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             NO.8




延長2,〇〇〇kmにおよぶ大珊瑚礁・・・・ グレ−ト・バリア・リ−フ

二日目。朝食を取ろうとダイニングル−ムへ行くと、そこには二種類の角パンとハム、ミルク、コ−ヒ−、ティ、バタ−、ジャムなどが一通りそろっている。十枚は一度に焼ける大型ト−スタ−にパンを二枚入れて焼き、ティを飲みながらゆっくりと朝食を取る。朝食付きなのでその心配がなく有難い。部屋に戻ると備え付けの金庫に貴重品をしまい込み、身軽になっていざ出発。
 

午前八時、英国のウィンチェスタ−から来たという二人のお嬢さんたちと一緒に、ホテルから迎えのバスに乗ってポ−ト・ダグラスへと向かう。ここはケアンズの北六十五kmのところにあり、美しい海岸線を走って車で一時間半の道程である。また、ここは六・四kmもの長さを持つビ−チに面した港町でリゾ−ト地としても脚光を浴びており、グレ−ト・バリア・リ−フ北部へのクル−ズ船やフィッシングボ−トなどの発着基地にもなっている。今日はここから発進するスマ−トな双胴の高速クル−ズ船に乗って、グレ−ト・バリア・リ−フの一角エイジンコ−ト・リ−フへ向かうのである。
 

空には雲が少し浮かんでいるが、いかにも油絵で描いたような南国らしい青空が輝いている。途中、ゴ−ジャスなリゾ−トホテルに立ち寄りながら乗客を拾っていく。そのほとんどは、日本人のツア−客だ。みんな贅沢なホテルに泊まっている。バスは時折、細く伸びたヤシの樹が茂る美しいビ−チに出会いながら、穏やかなブル−の海面をたたえた海岸線を一時間半走ってポ−ト・ダグラスへ到着する。今日は絶好のクル−ズ日和だ。小さな入江には大小さまざまのヨットやクル−ザ−がひしめき合い、さすがはマリン・リゾ−トの基地であることをうかがわせる。 






ポート・ダグラスの入江










すでに桟橋には、リ−フ行きの白い船体の双胴船が乗客を待っている。






リーフへ向かう快速クルーザー











 ポートダグラス港口付近のトロピカルムードがただよう風景


クル−に迎えられて乗船すると広い船内にはシ−トとテ−ブルが並べてあり、ゆっくりくつろげるようになっている.。十時に出港したクル−ザ−は、スピ−ドを上げながら陽光きらめく静かな海面をけ立てて突っ走る。間もなくモ−ニング・ティのサ−ビスが始まり、コ−ヒ−を飲みながら座席でくつろぐ。向かい側に若いカップルが座っているので「どこから来たのですか。」と尋ねると、「スペイン」だという。スペインのどこかと聞くと、バルセロナだという。新婚十日目のホヤホヤで、ハネム−ン旅行に来たという。
 

ハンサムな新郎のほうは英語が話せないが、まだ二十歳であどけなく愛らしい新婦は人なつこくて英語が少し話せる。そこで、いろいろと話しかけてみる。「恋愛結婚なの?」「私たち幼なじみなんです。」「どちらがプロポ−ズしたの?」 「彼のほうからよ。」「家族と一緒に住んでいるの?」「いいえ、郊外に家を借りて二人で住んでいます。」「あなたも働いているの?」「えゝ、私も働いています。」などと会話が続く。そして、一年前にバルセロナ、マドリッドを旅行したことガウディの名作・聖家族教会の奇抜な尖塔には深い印象を受けたこと、などを話して聞かせると一層興味を示し始める。
                     

さらに、「オラ」「ポル ファボ−ル」「グラシアス」「ドンデ エスタ エル セルビシオ?」などと知るかぎりのスペイン語を並べ立てて喜ばせる。そして、呼び方を忘れていたので「あなたは“セニョリ−タ(娘さん)”と呼べばいいんですか、それともセニョ−ラ(婦人)ですか?」と確かめると、「セニョリ−タよ。」といいながら肩をすくめておどけて見せる。彼女のおとぼけぶりを新郎と二人で冷やかし合いながら和やかな時が流れていく。
 

数ヶ国語で書かれた日程の説明書が用意されているので、日本語版のパンフを取って読む。それによれば、水着の着替えは到着までにトイレですませること、ランチは一時半までに終わること、スノ−ケルの用具は消毒済みになっているので自分に合うものを使うこと、珊瑚で傷付いたらすぐに消毒すること、スキュ−バダイビングは前もって予約が必要など、スノ−ケルの使い方も含めていろいろ注意事項が書いてある。
 

