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                 No.5
                         




9.ポルトガル・シントラ(続編)

今朝も7時起床。たっぷりと時間をかけながら朝食をすませ、朝のひとときをゆっくりと過ごす。昨日、果たせなかったペナ宮殿の見学と大事な「到達証明書」を取り戻しに、今朝は捲土重来を期して再度シントラへ向け出発だ。快晴の空も文句なし、体調もよし!






リスボンの路面電車










シントラへ

慣れた道程をロシオ駅に向かい、9時8分発の列車に乗ってシントラへ向かう。今朝も乗客は少なく、窓外に流れる景色も変わらず、走行も軽快で申し分なし。10時前、何度訪れても素敵なシントラ駅に到着。その足で早速、駅向かいの中華料理店に向かう。忘れ物が無事であることを祈りながら行ってみると、おや? 今朝もまだ閉まっている。時間が早いから、まだ開かないのだろうか? 少し不安な気持ちになるが、ままよとばかりに、観光を先にすませることにする。


ペナ宮殿
チケット販売所で、ペナ宮殿をめぐるル−トの周遊券を3.6ユ−ロ(約420円)で求め、10時20分の始発バスに乗ってペナ宮殿へ向かう。まだ時間が早いのか、この時間帯には観光客は少ない。今日の訪問箇所はペナ宮殿だけなので、そこを目指して直行する。王宮のあるシントラ村を過ぎ、山道を上って昨日迷いに迷った思い出のム−アの城跡を通り、しばらくするとペナ宮殿の入口前に到着する。
 

入場券を提示して門を入ると、小ぎれいな庭園が広がっており、そこから始まる坂道をさらに上って行くことになる。歩いてもよし、写真のようなしゃれたグリ−ン色の小型バスに乗ってもよし、といった感じである。さほど距離はなさそうだが、ここはバスに乗って上ることにする。このバスは、この園内からペナ宮殿までを走る専用バスで、2台で交互に運行されている。
 





ペナ宮殿構内を走るしゃれたミニバス









チケットを買って乗ると、バスはカ−ブの多い坂道を上り始め、約5分ほどでペナ宮殿下に到着。目の前には宮殿が見上げるように建っている。というのは、標高500mの山頂に築かれた宮殿なだけに、その全景を俯瞰することができず、写真も坂下から撮らざるを得ないのである。そんな場所柄だけに、敷地にも余裕がない感じである。





ペナ宮殿全景
(パンフレットより)








 坂下から眺めたペナ宮殿


この宮殿は、ル−ドヴィヒ2世(あの有名なノイシュバンシュタイン城を造った)の従兄弟にあたるフェルディナンド2世が建築の命を下したという。彼は、1503年に建てられて廃虚となっていた修道院を買い取り、プロシア人技術者の協力を得て拡大拡張したという。その内部はルネサンス様式で、豪華な家具調度品が備えられ、ロマンティックな雰囲気をただよわせている。また宮殿では、古典音楽会や展覧会、古典劇なども催されている。
 

トゲトゲの石で組まれた門をくぐって坂道を上ると、宮殿の建物に達する。






 ペナ宮殿の入口門















ペナ宮殿の正面入口










その中を通り抜けて裏手へ出ると、城壁のようになっている細いテラスが続いている。そこに上って見渡すと、眼下には平原が広がって、その中に町並みが点在しているのが見える。その彼方は霞んで見えないが、恐らく大西洋が開けているのだろう。見通しが良ければ、リスボン市までを眺望できるそうだが、今日は惜しいかなそのパノラマ風景は拝めない。



 標高500mのペナ宮殿テラスよりの眺望



ひとしきり景観を堪能した後は、宮殿内に入って公開されている幾つかの部屋を見て回る。入口でカメラ類は預けることになっており、内部は撮影ができない。女王の部屋、侍女の部屋、礼拝堂などがあり、きらびやかな家具調度品や生活用品などが昔のままに残されている。


