N0.6
(&デンマーク)



5.早朝のオ−ロラ、コペンハ−ゲンへ

早朝にオーロラ出現! 
滞在4日目。朝6時に目覚めて何気なく窓辺に行くと、なんと星空の中にオ−ロラが舞っているではないか! これはしめたとばかりに、急いで防寒着を着用し、出口へすっ飛んで行く。それならそうと、もっ早く教えてくれたらいいのに……とぼやきたいところだが、こればかりはアラ−ムがついているわけではないので致し方ない。
 

眠気まなこで見上げる空には、手抜きなしに華麗なオ−ロラのショ−が始まっている。昨夜は深夜の12時過ぎまでその舞いを見せてくれたのに、今朝もまた早くからその美しい姿を見せている。これは私への別れのはなむけなのだろうか? 今日はコペンハ−ゲンへ移動の日なのだ。それにしても、まったく期待もせず、予期さえしていなかったのに、昨夜から間を置かずにお出ましになったものだ。
 

しかし、その撮影はよしておこう。昨夜、フィルム1本分をたっぷり撮り終えたし、残りのフィルムも1本しかない。これはこれから戻るコペンハ−ゲン用にとって置きたいからである。だから今朝は、素手で気楽に存分に観察できる。しかし、こんなに間も置かず早朝から出現するとは思わなかったなあ〜。出発の朝まで、こうして観察できることの喜びと感動を一人噛みしめる。なんとラッキ−なことだろう。これは居ながらにしてオ−ロラ観察ができる、この地ならではの有利さだろう。わざわざ観測小屋まで出かけるのでは、こんなチャンスは得られない。気まぐれなオ−ロラ様を相手にするからには、臨機応変の動きがとれなければチャンスを失う。
 

今朝も、あちらこちらと青白い黄緑色の淡い光を天空いっぱいに妖しく輝かせながら舞い続ける。これが今度の旅の見納めになるのだろう。そう思いながら、しっかりと目と脳裏に焼き付ける。すでにこれまで、美しいシ−ンが何百枚となく脳ディスクに保存されている。これらは私の一生の貴重な宝物だ。常時オ−ロラ観測ができるこの地の人たちにとっては、その美しい姿も妙はないかもしれない。しかし、遠く離れて見る機会のない私には、とてつもなく貴重で何物にも代え難い大切なものなのだ。
 

そんなことを思いながら、うっとりと星空を眺め続ける。天女の羽衣がひるがえるように、ゆっくりとなびきながら形を変え、そして淡く消え去っていく。なんと静かで音無しの美しいショ−であろう。太陽からの太陽風が地球の空気にぶっつかって生まれる発光現象だというのに、その音も風も匂いも何も感知されない。ただ静かに、淡い黄緑色の光が天女のように舞うだけである。実に素晴らしく、この世のものとは思えない、まさに超常現象といえるものなのだ。
 

独りそんな思いにひたりながら、うっとりと眺め入っていると、突然、ライトが点灯する。目の前の飛行場の除雪作業が始まったのだ。この灯に掻き消されて一瞬のうちにオ−ロラは見えなくなってしまう。時計を見ると7時である。もう1時間もここで見はまっていることになる。時間的にみても、そろそろ終焉のころでもある。折角のオ−ロラ観察が中断されはしたが、もう十分に見尽くしたことでもあるし、心残りはない。だが、恨めしげにライトを見つめながら、部屋へとひきあげる。
 

これでオ−ロラともお別れ、そしてこの地ともお別れかと思うと、何となく寂しい思いがしてならない。だが、振り返ってみれば、これほどすべての面で充実し、満足しきった時を過ごしたことはない。昼間は氷冠見物、スノ−モ−ビル、犬ゾリ体験と普通では体験できないアクティビティを満喫し、そして夜になれば4夜連続して延べ4時間以上にわたるオ−ロラの輝きをたっぷりと観賞することができたわけである。もうこれ以上の欲はいえないだろう。そう思いながら、満ち足りた気分で部屋へ戻る。
 

最後の朝食
まだ興奮の余韻にひたる身体をしずめようと、1杯の水を飲み干す。洗面を済ませると、最後の朝食に向かう。いつものように、塩辛いハム、ソ−セ−ジは避け、ポテト、玉子料理にパン、コ−ヒでいただく。朝食が終わると、あとは11時10分発の飛行機で出発を待つばかりである。まだ時間がたっぷりあるので、ゆっくりしよう。このホテルが出発ロビ−になっているので、別の所へ移動する必要がない。とても便利至極で、こんなエアポ−トホテルは他にないだろう。珍しい存在である。
 

何でもそろうマーケット
10時ごろになり、ようやく空も明るんで来たので、ス−パ−マ−ケットへ出かけてみよう。すぐ裏手にちょっとしたマ−ケットがあると聞いていたので、もうオ−プンのころだ。ホテルの玄関へ向かっていると、到着ロビ−にある飛行機のチェックインカウンタ−が開いている。そこで、ついでにチェックインを済ませてから外へ出る。少し歩いて前の道路に出ると、それを横切った真向かいの山裾にプレハブ型の細長い建物がある。それがマ−ケットなのだ。商店の立地としては、やはりホテルの側がいいのだろうか?
 

