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   N0.8



カジュラホ観光
部屋に戻って荷物をまとめ、一息つくとやおら出発の時間である。午後12時半発のカジュラホ行き国内便に乗るのだが、10時15分にはホテルを出発するという。国際線に乗るよりも余裕時間をたっぷり取ってある。というのは、先月末のテロ事件(05年10月30日にデリ−でテロがあり、50人以上が死亡した。)以後、国内線のセキュリティチェックが特に厳しくなり、機内持ち込み手荷物の目視検査も行われるからで、そのための余裕時間が必要とのことである。
 

厳しい持ち込み荷物
機内持ち込みは特に厳しく、予備の電池、電卓、辞書、計算機、ペンライト、刃物、必要以上のペ−パ−や水などは禁止で、預け荷物にしなければならない。これには困ってしまう。というのは私の場合、予備の電池数本とペンライトを持っているのだが、機内持ち込みのバッグ1つで預け荷物は何も持たないからである。やむなく、ガイド氏の預け荷物に入れてもらうことにする。
 

30分のビジネスクラス
郊外にある規模の小さな空港まで市内から20km超の位置にあり、ホテルから40分ほどかかる。空港に到着すると、すでに座席は取ってあり、なんとそれがビジネスクラスのシ−トになっている。これはラッキ−なことである。X線検査を受け、さらにバッグを開いて目視検査のチェックを受ける。だが、それは簡単なもので厳しいものではない。空港はそんなに混雑しておらず、意外とチェックも早く終わったので、かなりの余裕時間が残ることになる。
 

予定より30分遅れで到着した搭乗便にやっと案内されると、ビジネスクラス席の一番先頭席に座る。やはりシ−トの幅がゆったりとして快適である。その昔、招待旅行の時に経験して以来のことである。たまたまラッキ−なことにビジネス席になったのだが、これは航空会社の営業方針なのだろう。勝手に推測すると、ベナレス〜カジュラホ間の飛行時間はわずか30分間であり、その間のビジネスクラス利用客はいないので、これを空席にして飛ぶよりも多くの乗客を乗せたが得策との判断なのだろう。こうして、たまたまラッキ−くじが当たったというわけである。 
 

搭乗すると、すぐに飲物のサ−ビスがあり、やはりエコノミ−より待遇が違うのかな?と思っていると、どうもそうではないらしい。座席の提供だけで、特別のサ−ビスはないようだ。午後1時になって離陸した機は快晴の青空の中に吸い込まれていく。やっと水平飛行になったかと思うと、間もなく高度を下げ始め着陸態勢に入る。機は1時半にカジュラホの小さな空港に無事到着。こうして、わずか30分間のビジネスクラス気分はあっけなく終了となる。空港到着時の気温は30度だが、年間最高は50度にもなるというから時季を選ぶべきだろう。
 
                  (カジュラホの位置)


カジュラホ村の様子
ここカジュラホの村は人口約7000人の小村だが、世界遺産の寺院群のあることで世界的に有名である。「カジュラホ」の名はカジュラプラに由来していると言われ、金色のナツメヤシのある村という意味が含まれているという。しかし、この寺院群の他には何もなく、のどかな田園地帯で、村の周囲には農地や原野が広がっている。いきおい、この村の住民の多くは、この名所観光に訪れる観光客を相手にした商売に依存しているようだ。ここが唯一の生活収入の拠所だけに、物売りの動きも他の箇所より一段と激しさを増すらしい。用心、用心……。
 

苗木をレンガで囲っている。牛やヤギが苗木を食べないように成長するまで保護す
るのが目的。これはインドの各地で見られた。


瀟洒なリゾートホテル
出迎えのバスに乗って、まずは今日の宿泊ホテルへ向かう。空港からわずか5分の距離で到着したホテルは、場所に似合わずなかなか瀟洒な建物でリゾ−ト感覚の雰囲気がただよっている。プ−ル付きの広いガ−デンを持ち、芝生や庭木の手入れも行き届いている。部屋に入ると、湯沸かしポット、ネスカフェ、紅茶、角砂糖などがバ−にセットされており、ゴ−ジャスな感じを受ける。いい気分になったところで、すぐに昼食である。ここでも同じバイキングのインド料理でお腹を満たす。食後は休憩で、午後3時半より寺院群の観光に出かける。
 

素敵なムードのホテル

 



 ホテルの横手に広がる野っ原




西群寺院へ
出発したバスには中年男性の現地専門ガイドが乗り込み、流暢な日本語でユ−モアたっぷりに寺院群を案内してくれる。まず向かうのは寺院群の中心的存在となる西部の地域である。他にも地域の東部、南部に寺院が散在しているのだが、やはり有名でメインとなるのは官能的彫刻群のあるこの西群の寺院である。村の地域は狭いので、車で走るとすぐに寺院横の駐車場に着いてしまう。炎天下を避ければ、サイクリングでも十分楽しめそうだ。危険がなければの話だが……。
 

カジュラホ村の風景

パ−キングから少し歩いて寺院へ向かう。その途中右手の家並み越しに、早くもド−ム型寺院がにょっきりと姿を表わしている。こんな田舎に壮大な寺院の姿が浮かぶのが如何にも不似合な感じである。


家並みの向こうにひょっこりとドーム型の寺院が・・・

寺院群のある園内に入ると、そこには木々の生い茂る広大なガ−デンが広がっており、この敷地内に大小10ほどの寺院が散在している。その全部を入念に観賞するにはまる1日を要すると思われるが、われわれはその中の主な寺院を幾つか観賞するだけである。 


この広大な敷地は以前には池になっていたそうで、各寺院を舟に乗って参詣していたという。なんと風情のある光景だろう。悲しいかな、それが今では水が干上がり、現在のガ−デンになってしまったという。今でもこの敷地の近隣には、大きな池が残っているようだ。
 