忘れ物奪還!
一通りめぐって一服すると、もう1時間ほど経っている。そろそろ下山の時間だ。再びグリ−ンのミニバスに乗って庭園口まで下り、その門前から循環バスに乗ってシントラ駅へ向かう。問題は、中華料理店に忘れた「到達証明書」である。ちょうど今は昼時なので、開店しているはずである。
 

駅前で下車するや否や、中華店にまっしぐら。見ると、確かに営業している! だが、ちゃんと保管してくれているのだろうか? ただ、そのことだけが気がかりだ。玄関を開けて店内に入ると、レジのところに店員がいる。早速、彼に忘れた事情を話すと、あゝ、というような顔つきで、すぐに横の棚から取り出し、それを渡してくれる。やった〜、これで奪還目的達成だ! ちゃんと無傷で保管されていた。安堵の胸をなで下ろしながら礼を述べ、ゆっくりと帰路につく。ほんとによかった。


リスボンで昼食
12時8分発の列車でリスボンへ戻り、ロシオ広場へ出ると、昼食場所を探しにかかる。その前にケ−キ屋を探し、カステラのル−ツといわれる「パオン・デ・ロ−」を見つけて食べてみたい。カステラの本場、長崎に住むだけに、とても興味のあることなのだ。歩行者天国のアウグスタ通りに見かけたケ−キ屋に立ち寄り尋ねてみるが、置いてないという。残念だが、またの機会を待とう。
 

この通りに出されたオ−プンカフェで、みんな楽しそうに食事を取っている。その中に、おいしそうなスパゲッティとタコのマリネらしき料理を食べているお客を発見。マリネ料理はポルトガルの名物料理だし、スパも好物なので、途端に食指が動く。お客に真似て、私もこの料理で行こう。オ−プンでは日差しが暑そうなのでレストランの中に入り、メニュ−を見ながらウェイタ−に尋ね、これと同じ料理をビ−ル付きで注文する。
 

出されたスパゲッティは、グラタン料理で珍しく、こってりとコクがあってなかなかおいしい。だが、どっかりと腹応えがよく、これにビ−ルを飲むとお腹いっぱいである。これにタコのマリネはちょっと多過ぎる感じだが、これもコリコリしてなかなかおいしく、残らず食べ終えてしまう。料金は全部で15ユ−ロ(約1800円)と安くはない。中心部のレストランは割高のようだ。


フォルクロ−レ・フェスティバル
満腹のお腹を抱えながらフィゲイラ広場前を通り過ぎようとすると、広場で人だかりがして何やら賑やかな音楽が聞こえてくる。何事だろうとのぞいて見ると、なんとポルトガルの「フォルクロ−レ・フェスティバル」が催されているのだ。多分、地方予選を勝ち抜いて選ばれたであろう各地方代表のチ−ムが、10組ぐらい出場してそれぞれの民族舞踊を素朴な仮設舞台で競っているのだ。毎年、決まって催されている様子である。これはいいところに出くわしたものだ。これを見ずには帰られはしないぞとばかりに、はまり込んで鑑賞することにする。
 

椅子も何も用意されていないので、観衆はみんな立ち見席だ。1チ−ム20人程度の男女グル−プで、それぞれの地区で優勝した優勝旗を持っている。各チ−ムは踊り手と歌い手・演奏のグル−プに分かれ、踊り手グル−プが踊っている間は後方で歌とアコ−ディオンなどの演奏を行う。歌や踊りにも、それぞれのチ−ムで特色があり、迫力のあるものもあれば、ソフトム−ドでのどかなものもある。しかし、どのチ−ムも明るく楽しそうに踊る様は、やはりフォルクロ−レなんだなあと感じさせる。各チ−ム、20分程度の踊りと歌と演奏を披露する。
 





楽しそうに踊るフォルクローレのチーム














出番を待つ出場チーム















出演を終わって引きあげる









概していえることは、歌や踊りには素朴な感じがにじみ出て好ましいが、ステップなどはあまり洗練されたものとは言い難い。その点、ブルガリアのフォルクロ−レは見事である。首都のソフィアで、たまたま公園で開かれている市民祭に出くわし、それを半日ほど楽しんだことがある。フォルクロ−レのチ−ムが何組も出て踊るのだが、そのどれもが素晴らしいものである。ブルガリアのダンスは、ステップ中心の踊りだけに、音と足並みの美しさは見事である。 


