写真を中心にした簡略版はこちら→ 「地球の旅(ブログ版)」






     N0.2




3.ダブリン市内観光(1)

ダブリン2日目。早朝5時に目覚めて、そのまま寝付かれず、仕方なく起き始める。眠気まなこで、今日の観光ポイントを事前に集めた資料で検討する。大した観光ポイントのないこの街で、めぼしい所をピックアップすると、トリニティ・カレッジ(Trinity College)とケルズの書(Book of Kells)、ダブリン城、ギネス・ストアハウス、テンプル・バー(Temple Bar)、オコンネル・ストリート、ダブリンの博物館などである。でも、博物館は遠慮しておこう。


これらの観光もだが、私の一番の目的はアイリッシュ・ダンスを観ること、それに郷土料理のアイリッシュ・シチューを賞味することである。これを何とか滞在中に実現しなけばと心がはやる。過去にTV報道で来日したアイリッシュ・ダンサーの一行が公演するのを見たことがあるのだが、その素晴らしさに魅せられてしまったのだ。また、ポテトが好きな私には、現地のシチューがどんなものか深い興味を持つところで、ぜひ試食してみたいとの強い思いがある。


朝の散策
朝食は8時からというので、その前に身支度を整え、朝の散策に出かける。目の前のテンプル・バーの通りも、今は人影は見えない。すぐ近くがLiffey川なので、そちらへぶらりと歩いて行く。早朝とあって、車や人通りもあまりなく、辺りはひっそりとしている。橋の上に立って、両岸に立ち並ぶ町並みの様子を眺める。あまり代わり映えのしない風景で、異国に来た感じがしない。川の汚れは、どの国も同じなんだなあ〜と、共通点を見つけて妙に安心したりする。見上げる空は、今にも雨が降り出しそうな雲行きで、今日の天気が気にかかる。


 朝のLiffey川

宿に戻って食堂に行くと、ここはセルフサービスの食事になっており、自分で適当に取り分けて食べるようになっている。バイキング料理というには、内容があまりにもお粗末である。用意されているのは、コーンフレーク、白と黒パンのトースト、バターとジャム、ミルクにジュース、コーヒーに紅茶などが揃っている。ハムやソーセージ類は一切れもない。あれっ?という感じの内容である。


アイリッシュ・ダンスを見たい
ともかく、これでお腹を膨らませ、朝食を終える。同じフロアにあるフロントのお兄さんにアイリッシュ・ダンスのことを尋ねてみる。すると、市内から遠く離れた郊外に「Taylors Three Rock」というPubがあり、そこでディナーと音楽、それにアイリッシュダンスがあるという。しかし、そこは不便なのでタクシーで行くしかないが、それよりオコンネル通りの橋の近くの川沿いにある“Bachelors Walk(通りの名)”に「Arlington Hotel」があるので、ここで毎夜無料でアイリッシュ・ダンスが見られるという。これは耳寄りなことを聞いたぞと心躍る思いになり、今夜はぜひ行ってみることにしようと心に決める。


ホップオン・ホップオフの観光バス
フロントの前にはたくさんの観光パンフが置いてある。その中から“City 
Sightseeing”のパンフをもらってチェックする。これは“Hop On−Hop Off”で乗り降り自由の観光バスになっている。よし、今日はこれを利用して観光するとしよう。このシステムの観光バスには2社の系統があり、一つは車体が真っ赤なバスと他の一つは車体が黄色とグリーンのツートーンカラーのバスである。赤バスの方はマルチリンガルの案内放送があり、その中に日本語版もあってヘッドホンで聞けるらしい。じゃ、これを利用するとしよう。


この街でつとに有名な「ケルズの書」は、トリニティ・カレッジにあるというので、まずはそこへ出かけてみることにしよう。そこまで徒歩で10分ぐらいの距離である。カメラと水、それに傘を用意してデイバッグに入れると、いざ出発である。外に出ると、早くも霧雨が降り始めている。アイルランド特有の不安定な天候だけに、傘は欠かせない。じゃじゃ降りの雨よりはましだと思い、傘をさしながらDame Streetをカレッジの方へ歩いて行く。