白壁の寺院。左の高い塔はヒンドゥー寺院、真ん中は佛教寺院、右端のドーム型は
イスラム寺院。(左側の高い塔は後方にあるヴィシュワナータ寺院の一部)


寺院群の歴史と特徴
このカジュラホは、今では田園地帯に広がる小さな村に過ぎないが、その昔、10世紀にはチャンデラ王朝の首都であった。そしてこれらの寺院群は西暦950年〜1050年の間にチャンデラ王朝によって建てられたもので、インド・ア−リア建築の美しい見本であり、精緻でおおらかな男女交合の彫像(ミトゥナ)などが飾られ、見る者を圧倒する。その官能的な彫像の数々がこの地を有名にしているのである。
 

この花崗岩と砂岩でつくられた寺院群は、王朝の最盛期には85あったものが、14世紀に侵入してきたイスラム教徒によってそのほとんどが破壊され、現存しているのはわずか22に過ぎないという。それでも、シバ神、ビシュヌ神やジャイナ教のティ−ルタンカラが祀られた寺院は、中世インドの芸術と建築の展示場となっている。寺院は高さ2〜3mの基壇の上に玄関・集会殿・本殿が設けられ、進むにつれて高くせり上がって神に近づくような構成になっている。本殿は砲弾のような塔の形をしており、幾つもの小さな塔がタケノコのように本殿の塔を覆っている。
 

寺院壁面の彫刻は5つのタイプに分けられる。幾何学的植物装飾、宮廷の生活を描いた彫刻、神話の動物または実在の動物、神々の像、そして5つ目が愛し合う男女の像である。これらの立体感あふれる彫刻群像が無数に壁面に施された寺院は息を呑むほどの傑作で、見る者を圧倒してやまない。なかでも自由奔放でアクロバティックなポ−ズさえある様々な体位で結ばれる男女交合の像(ミトゥナ)が注目を集める。
 

男女交合像が造られた理由
なぜ、この地でこのようなミトゥナ像が作られたのかははっきりしないそうだが、諸説によると、性の結合に生命のエネルギ−を求めた密教やタントリズム(6〜8世紀に成立した宗教概念で現世での解脱のために集団性交などの性的儀礼や死体の儀礼など他の宗教ではタブ−とされるような行為を行った。)が当時浸透していたからという説や神との出会いを女性の肉体美をもって表現したという説、そしてまたシヴァとパ−ルバティ(シヴァ神の妻)の結婚を表現したという説などあげられている。



 西群寺院が散在する園内の全景。左端はカンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院、中央部の塔はパールヴァーティー寺院、右端にラクシュマナ寺院の塔の先端が木陰の上に見える。




ラクシュマナ寺院
きれいなグリ−ンの広がる園内に入って進むと、すぐ左手にラクシュマナ寺院が現れる。この寺院は最も古い寺院の一つでヴィシュヌ神を祀り、ヤショヴァル王に捧げられた寺院で、基壇側面には人々の日常生活や兵士たちの姿が彫刻されている。
 

ラクシュマナ寺院


同 上









 同上のバルコニー














そして本殿壁面には、「カ−マス−トラ」(古代インドの性愛書)の教えを無心に描くエロティックな彫像が強烈な太陽光を浴びながらびっしりと並んでいる。人間本来の性愛はかくあるべしと言わんばかりに、大らかで自由奔放な愛のポ−ズが見事なまでに彫りあげられている。それはそれは圧巻で、見応え十分である。









 象の頭を持つガネーシャ神






















 女性(女神)像が並ぶ

















左端の交合像は足が欠けている。ガイド氏が「あまりに激しく愛し合って足が溶けたのです。」といって笑わせる。右側の天真爛漫な愛の像が素晴らしい。


神々の像?











 夕日に浮き彫りにされる彫
 像




















これがサリーの原形? 超ミニのサリーであらわに女体を見せる。


男女の愛の彫像


同 上


右端の交合像に注目


寺院の内部にも豊満な女神像が・・・

これほど無数の彫像を、いったいどんな彫刻師たちが、どんな思いで、どんな監督者の下で作業を進めたのだろう? 奔放な彫像でありながら、全体として見事な調和を保ちつつ彫り込まれている。これは全体構造や構図を考えながら作業を進めないと不可能なことである。一つひとつの彫像の精巧緻密さはもちろんだが、これほど全体としての統一性を保つ高度なデザイン能力をも持っていたということだろう。これら彫刻群を眺めれば眺めるほど、そのエネルギッシュな作品群に圧倒され、舌を巻いてしまう。
 

ガイド氏は、これら彫刻群の中からめぼしいものをピックアップしながらユ−モアたっぷりに解説してくれる。その説明ぶりはなかなか堂に入ったものである。小さな鏡に太陽光を反射させ、その光線を目指す彫刻に当てて指し示しながら説明を加える。なかなかのアディアの持ち主でもある。なるほど、うまいことを考えたものだと独り感心する。でも、陽光が当たらない日陰になると、この折角のアイディアもお手上げとなるのだが……。
 

ヴァラ−ハ寺院
次はラクシュマナ寺院のすぐ隣に隣接する小さなヴァラ−ハ寺院へ移動する。ここにはヴィシュヌ神の化身であるヴァラ−ハ(野猪)を祀ってある。その銅製と思われる巨大猪の全身は無数に彫り込まれた小さな仏像によって覆われ、鼻の先にまで仏像を載せている。
 








 ヴァラーハ寺院のイノシシ































 同 上
 体表全面に無数の仏像が・・・




























(次ページへつづく・・・) 










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