プレハブ型のマーケット

端の入口から中に入ってみると、奥行きのある店内いっぱいに、多種類の品々が陳列さている。鍋釜などの台所用品から、生鮮食料品、一般食品類、アルコ−ル類、衣類など何でも揃っている。この地でこんなにも品揃えがあるとは意外である。これだと、長期の滞在でも、ここでいろいろ調達すれば安上がりで済むかもしれない。店内をひと巡りしてホテルに戻る。
 

いよいよ出発
近隣の地域から旅行客が集まったらしく、狭い出発ロビ−はいつになく賑やかである。部屋に戻り、少ない荷物を整理してバッグにしまい込むと、出発準備OKである。いよいよこの地ともお別れだ。オ−ロラをこの目で見たいという長年の夢を叶えさせてくれたここカンゲルルススア−クの地は、決して忘れることはない。それに氷冠見物、スノ−モ−ビル、犬ゾリ体験などを通じて、北極圏の大雪原や氷河を肌で感じることができ、初体験のスリルと感動を得ることができた。この地ならではの貴重な体験である。
 

出発時間となり、機内に搭乗すると隣席に人の姿はなく、一人掛けとなる。話し相手もなく、これから4時間半の飛行を孤独に過ごすことになる。特殊な路線だけに、それほど込んでいない。きれいに除雪された滑走路を定刻に離陸すると、眼下にグリ−ンランドの白い大地が見えてくる。今日の空模様は、これまででいちばん良さそうだ。だが、惜しいことにこの身はすでにグリ−ランドにはいない。今日、この極寒の空の下で、みんなはどんな過ごし方をしているのだろう? 
 

カンゲルルススアーク空港を飛び立ったところ

ふと窓から見上げると、逆行する飛行機が真っ青な空の中に真っ白な飛行雲を引きながら飛んでいる。まるで私の旅の幕引きの線を引いているようだ、ここまでで、もうおしまいと……。


青空に映える飛行雲

旅の終わりに近づくと、いつもメランコリ−な気分にさせられてしまう。日常の世界から離脱して非日常の世界へ飛び込めるのが旅の素晴らしさらであり、醍醐味でもある。それが束の間の異次元の世界から否応なしに現実の世界へ引き戻されてしまう。これが旅の宿命といえるのだろう。ということは、旅を繰り返す度に、この気持ちを味わわされることになるわけだ。  


飛び立ってからもう2時間近く経っている。その間に飲物とおつまみのサ−ビスがあり、お腹は落ち着いている。やがて昼食の配膳が始まる。目的地のコペンハ−ゲンとは時差が4時間ある。時差がなければ午後の3時台には到着するはずだが、それが夜の7時半に到着となる。コペンに着くのは、もう夜なのだ。これでは外出も無理で、ホテルに閉じこもるしかない。そう心に言い聞かせながら、おいしい機内食にフォ−クを伸ばす。
 

コペンハーゲン空港でとんだ失敗
機は無事予定時間に到着。だが、外は真っ暗である。グリ−ンランドはデンマ−クの自治領だから、出入国の審査はなく、コペンへ入るのももちろんフリ−パスで国内便扱いである。すでに様子の分かった空港なので、戸惑うことは何もない。そそくさとバッグ1個を持って第1タ−ミナルのロビ−へ急ぐ。わがホテルはその目の前だ。そう思い込んで自信たっぷりに歩き進んだのだが、とんだ大失敗を起こす羽目になる。
 

第1タ−ミナルを目指して進めば進むほど、人気が少なくなり、みんなどうしたのかな? 私が降機するのが早かったからかな? などと勝手解釈しながら、どんどん進んで行く。ところが、いくら進んでもあの賑やかなコンコ−スに出ない。途中に人の気配もなく、誰に尋ねようもない。えいっ、行き着くところまで行ってみようと、さらに進んで行く。とうとう第1タ−ミナルの搭乗ゲ−トに出てしまう。
 

そこでやっと、空港スタッフをとらまえて宿泊ホテルの所在を尋ねる。すると、この前からバスに乗って移動しなさいという。ええっ!? そんなに方向違いに来てしまったのかと、がっくりしてしまう。当初から第1タ−ミナルとばかり勝手に思い込んでいたのがいけなかった。もっと早い段階で確認すべきだったのだ。旅の経験を積んでも、こんな落とし穴があるということを、いやというほど知らされる。玄関を出ると、その前から無料の空港内シャトルバスが巡回している。しばらく待ってこれに乗車し、ようやく賑やかな第3タ−ミナルへ戻る。とんだ無駄足を食ったものだ。
 

ホテルへ
ここまで来ればホ−ムグラウンド、通い慣れた陸橋フロアを通って先日と同じホテルへチェックイン。ついでに、市内観光のパンフはないのかと尋ねると、「これは去年のものですが……」と奥から出して見せてくれたものの、今の冬期シ−ズンは、すべての観光が休止中となっているらしい。昨年のを見ると、市内観光は5月からとなっている。
 

明日の帰国便が午後の3時過ぎの出発なので、それまで午前の半日がたっぷり余裕時間となる。それを利用して11年ぶりに市内観光をしようと思うのだが、これでは、しようがない。冬期で寒いかもしれないが、やはりレンタサイクルでサイクリングするしか手はなさそうだ。久しぶりに人魚像にも会いたいし……。
 

よし、明日は中央駅まで出て自転車を借り、昔を思い出しながら、のんびりとサイクリングしてみよう。そう心に決めると、4日ぶりにデラックスな部屋に入り、旅装を解いて早速コ−ヒ−をいれる。前回と違って、今度の部屋は市街地が見える方向になっている。中心街ではないので、夜の灯もさほどのことはない。窓際のテ−ブルに着き、コ−ヒ−カップをゆっくり傾けながら、コペンの最後の夜景に名残りを惜しむ。明日はもう日本なのだ。



(次ページは「コペンハーゲン市内散策」編です)










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