カレッジの近くにインフォメーション・オフィスがあるので、まずはそこへ立ち寄り、状況を把握しておこう。この案内所は9時からの開業で、まだツーリストの姿は少ない。ここで市内観光バスのチケット(1日間有効)を15ユーロ(2250円、これはシニア割引料金。チケットはバスのドライバーからも買える。)で購入。そして、すぐ近くのトリニティ・カレッジへ向かう。


トリニティ・カレッジとケルズの書
このカレッジは1592年にイギリスのエリザベス1世によって創立されたアイルランドで一番古い大学。ダブリンの街の中心に位置している。正門入口から入り、三角屋根のついたグレイの建物の中央にあるアーチ門をくぐり抜けると、その先に落ち着いた雰囲気のキャンパスが広がっており、その中央に十字架を載せた塔が建っている。チャペルなのだろうか? 


トリニティ・カレッジの正門


キャンパスの中に塔が立つ

ケルズの書がどこにあるのか分からないので、通りがかりの学生に尋ねると、右へ曲がって行ったところだと教えてくれる。その方向へ行ってみると、写真のようにすでに観光客が列をつくって並んでいる。係が入口に立って入場を制限している。入場券売り場の窓口に殺到しないようにするためらしい。そんなに人気なのだろうか?


行列をつくる観光客








 ウィンドーにはケルズの書の拡大写
 真が展示されている。こんな極彩色
 の絵がページに描かれている。














順番が来てチケットを購入する。ただ、書を見るだけなのに、シニア割引で7ユーロ(1050円)もする(陰の声:貴重な文化遺産の公開なのに、カレッジ側が私的に料金を取るのはおかしい。公共財にして無料開放すべしと言いたい。)。この見学は時間を定めてガイド付きの案内も行われている。奥の展示室に入ってみると、大きなパネルに書の拡大写真が載せられ解説が書かれている。ここは撮影禁止になっている。


その間を通り抜けて行くと、その奥に一段と薄暗くなった部屋の中央に展示ケースが置かれている。まるで、モスクワの赤の広場にあるレーニン廟でレーニンの遺体を見る時の雰囲気と同じである。明かりはあくまでもほの暗く、微光に照らされたケルズの書がケースの中に静かに横たわっている。古書を痛めないための配慮なのだろう。


この「ケルズの書」は縦33cm、横25cmの仔牛のなめし皮340枚に、四福音書(イエス・キリストの生涯や言動を記録したものを福音書<ふくいんしょ>と言い、幾人もの福音書記者が書いたものがあるが、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4人が書いたものが正統な聖典とされて新約聖書に採用された。)のラテン語訳(ウルガタ本)が美しい挿し絵とともに写本僧の手で書きつけられたマニュスクリプト(手写本)である。


これは紀元800年頃スコットランド西のアイオナ島の修道院で着手され、アイルランドのケルズの修道院に運ばれそこで完成したという説が有力とされる。その挿し絵や飾り文字がケルティックデザインの精髄とされており、世界で最も壮麗な装飾を持つ写本の一つに数えられている。


A4サイズよりやや大きいケルズの書の全ページは壮麗で複雑な模様で装飾されており、本文にも細かい鮮やかな装飾が施されている。写本は17世紀にトリニティー・カレッジに贈与され、1953年に現在の形である4巻に製本された。その後から旧図書館の特別室で展示されている。通常は主要な装飾を持つページを開いた巻と、本文2ページを開いた巻の2巻を閲覧できる。


その極彩色の装飾絵は見事なもので、文章文字は丸みを帯びた丁寧な書体で美的に美しく、芸術的に書かれている。この丸みを帯びた印象的な字体は、ハーフ・アンシャルといって、鵞鳥、白鳥などの羽根ペンを使って書かれたのだそうである。その時代にこれほどの装飾技術や書体技術があったとは驚きである。



歴史の重さと予想外の極彩色に深い感銘を覚えながら展示室を出ると、今度は二階の図書館に上がってみる。そこに展開されるのは膨大な書籍を収めた書架の列で、圧倒されるばかりである。65mもある名物の図書館ロングルームには、中央の吹き抜け空間を境にして両側に二階建ての書架フロアーがあり、そこに20万冊の蔵書を収めた書架の列が上下にぎっしりと並んでいる。しかも、各書架の前には大理石で彫られた胸像が左右に並んで重厚かつ荘重なな雰囲気を醸し出している。係に尋ねてみると、昔はこの図書を学生たちが利用していたという。写真撮影ができないので、その様子を大学図書館のパンフに掲載の写真で紹介しよう。