フィゲイラ広場で繰り広げられる珍しいフォルクロ−レのパフォ−マンスにすっかり見取れ、とうとう1時間以上も立ちん坊になってしまう。まだ後は続いているようだが、途中で引きあげることにし、すぐ目と鼻の先のホテルへ戻る。


食料の買い出し
ホテルで午睡のひとときを過ごした後、夕方になって夕食用の食料調達に出かける。目指すはス−パ−マ−ケット。このス−パ−だが、ロシオ広場とフィゲイラ広場にそれぞれ一軒ずつある。どちらのス−パ−に行っても、長さ1mもあるような大きな干しタラの開きが山積みされている。この地では、これが名物になっているようだ。先日、ファド・レストランで食べた干しタラ料理は、きっとこれを材料にしたものだろう。
 

今夕は、ロシオ広場の裏通りにあるス−パ−へ出かける。そこで、カステラの元祖パオン・デ・ロ−はないかと尋ねるが、ここにもない。他のス−パ−でも見当たらない。それはあきらめ、先日買ったパンの残りで済ますことにしよう。そこで、切り売りのハム3種類に缶ビ−ル1本(計7ユ−ロ=約840円)、それにワイン1本(2.34ユ−ロ=約300円)を買い込んでホテルへ戻る。ワインがとても安く、それにうまいときているから、こたえられない。係から、コルクの栓を抜いてもらって包んでもらう。


新市街へ
荷物を置いたところで、リスボン観光で最後に残っている新市街を探訪しようと出かける。今度は地下鉄を利用してエドゥアルド7世公園へ向かう。すぐ近くのフィゲイラ広場にある地下鉄入口から入ると、そこは地下鉄ロシオ駅。ところが切符売りの窓口はないので、自動券売機で買う羽目に。ゆっくり見定めながらコインを入れ、ボタンを押すとちゃんと切符が出てくる。人間が使うのだから、いずこも同じでさほど問題はない。1枚=0.55ユ−ロ(約60円)で、とても安い。
 

ホ−ムに出ると、なかなかすっきりとして感じが良く、車両もきれいで乗り心地も満点。路線もそれほど複雑ではないので動きやすい。行き先は目的地の公園に近いパルケ駅。ここへ行くには、一つ先のバイシャ駅で乗り換える必要があり、それから4つ目の駅である。
 





地下鉄ロシオ駅のホーム










近くの乗客に尋ねて、進行方向を間違わないように慎重に確かめながらホ−ムを選ぶ。乗り換えもスム−ズに行き、間もなくパルケ駅に到着。地上に出ると、さしもの日の長いこの地にも夕暮れが迫っている。辺りには人影も少ない。公園の方向を尋ねながら台地になっている公園へ上って行く。
 

この公園は中心街に向かってゆるやかな斜面になっており、かなり広大な敷地がグリ−ンの芝生と手入れされた幾何学模様の植え込みで覆われている。1902年、英国のエドワ−ド7世がリスボンを訪問したその記念につくられた公園で、フランス式の庭園となっている。
 





エドゥアルド7世公園
両側の白い建物の列が書店








この時、ちょうどブック・フェアが催されており、公園の両サイドには可愛い真っ白な仮設店舗が軒を連ねて並び、壮観である。店舗ごとに、さまざまな書籍が売られているのだが、この時間には人通りもほとんどなくなり、ひっそりとしている。
 

その中を通り抜けて正面口に出ると、目の前にはボンバル侯爵広場が広がっており、激しい車の往来で埋まっている。ふと横を見ると、そこに待望のジャカランダの並木が見えるではないか! それほど大きく育っていないが、まあまあの並木である。折角、きれいな紫の花をつけているのだが、夕闇せまる薄暗がりでは、その色もくすんでよく見えない。滅多と出会うことができないだけに、ほんとに残念である。
 





