?」と聞くと、そうだという。自分はいま、大学で化学を専攻している。毎週月曜と金曜の二日間だけホテルの仕事を手伝っているのだという。「あなたはとてもキュ−ト・ガ−ルだ。ボ−イフレンドはいるの?」と問いかけると、とても嬉しそうな顔をしながら「あまりハンサムではないが、素敵な彼がいます。ハンサム・ボ−イは危険ですから…。」と、しっかりしたことをいう。


もらった観光案内パンフレットを読みながらしばらく待っていると、部屋の準備ができたからどうぞという。エレベ−タ−まで案内され、乗せてくれる。ところがなんと、このエレベ−タ−は古式ゆかしい二人乗りぐらいの小さなもので、自分でドアを開いて乗るというしろものである。四階のボタンを押すと動き出したが、さらに驚いたことには、内扉もなく壁まる出しの危険な状態である。挟まれたら大変だとばかり、思わず身構える。


クラシック・エレベ−タ−に感心しながら四階の部屋へ入ると、古びた部屋にシングルベッドが備えられ、バスル−ムにはこれも古びたバスタブ、洗面、トイレが並んでいるのが見える。ホテルの建物自体がかなり古くなっている。しかし、玄関ロビ−から階段の端まですべて大理石張りの建物である。とまれ、初の旅装を解いて一服する。そして、おもむろに今日の行動を考える。まず、ロ−マ行き航空券の手配とエ−ゲ海クル−ズの予約をしなくてはいけない。観光案内を見ると、エ−ゲ海クル−ズは一日コ−スか三日以上のコ−スしかなく、希望する二日コ−スがない。日数の関係で三日は取れないので、残念ながら一日コ−スしか選べない。今日晴れ上がったばかりなので、恐らく明日は晴天だろうから明日のうちにエ−ゲ海クル−ズをすませておこう。


外出準備をして町の探索に出掛ける。フロントで、明日のエ−ゲ海クル−ズの予約を申し込んで外へ出る。地図を片手にシンタグマ界隈をうろつきながら銀行で両替をし、見つけた旅行社へ飛び込んで三日後のロ−マ行き航空券(二七、〇〇〇円)を購入する。英語が通じるので助かる。お腹も空いてきたのでレストランに入り、ステ−キにビ−ルを取って独り無事の到着を祝して乾杯する。驚いたことに、みんな交通信号無視で、くるまが通っていなければどんどん横断して通り抜ける。合理的といえば合理的かも知れないが、日本人の私は少し戸惑う。


ホテルに戻ると、老婦人がフロントにいるので声をかけると、いろいろ話しかけてくる。話し好きの人らしく、話し出したら止まらない。それがギリシャ語なまりの英語なので、なかなか聞き取るのに苦労する。どこから来たのかと聞くので、日本から来たと答えると、自分には三人の子供がいるが息子は昔日本に滞在したことがある、自分の先代がこのホテルを造り、今では息子が経営している、そして、あの孫娘の父親が息子なのだ、という。また、大理石のことを聞くと、アテネの近くでは大理石がふんだんに採れるので大理石張りで造れる、でも滑りやすいのであなたも滑って転ばないように注意したほうがよい、これまで転んだお客が何人かいるので、などと話して聞かせる。


そこそこで話を打ち切り、部屋に戻って初洗濯をする。そしてシャワ−を浴びると、シャワ−出口が破れていて横に飛び散り、使いこなすの一苦労する。なんでも骨董品だなと思いながらシャワ−をすませ、ベッドに横たわりながらもらった観光パンフレットやガイドブックを読み耽る。そのうち睡魔が襲い、眠くなってくる。午後四時から九時までぐっすりと眠り、途中目覚めてパンと牛乳で腹ごしらえをし、再び眠りに着く。こうしてアテネの第一日目は暮れていく。


(次ページは「エーゲ海クルーズ編」です。)










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