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   NO.36




レマン湖遊覧
第二日目。穏やかな快晴である。今日は一日かけてレマン湖遊覧の旅である。この湖は、三日月形をした水深三百三十メ−トルもある湖水で、琵琶湖よりも大きい。このレマン湖の最南端のどん詰まりにある町がジュネ−ブ、その反対のどん詰まりがモントル−の町で、有名なシヨン城がある。そして、三日月形の外側の辺の領域がスイス国、内側の辺の領域がフランス国と二国にまたがる湖でもある。遊覧船は、この湖をジグザグに航行しながらスイス側とフランス側の主な町に寄港して行く。だから反対側の国に上陸する時はパスポ−トが必要になる。
 

イヴォワ−ルとモントル−はどちらがお薦めかとフロントにたずねると、モントル−がいいだろうと薦めてくれたので、今日はシヨン城まで足を伸ばしてみよう。十時二十分発の船が随分遅れてジュネ−ブから到着、ニヨン城へ遠足なのか百人以上の小学生が引率されてぞろぞろと下船する。それと入れ代わりに、これも遠足なのか数十人の幼稚園児たちが母親に付き添われて乗船する。この船はユ−レイルパスが利くので、運賃はどこまで乗ってもタダである。二階が一等デッキになっているので二階へ上がると、テ−ブルと椅子が用意されており、自由に座ることができる。一階の乗客は多いようだが、二階は少なくゆったりとしている。


                   



船上からニヨン城とニヨンの町並みを望む








昨日とは打って変わり、鏡のような湖面を船は音もなく滑るように進んで行く。それもそのはず、今では珍しい蒸気汽船なのだ。その推進力はスクリュウではなく、双胴に取り付けられて回転する大きな羽根車なのである。







レマン湖の遊覧船はクラシックな蒸気汽船








途中、イヴォワ−ル(フランス)、ソンノン(フランス)、エヴィアン(フランス)、ロ−ザンヌ(スイス)、ヴヴェイ(スイス)の町に寄港しながら、三時間少々でモントル−到着である。
                   





同じ型の遊覧船が向こうを航行している














イヴォワールの町(フランス領)














ソンノンの町(フランス領)










二階のデッキに座って船上からの風景を遠望していると、まるで夢見心地の世界に引き込まれるようで、何ともいえずのどかでやわらいだ気分にさせられる。肉体の隅々から心のひだの中まで、すべてが癒やされてしまうような感じがする。全身が骨抜きになってしまいそうである。命の洗濯とは、このことをいうのだろうか。
                   

スイス側を眺めると、やわらかい陽光をいっぱいに受けたなだらかな斜面がどこまでも続いている。






ローザンヌ(スイス)の遠望










一方、フランス側に目を移すと、“アルプスの女王”モンブランに連なる険しく白い峰々が壁のようにそそり立っている。この対照的な自然の景勝に囲まれたレマン湖は、エメラルド・グリ−ンに輝く鏡のような湖水を湛えている。そのど真ん中に浮かびながら羽根車で進む船上に身をまかせてコ−ヒ−の香りにくすぐられていると、もうこれ以上の幸福感はないという気さえしてくる。復路はモントル−から列車で戻ろうと思っているが、予定を変更して帰りも再度この船の旅を満喫してみよう。そう心に決めて下船する。                   






モントルーの町(スイス領)











シヨン城
モントル−で降りると、そこからシヨン城までバスで十分ぐらいの距離である。バスに乗って切符の買い方が分からず迷っていると、親切な乗客がやってきて販売機の操作と料金を教えてくれる。彼女は降りる停留所も教えてくれて、合図のボタンも押してくれる。バスの窓から眺めていると、素敵な角度からシヨン城が視野に入ってくる。そのお城は、鏡張りのような湖面に少し突き出た岩場の上に建っている。それほど大きな城ではないが、湖のほとりに建つ静かなたたずまいが何ともいえず美しく、気持ちを和ませてくれる。
 