ジャヤカランダの並木
折角の紫の花が夕闇でよく見えない。








ボンバル侯爵広場には、その中央にポルトガルを代表する政治家・ボンバル侯の立像が置かれている。そこから南に向けて、リスボンのシャンゼリゼと呼ばれる幅90m、長さ1500mのリベルダ−デ大通りが一直線に延びている。その先がロシオ広場なので、ここを歩いて行きたいところだが、お疲れなので地下鉄で帰ることにする。こうしてホテルにたどり着いたのが夜の9時である。
 





ボンバル侯爵広場
中央に立つのはボンバル侯 の立像









明日の出発は朝が早いので、今夜のうちにチェックアウトを済ませて精算をお願いしたいとフロントに頼むと、「5分もあれば精算できるので、明日の朝で問題ありません。その間にタクシ−を呼べばすぐに来ます。」と言う。では、お言葉に従いましょう。


最後の晩餐
シャワ−を浴びて一服すると、独りで最後の晩餐に入る。今夜はワインとビ−ルがそろって豪勢だ。しかし、その他はハム3種類とパンだけなので、最後の夕食にしては、なんとなく寂しい感じである。ま、それもよかろう。とにかく、ビ−ルで乾杯! そして、ワインで乾杯! う〜ん、値段は安いのに、やっぱりこの地のワインはうまい。ワインはポルトガルワインにかぎる。それに比して、やはりパンはおいしくない。カステラの元祖の国が、どうしてこうもまずいのだろう? 
 

ハムをつまみにしながら飲み進むうちに、すっかりいい気分になり、リスボン最後の夜が揺らいで見える。そろそろお休みの時間が来たようだ。


10.帰国への旅

早朝4時半起床。7時40分発の飛行機で、いよいよ帰国の途につく。その2時間前からチェックイン開始だから、それまでに空港へ到着しなければならない。洗面をすませ、少ない荷物をまとめると、出発準備OKだ。
 

フロントに行くと、まだ早朝とあってフロントマンは近くのソファでひっくり返って休んでいる。私の姿を見ると急ぎフロントに戻り、手続きを始める。すぐに終わり、タクシ−を呼んでもらう。玄関先に出て待っていると、5分と経たないうちにやってくる。昨夜の話は間違いなかったのだ。
 

ドライバ−に行き先を告げると、まだ明け切らないリスボンの街を空港に向けて走り出す。早朝とあって、この広い道路にも車の姿はほとんど見当たらない。信号もほとんどノンストップで通過する。その早いこと、わずか6分であっと言う間に空港に着いてしまう。タクシ−代は8.25ユ−ロ(約980円)。リスボンの空港は市内までバスでも30分足らずと近い。
 

5時過ぎと、予定よりかなり早い到着で、空港もまだ人影は少ない。とにかくチェックインカウンタ−を探し始める。案内モニタ−を見ながら該当番号のところに行っても、それらしき様子はない。何度か空港係員に尋ねて、そのカウンタ−をつきとめる。だが、まだ時間がチェックイン開始の2時間以上も前とあって、係の姿は誰も見えない。仕方なく、付近の椅子に座って待つことにする。
 

出発2時間前頃になり、やっとエ−ルフランスのスタッフが現れて受付けの準備をし始める。早速、一番乗りでチェックインを済ませた後、朝食取りにスナックショップを見つけて入る。そこで、ケ−キとコ−ヒ−を求め、やっと活動し始めたお腹を満たす。これが最後のポルトガル食事かと思うと、なんだかとても名残り惜しい気がしてくる。そんな気持ちを振り切るように席を立つと、出国審査に向かう。
 

エ−ルフランス機は、予定どおり7時40分にリスボン空港を飛び立ち、乗り継ぎ地点のパリへ向かう。ここからパリまで2時間、そして、そこから成田まで12時間の空の旅が待っている。この長い飛行時間に負けないほど、旅の思い出もぎっしりと詰まっている。平穏な飛行を祈りながら、出来上がったばかりの思い出のペ−ジをゆっくりめくりながら過ごすことにしよう。  
                                       (完)
                          (2002年8月26日脱稿)










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