説明書に読み耽っていると、傍を通りかかった若いクル−の一人が、「日本の方ですね?私はマ−チンといいます。愛称のマ−チャンと呼んでください。」と流暢な日本語で話しかけてくる。彼は日本人乗客のガイド役として、この船で働いているという。どこで日本語を勉強したのかと尋ねると、茨城に二年間住んで英語学校の教師をしていたという。東京でも運搬トラックの運転手をして一時住んだことがあるという。どおりで日本語がうまいはずだ。


フレンドリ−な彼は、こちらの質問に親切に答えてくれる。着替えの荷物類はどこに置くのか、貴重品はどうするのかなどと質問すると、荷物はどこでも適当なところに置いてかまわない、盗難の心配はいりませんよという。貴重品は専用バッグがあるので、それに入れて係に預けて下さい。そして十二時と十二時半の二回、日本語ガイドによる海底遊覧の潜水艇が出るのでその時に案内しましょうという。                              


「あの娘、可愛い子ちゃんでしょう? 彼女、ボクのタイプなんですよ。でも彼女、少し変なんです。時々おかしなことをいうことがあるんですよ。」と、背のスラリとしたブロンドのウェ−ト レス嬢に視線を向けて心の内を話してくれる。日本にも何人かのガ−ルフレンドがいるそうだが、大分に本命の彼女がいるという。来月には休みを取って大分まで出かけるのだと楽しそうに語り続ける。長話になってしまったが、最後には「帰りに三時半ごろになったら上のキャプテン室に案内しましょう。」といって席をたっていく。
                     

船は一時間半かかってエメラルド・グリ−ンの美しい海が広がるエイジンコ−ト・リ−フに到着。


 グレート・バリア・リーフの一角、エイジンコート・リーフのさんご礁



ここにはレジャ−の基地となるポンツ−ン(浮き桟橋)が設けられており、船はそこに横付けになって白い船体を休める。






リーフに浮かぶポンツーン










早速ポンツ−ンに乗り移り、大きなバスケットに積み上げられているスノ−ケルの用具一式を確保し、シャワ−室に入って水着に着替える。何せスノ−ケリングをするのは初体験である。そこで、みんなが用具を付ける様子をうかがいながら、それを真似して装着する。なんのことはない。ただ、鼻まで覆うメガネをかけて空気のもれがないかを確認し、耳元でそのゴムひもの間に呼吸パイプを通して固定し、口にくわえればOKである。
                     

ポンツ−ンから突き出して水中に設けられた足場に降りて行き、足ヒレを付けていよいよグレ−ト・バリア・リ−フの海中に泳ぎ出す。海で泳ぐのは何十年ぶりだろう。確か四十年ぶりぐらいだろうか。一瞬、海中に潜ってよく遊んだ少年時代が思い起こされ、その当時にタイムスリップしたような気分に浸る。パイプのくわえ方が悪くて、ガブリと海水をまず一飲み。口の中にすっぽりと十分にくわえなければいけないのだ。海面でゆっくりバタ足しながら海底を覗くと、そこには息を呑むような美しい珊瑚礁の世界が一面に広がっている。初めて見るその光景に思わず感動してしまう。そのスケ−ルが全然違うのである。でも、想像していたよりは海水の透明度はない。
 

立ち泳ぎで顔を上げて休もうとするのだが、足ヒレが邪魔になって足がまく使えない。結局、バタ足で泳ぎながら顔を海面につけ、パイプで呼吸するのが一番楽なやり方なのだ。少しずつ要領を会得してきたので、あちらこちらと水中散歩に出かける。水中を覗いていると、横から突然大きな太鼓腹が現れたり、そうかと思えば今度は中年婦人の脂肪がたっぷりまとわり付いたデカ足がぬっと現れたり、その思わぬ水中鑑賞に可笑しさが止まらない。
 

あちらのほうを見れば、スノ−ケリングが得意とみえて若い日本人女性がスイスイと深いところを潜っている。よし、こちらも昔とったきねづかで潜ってみてやろう。そこで深呼吸一番、勢いつけて潜り始める。数メ−トル潜ると耳が水圧で痛くなり、息も続かない。思わず呼吸して海水をたっぷり飲み込んでしまう。水面上にいる積もりで、うっかりパイプから呼吸してしまったのだ。


一番浅い海面下四〜五メ−トルのところにあるサンゴまで、なんとかして潜ってみたい。そこで一度、二度と挑戦してみる。だが、息が続かず耳も痛くなって海底のサンゴまでなかなか到達できない。三度目にしてやっとサンゴに触れることができ、目的を達成する。後で聞いた話だが、耳抜きをすると深く潜っても痛くないそうだ。                                 