 右側にもこれと同様の書架が並んでいる

















観光バス
感動のうちにケルズの書と図書館見学を終えると、大学前に出て観光バスに乗る。ここがホップオン・ホップオフのバスストップになっており、ここから私の観光はスタートする。この赤バスはハイシーズン中は10分間隔で運行されており、バスストップは市内の観光ポイント20箇所以上に設定されている。その中から自分の好きなバスストップで下車し、そこで観光した後、再び最寄りの停留所で乗ればいいのである。


ダブリン城
やって来た赤バスに乗って、ダブリン城前で下車する。降りた道路の角を曲がると、目の前にダブリン城の石組み門が見える。そこをくぐって中に入ると、前方に教会とお城の塔みたいなものがドッキングした奇妙な建物が現れる。これを横目で見ながら3つのアーチ門が並ぶ中を通り抜けると中庭広場に出る。そこには普通の建物が並ぶだけで、お城らしい形はどこにも見当たらない。








 ダブリン城のアーチ門
















教会と塔がつながている


3つのアーチ門をくぐり抜けて中に入る



 城内の中庭広場




それもそのはず、この城は1684年の火事で崩壊し、中世の城のほとんどは失われて石造りの塔Record Towerが一部修復されて残っているだけなのだ。現在の建物は17、18世紀にウィリアム・ロビンソンによって建て替えられたものという。ダブリン城は1204年にジョン王によって建てられ、1922年まで約700年間にわたってイギリス支配のシンボルであったという。その意味で、この城はダブリンの歴史の中心とも言えるものである。


現在のお城は、普通のありきたりの建物の感じで、お城としての外観や風格はどこにも見られない。城内の様子はガイド付きで見学できるようになっているが、あまり興味がわかないので省略することにする。


ギネス・ストアハウス( Guinness Storehouse )
ダブリン城を後にすると、次は楽しみのギネスビールの総本山の見学である。しょぼ降る雨の中、やって来たバスに飛び乗ってDame Street を西へ走り、James’s Street に入るとギネス前に到着。そこで下車すると、大きな工場のようなストアハウスが出迎える。


ストアハウス前の建物に“Guinness”のシンボルマークが・・・

小さな入口を入ると、1階ホールの広い空間があり、そこにはギネス固有の各種グッズの売り場や数箇所の入場チケット売り場が設けられている。


各チケット売り場には入場者の長蛇の列ができており、なかなかの人気ぶりを示している。アイルランドと言えばなんと言ってもギネスビール。そのギネスビールが生まれた場所を訪ねずしてダブリン観光なしといっても過言ではない。だから、観光客はこぞってここを訪れることになる。だが、ここでも入場料が必要なのだ。


ここアイルランドに来てからは想定外の料金を取られることが多い。まず、エアー・リンガスの機内サービス、次いでケルズの書の見学、そしてこのギネスの本山である。私の頭の中では、これらは無料のはずとばかり思っていたのである。機内サービスは普通無料だし、大学図書館の展示であれば無料だろうし、日本国内のビール工場見学は無料の上、最後には生まれたてのビールを振舞ってくれる。そんな感覚が残っているので、予想が裏切られてしまう。


心外な気持ちでチケット売り場の行列に並ぶ。シニア割引があるので、それを申し出て料金9.5ユーロ(1425円)を払うと、「どちらの国から来られましたか?」と尋ねる。どうも訪問者の出身地別統計を取っているようだ。そして、館内の案内パンフとギネスビールが封じ込められた記念の品(プラスチックでできた円形の球)を手渡してくれる。そして、この球の裏面に取り付けられた輪ゴムを見せながら、「これを7階のスタンドバーで提示すると、それと引き換えにビールが提供されます。」と説明する。


