5.再びカサブランカへ
モロッコ4日目。朝7時半に目覚めて窓外を眺めると、今日も変わらぬ見事な青空が広がっている。ここの天気は移り変わりがなく、晴れの日は終日雲ひとつなく晴れ渡ったままである。こう毎日好天続きだと、この地の雨天がどんなものか一度体験してみたい気持ちにさせられる。なんとぜいたくな話。
今日は再びカサブランカに戻り、明日のポルトガルへの移動に備える。慣れた街なので慌てることはない。初日に見残したメディナなどを見物してみよう。簡素なパン2個の朝食をすませると、窓外の風景に名残りを惜しみながらゆっくりと朝のひとときを過ごす。やおら、少ない荷物をあっさりとバッグにまとめ込むと、出発準備OKだ。
フロントでチェックアウトをすませると、歩いてすぐの駅へ直行。チケットを買って乗ったのは11時発のカサ・ポ−ル行き列車である。なじみの車窓の風景を眺めながら走ること50分、カサ・ポ−ル駅到着だ。3日ぶりに見る駅の風景も懐かしく、慣れた足取りでプティ・タクシ−を呼び止め、ホテルへ向かう。旅も二度目となると、新鮮味や感激も薄れる。
間もなく到着したのは、これも見慣れたD'Anfa通りのホテルである。予約していたので問題なくチェックイン。さあ、これから部屋で旅装を解いたら、カサブランカ最後の観光だ。その前に、ちょっと一服しよう。
市庁舎
身仕度を整えると、いざ出動である。これからムハンマド5世広場にある市庁舎に行ってみたい。ここには市街が一望できる展望塔があるというので、そこからの眺望を楽しみたい。そう思って、フロントにその行き道を尋ねると、どうも地図とは異なる方向を教えてくれる。首をかしげながら、もう一度玄関口のボ−イに尋ねると、やはり同様のことを言う。ま、地元の人の言うことだから、それに従うのが間違いなさそうだ。地図を見ると、それより近道があるのだが……。
ホテル前のD'Anfa通りを真っ直ぐハイアット・リ−ゼンシ−ホテルへ向かって進み、そこから右折して行きなさいという。そこで、指示にしたがって通りを歩き始める。途中でサンドイッチでも仕入れて食べたいのだが、それがなかなか見当たらない。すると、アイスクリ−ムの店を発見、それを買うことにする。
よく分からないままに人の買うのを真似て、3種類のクリ−ムを盛ってもらう。分量たっぷりだが代金9DH(約100円)と、この地にしてはやや高い。行儀は悪いが、クリ−ムをなめながら、ぼつぼつと歩いて行く。味はまあまあ。ところが途中でクリ−ムが溶け始め、そのしずくがしたたり落ちて騒動である。あわてて素早く食べ終わると、ボリュ−ムがあるだけに、けっこうお腹が満たされ、昼食代わりになる。
一本道なのに、なかなか目指すハイアット・リ−ゼンシ−ホテルが現れないので、一度通行人に尋ねてみる。すると、方向は間違いないようだ。タクシ−ではあっという間のようだが、歩くとけっこう距離がある。あちこち眺めながらゆっくりと歩いていると、向こうにようやくリ−ゼンシ−ホテルが見え始める。先日、「バ−・カサブランカ」を見に訪れたばかりなので見覚えがある。
このホテルの前は国連広場になっており、広い道路が何本か交差して目指す方向がよく分からない。そこで通りがかりのOL風の若い女性二人連れを「スマホリヤ(ちょっとすみません。)」と言って呼び止め、ムハンマド5世広場がどの方向かを尋ねてみる。よく言葉が通じないので、双方がもたついていると、通りがかりのス−ツ姿の紳士が、「どうしました?」と英語で話しかけてくる。これ幸いに、広場の在処を尋ね教えてもらう。
礼を言ってみんなと別れ、教えられた方向へ広い道路を横切って進んで行く。きょろきょろ見回しながら歩いていると、後ろから先ほどの女性二人が駆け寄って来て、一緒に案内するからと申し出る。なんというご親切な方たちだろう。ラバトでの道案内といい、この女性たちといい、ほんとにモロッコの人たちは人懐こく親切である。実にありがたく、親切が身にしみてうれしい。こうして三人連れ立ちながら、ハッサン2世通りを南に向かって歩いて行く。いろいろ話したいが、彼女らには英語が通じないのである。
しばらく歩いていると、前方に白く高い塔がそびえる瀟洒なビルが見えてくる。あれが目指す市庁舎なのだ。
瀟洒な市庁舎とそびえるタワー
もうこれで十分なので、二人の女性にねんごろに礼を言って別れる。さあ、市庁舎へ急ごう。玄関を入ると、ロビ−はがらんとして案内係など置かれている様子はない。エレベ−タ−があるのかと思って見回すが、どこにもそれらしきものはない。職員の姿も見られない。
やむなく二階へ上ってみると、廊下に職員らしき人の姿を認める。すかさず「塔はどこでしょうか?」とフランス語で尋ねてみる。すると、奥からこちらに向かって来る紳士を指さして、彼に聞きなさいと言う。そこで、「スマホリヤ」と言って呼び止め、同じ質問を発してみる。すると彼は、一緒に来なさいと言って一階へ連れて行き、ロビ−で待つように伝えると、部屋の中へ姿を消してしまう。
しばらく待っていると、今度は別の幹部らしい年配の職員が現れ、私について来るように言うと、すたこらとロビ−のコ−ナ−へ連れて行く。そこには金網フェンスで囲まれた旧式のリフトがある。なるほど、こんな所に昇降機があったのだ。彼は鍵を開け、狭いリフトの中に案内する。5人も乗ればいっぱいだろう。扉は手動の開閉で、昇降すれば前面の壁は丸見えである。これから察すると、普段はこのリフトは使用されていない様子である。展望所を訪れる私のような物好きもあまりいないのだろう。
トップに着くと、そこからさらに螺旋階段を上りあがり、やっと展望所にたどり着く。狭い場所だが、そこから眺望される市街のパノラマ風景は息をのむ壮観さである。北側の中心街を眺めると、はるか彼方に大西洋の青い海が広がり、それを背景にして純白の高いビル群が林立し、大都会の風格を誇示しているかのようだ。そして、どれも申し合わせたように白一色の世界に染め抜かれている。そんな中で、ひときわ高く抜きんでるグラン・モスクのミナレットが、このタワ−と対峙するかのようにそびえている。
こんなに市街が一望できるのは、このタワ−とグラン・モスクのミナレットぐらいなものだろう。やはり、わざわざ訪問した甲斐があったというもの。こんなところが、ツア−では得られない魅力である。この貴重な機会を逃さないように、連続写真撮りに余念がない。
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