海面に体を浮かべながら休んでいると、今度は遠くのほうから酸素ボンベを背負った数人のダイバ−たちが海底を遊泳しながら近づいてくる。よく見ると、彼らの後ろには大人の身長ほどの巨大魚が一匹くっついて一緒に泳いでいる。彼らは私の真下に来て一服しながら、その巨大魚を抱いたり撫でたりしながら楽しそうに戯れ合っている。これぞスキュ−バ・ダイビングの醍醐味だろう。その光景がなんとも羨ましい。後でマ−チン君にその話をすると、その巨大魚はこの周辺に住み着いていて、ダイ−バ−たちの餌付けで人間に慣れているのだという。
                     

かなりの時間が過ぎたので上がってみると、もう一時間も泳いでいる。すぐにシャワ−を浴びて着替えをすますと、ちょうど向こうのほうから「ムカイさ−ん、二回目の日本語ガイドの潜水艇が間もなく出ますよ。」とマ−チン君が呼んでいる。ちゃんと私の名前を覚えていて約束通り案内してくれるのには驚いた。
                     

彼の親切に感謝しながら潜水艇に乗り込むと、すでに日本人乗客でいっぱいだ。潜水艇といっても、この船は海中に潜水するわけではなく、ただ船底が深くなっていてガラス張りの窓があり、そこから海底を覗けるようになっている。






潜水艇の内部










マ−チン君のガイドで、艇は周辺一帯に広がる珊瑚礁の間をゆっくりと進みながら、右に左に展開するサンゴの林の中をくぐり抜けて行く。まるで灌木のようにからまりながら枝を伸ばして密生しているサンゴや岩礁一面に菊の花を咲かせたように広がっているサンゴなど、さまざまな種類のサンゴが繰り広げる万華鏡の海底に船内あちこちから歓声が絶え間なく上がる。






ヤブのように密生するサンゴ














一面に花開くサンゴ










なかでも三〜四メ−トルの高さにまで成長した巨大青色サンゴの林は圧巻で、まるで森の中にわけ入ったような感じさえする。その間を見事な原色に染め抜いた熱帯魚の群れが、水中にふり注ぐ陽光にキラキラと映えながら泳ぐ様は、まさに竜宮の世界である。残念ながらカメラを持って来ていないので、その様子が写真に撮ることができない。機会があれば食後にもう一度カメラを持って乗ってみたい。そう思いながら、三〇分間の海底散策を終える。
                     

クル−ザ−に戻ると、すでにランチタイムが始まっている。観光料金にランチもふくまれているので、遠慮なしに食べることができる。料理はバイキング方式で、チキン、ハム、パン、各種サラダ、デザ−トにフル−ツ、ケ−キ、プリンと結構ご馳走がそろっている。これらの料理をを一通り二度にわたってお代わりし、泳ぎ回って空腹になった胃袋を満たす。
 

ランチを終えて潜水艇の出航時間を見ると、間もなく最後の遊覧が始まるところだ。これ幸いと貴重品に預けていたカメラを受け取り、ポンツ−ンに渡って二度目の海底遊覧に出かける。今度は英語のガイドで、乗客は全部外国人だ。V字型になった船底の窓から再び美しい珊瑚礁の景色が飛び込んでくる。だが、最後になってもあの青い巨大サンゴの林は現れない。どうも、前回の遊覧コ−スと違うらしい。前回は珍しい魚にも出会ったりしてラッキ−だったが、二度目はその機会もなく、シャッタ−チャンスがないまま遊覧を終えることになる。
 

再びクル−ザ−に戻ると、ボツボツ帰り支度が始まる。二時半になって船はポンツ−ンを離れ、ポ−ト・ダグラスへと帰路を急ぐ。エイジンコ−ト・リ−フには午前十一時半ごろ到着し、二時半の帰路出発なので約三時間の滞在ということになる。日本人の現地女性ガイド二人もこの船に同乗して、自分の会社のツア−客の案内役を努めている。それほど日本人のツア−客が結構多い。それも全員が若い新婚カップルばかりである。


そういえばブリスベン、ゴ−ルドコ−スト、ケアンズなどオ−ストラリア東海岸地帯の都市では、日本の新婚カップルの姿が多く目に付く。この地帯は、今やハワイに代わって日本からの新婚旅行のメッカになりつつあるようだ。私のような老人の一人旅はとんとお目にかかれず、なんだか場違いの感じさえしてならない。
 

マ−チン君が予告していたように、果たしてキャプテン室に案内しに来てくれるのだろうか。彼の言葉に半信半疑でいると、約束の三時半になって「今からキャプテン室に案内しましょう。カメラも持って来てくださいよ。」とマ−チン君が迎えにやって来る。その誠実さに感心しながら、彼の後についてブリッジのキャプテン室へ階段を上って行く。キャプテン室には船長の他に二人のクル−がいて、操舵などの仕事をしている。そこでキャプテンに紹介され、これがレ−ダ−、それが羅針盤などとブリッジ内の装備について説明を受ける。ここでマ−チン君と一緒に記念写真を撮ってもらう。長居すると邪魔になるので、ほどなく「お仕事の邪魔をして申し訳ありません。どうもありがとうございました。」といって退散する。
                     