早速、これを持って奥の入口から館内に入る。薄暗い館内の片側に何やらうず高く山積みされた物が見える。よく見ると、それはビールの原料の麦芽の山なのだ。穀物のかすかな匂いがするだけで、特別の香りはない。


大量に積まれた麦芽の山

次はエスカレーターで2階のフロアーに上る。そこには醸造装置の展示があったりビールの大樽の保存の様子が見られる。3階はギネスの数々の広告の歴史などが展示され、4〜5階は会議やセミナーなどの学習センター、6階は各種のバーがある。


多数のビール樽が積まれている

多分3階だったと思うが、そのフロアの片隅にごうごうと滝のように流れるセットが置かれている。これはいったい何なのだろう? 何か意味があるのだろうが、よく分からない。これはひょっとするとギネスビールの滝なのかもしれない。一人であれこれ想像してみるが、結局分からずじまいである。


ギネスビールの滝? それはナゾ

最上階の7階はガラス張りの円形展望ラウンジになっており、ここで絶景の眺望を楽しみながらギネスビールが飲めることになっている。ラウンジの中央にはバーカウンターがあり、そこで例の“球”を差し出すと付着しているゴムのワッカを引き取り、それと交換にギネスビール1パイント分(0.57リットル)が貰える。


7階の展望ラウンジ。このカウンターバーでビールと引き換える。

各階へはエスカレーターまたはリフトで昇れるようになっており、時間のない団体客はリフトで7階まで直行しているようである。私は3階まで見学した後、リフトで7階へ上り、ビールと交換して初のギネスを試飲してみる。係が「1パイントにしますか?」と尋ねるので、「ハーフパイントでお願いします。」と申し出る。夕食時でもないので、私には1パイントは多過ぎる分量である。


ビールの注ぎ方を見ていると、少し変わっている。一度カップにビールを注ぎ入れてカウンターに置く。そこでこれを受け取ろうとすると、それを制してちょっと待つように言う。??と思って見ていると、コップの中の泡が落ち着くのを待っているのだ。このビールの泡は一種独特のとても木目細やかな微粒子で、なめらかな泡立ちをしている。それが落ち着いたところで、再度その上から注ぎ入れる。


こうして受け取ったのが写真のカップで、早速グ〜ッと一口飲んでみる。黒々としたビールの色で、飲み慣れない私にはちょっと抵抗感がある。コクのあり過ぎる味で、ラガービールに慣れた私には少し重過ぎる。窓側にセットされたテーブルに座り、眼下に広がる市街の眺望に見入りながら、ゆっくりと味わう。これがこの地の名物・ギネスビールなのだ。このラウンジには、たまたま日本からやって来た団体客の姿も見える。私もそうだが、日本から遠くはるばると、よくこの地に来たものだ。


これがハーフパイントのギネスビール。一口飲んだので少し減っている。

このラウンジは円形だけに360度の眺望が開けているのだが、今日は生憎の雨天で折角の景色が霞んでいる。このダブリン市内には高い展望塔がないだけに、この展望ラウンジは市内唯一の展望塔になっている。その意味でも、このギネス・ストアハウスのラウンジは唯一最大の観光名所なのかもしれない。多くの観光客が押し寄せるわけである。


ラウンジの様子(みんな逆光になって写真が暗い)


眼下に広がる風景を眺めながら、のんびりとギネスを味わう





 ダブリン市街の様子。陰鬱な空模様に風景までがくすんでいる。(展望ラウンジからの眺望)



 上の写真とは別の角度から眺めた風景




この見学者用に建てられたストアハウスは7階建てになっており、3階まで各階ごとにギネスビールの製造工程の設備が置かれて流れが分かるようになっている。


ストアハウスの内部構造。鉄骨造りの建物になっている。


このエスカレーターで各階へ上る

この建物は1876年に建てられ、1957年までビールの原料であるホップの保存庫として使用されていたそうだが、2000年に改装され、「ギネス・ストアハウス」としてオープンし、今ではダブリン一の観光施設として多くの観光客を集めているという。
(年中オープン、月〜日曜まで9時半から5時まで。休館日はクリスマスイヴの12/24とクリスマス25日、セント・スティーブンス・デイの12/26日、イースター前の金曜日)



(次ページへつづく・・・)










inserted by FC2 system