お城に入ると、日本語の案内パンフレットが用意されている。それもそのはず、ここはインタ−ラ−ケンからジュネ−ブへ出る日本の団体ツア−の観光メインル−トにあたっているのだ。もうすでに、日本の団体さん二グル−プがバス仕立てで見学に来ている。パンフの説明によると、このお城の建築年代は不明だそうで、十一〜十三世紀の間に拡張されて現在に至っている古城である。中には大広間、寝室、礼拝堂、地下室、牢獄などがそのまま残っていて、往時がしのばれる。
                   

門を出ると、バスの中から見えたとても美しいお城のシ−ンを写真に撮りたいと、六百メ−トルぐらい離れた場所までテクテク歩いて行く。ここからのアングルはシヨン城の絵葉書のシ−ンと同じもので、湖面に影を映したお城の遠景がえもいえず美しい。






シヨン城の遠望
小さくてよく見えない















シヨン城の美しい眺め(湖面に突き出ている所)








再びバスに乗って波止場まで戻り、そこのカフェテラスでソフトクリ−ムを食べながら一服する。しばらくして、三時五十分発の蒸気汽船でニヨンへ引き返す。あまりにも快適な船の旅が忘れられず、もう一度船上でゆっくりと流れるのどかな時を過ごしてみたいのである。                    


この感動が薄れないうちにと、シヨン城の美しい絵葉書を使って船上からの便りを妻子へしたためる。やがて、ロ−ザンヌから六十四歳になるという老人が乗ってきて同席する。彼はロ−ザンヌに住んでいて、今日はジュネ−ブに用事で行くところだという。少し日本語を覚えていて、「天にまします我等の神よ。……」の長い祈り言葉をしっかりといってみせてくれたのには驚きである。今から三十五年ぐらい前には貨物船の乗り組み員で、世界中かけめぐったという。日本は東京、横浜、千葉、大阪、神戸に行ったそうだ。世界中回った中で、どこが印象に残っているかとたずねると、「やはり日本が好きだ。国も美しいし、人もやさしいからだ。」という。
 

船がエヴィアンの町にさしかかった頃、老人が日本にも馴染み深いミネラルウォ−タ−の 「EVIAN」を注文して飲み始めるので、フッとひらめき、もしかしたらと思って聞いてみると、やはりここのエヴィアンで採れた天然水で、ここの工場で製造されているとのこと。なるほど、エヴィアンの町はアルプスの麓になるので、万年雪が溶けたきれいな水が採れるわけだ。これなら安心して飲めるなあ。思いもかけぬ「EVIAN」水の故郷に出会って、なんだか懐かしい気持ちになる。船から見るとエヴィアンの町は美しく、素敵なホテルもそろっているようだ。機会があれば、一度は立ち寄ってみたい気がする。

 




エヴィアン(ここはフランス)の美しい町









ニヨン到着が遅いので、船上レストランのディナ−を楽しもうと一階の一等室レストランへ降りて行く。ディナ−コ−スを注文し、久々にワインとしゃれてみる。トマトを薄切りにして調理したオ−ドブル、パスタを添えたビ−フの切り肉、デザ−トはフル−ツポンチ風のものとコ−ヒ−である。料金三四・七〇フラン=二、五二〇円。湖上の風景を眺めながらのディナ−は、素晴らしいの一語に尽きる。
 

夜七時半、ニヨンに到着。ホテルへ戻ってシャワ−を浴び、素敵な今日一日の船旅に満足感でいっぱいになりながら、静かにベッドへ横たわる。これまでの旅で出会った日本人から、必ずといっていいほど出るのが、「これまで回ってきたうちで、どこが一番よかったと思いますか?」という決まり文句の質問である。そのたびごとに、「ウ〜ン。そうですね……」といいながら返答に窮していたのだが、これからは困らないですみそうだ。それは「レマン湖」と即答できるからである。



(次ページは「パリ編」です。)












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