キャプテン室でマーチン君と










マ−チン君のお陰で特別待遇を受けたり、話相手になっていろいろ談笑できたりと、なかなか快適で思い出深い海上の旅となった。やがてそれも終わりに近づき、ポ−ト・ダグラスの静かな入江が見え始める。桟橋に横付けになって船から上陸したのが午後四時、タ−ミナルハウスの前にはすでに帰りのバスが何台も並んで待っている。


ケアンズ行きのバスを探して乗り込もうとすると、運転手が「このチケットはバスではなく、船のチケットだ。だから船に乗って帰ってくれ。」という。今朝このチケットをもらう時には、そのことの説明は何もなかったのに、おかしなことをいうものだと思いながら「このチケットは、今朝あなたがくれたものだ。どうしてこのバスに乗れないのか。」と反問すると、「このバスは満員なので乗れない。でも、キャンセルがあるかもしれないからしばらく待ってくれ。」という。
 

バスの前で所在なく待っていると、クル−ザ−で一緒だった若い日本人女性ガイドの一人がやって来て「どうしたんですか?」と尋ねる。そこで、その事情を話すと「バスのほうが早く着くんですよ。でも、この国は厳しくてバスの中には立たせないことになっているのです。私も空席があれば乗ろうと思っているんですよ。」という。しばらく待っているとキャンセルがあったらしく、やっと二人とも乗車OKとなる。
 

ケアンズまでの一時間半、彼女と同席していろいろ話を聞きながら時を過ごす。彼女は短大を卒業後、ワ−キングホリデ−ビザでやって来て二年近くになる。最初、英語学校にしばらく通って勉強し、その後ルックワ−ルドのガイドの仕事をしているという。現在、オ−ストラリア人女性と共同で部屋を借りて住んでいるそうだが、日本人ツア−客の相手ばかりだから英語がちっとも上達しない。


ツア−客のほとんどは新婚さんばかりで、いろんなタイプのカップルを横から垣間見ているとよい勉強になって今後の参考になるという。日本に帰るかどうか思案中というので、今国内では女子の就職は厳しい状況にある。ガイドのアルバイトもいいけど、オ−ストラリア滞在のはっきりした目標を持たないと中半端になって無意味になりますよとアドバイスする。
 

話しているうちにバスはケアンズの街に入り、朝一緒に出発した英国女性たちと一緒にホテル前で下車する。部屋に戻ると、テ−ブルの上にメモ書きと一緒にタオルが二枚置いてある。メイドさんからのメモには「このタオルはプ−ル用のものです。どうぞリ−フ行きや旅行にお使い下さい。」と書いてある。今朝、タオルを借りる旨の書き置きを残していたのだが、こちらの書き方が悪かったのか、それを明日のことと受け取られたらしい。いずれにしても、タオルは荷物になるので持ち帰るわけにはいかない。そこで、「タオルの準備ありがとうございます。今日リ−フに行って一日エンジョイしました。借りたタオルはお返しします。あなたのご親切に心から感謝します。」と書いてメモを残すことにする。
 

荷物を置いてエスプラネ−ドへ夕食に出かける。昨日目星をつけていたパスタを持ち帰りにして、あの冷房のきいた国際料理店で食べることにしよう。パスタ店でミ−トソ−スを注文し、これを抱えてすぐ近くの国際店に持ち込み、例の“XXXX”ビ−ルで思いを遂げる。この広い店内にはボツボツ日本人客の姿も見られ、スシとミソ汁の注文が繁盛している。
 

ホテルに戻ってシャワ−を浴びていると、なんだか背中がムズ痒い。ふと鏡を見ると、背中と太股が真っ赤に日焼けしてるではないか! あの一時間のスノ−ケリングでこんなにも日焼けするとは意外だ。日焼けで全身がヒリヒリと火照り、寝苦しい夜を幾晩も過ごしたあの少年時代の日々が突然よみがえってくる。でも今度の日焼けは、それほどまではなさそうだ。(帰国後、この日焼けで背中の皮膚がむけ始め、それが下着を脱ぐたびに白い粉吹雪となって部屋いっぱいに舞い散る羽目となった。) テレビの天気予報を見ていると、明日訪問予定のエア−ズ・ロックは「サンダ− スト−ム」マ−クの雨嵐になっている。これは生憎の天候になったものだ。明日の旅を案じながら床に就く。



(次ページは「エア−ズ・ロック編」です。) 









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