4.スノ−モ−ビル、犬ゾリ、オ−ロラ観察
滞在3日目。昨夜は1時間半もたっぷりとオ−ロラを観賞できたので、その後の出現の分はもうよいという思いで、満足感にひたりながら眠りにつけた。そのせいか、今朝は爽快気分で6時半に起床。早速、窓辺に駆け寄り、空の様子をチェックする。だが、もう昨夜の星空はどこかへ消え去り、見上げる空にはただ暗闇の空間が静かに広がるのみである。吹雪さえなければ、今日のアクティビティには影響あるまい。
今日の行動予定は、スノ−モ−ビルと犬ゾリ体験の2つにチャレンジする。かなりのハ−ドスケジュ−ルになりそうだが体調は万全だ。いずれも初体験のことだが、どちらが午前と午後に割り当てられているのか、未だに連絡がない。とまれ、洗面身仕度を済ませて、朝食と行こう。もう3日目ともなると、ホテルの様子も分かり、当初は迷路のような廊下に戸惑ったが、今はそれにも慣れてスム−ズにロビ−まで行けるようになっている。カフェテリアでは昨日と同じ内容で皿に盛り、昼食用にパンとクロワッサンを余分にいただく。
食後はゆとりの時間。外はまだ真っ暗なので、部屋へ戻ってTVタイム。特別大きなニュ−スはなさそうだ。東南アジア地域のホテルでは、いずれもNHKが観れたのだが、このホテルでは、もちろん日本の放送は入らない。デンマ−クの番組とCNN放送などである。ところで、この部屋のテレビ取り付けは天井からの懸垂式になっており、そのため机に座って立ち上がろうとすると、その度にゴツンと頭をぶっつける始末。それを注意しなくてはと思いながらも、ついゴツンとやってしまう。それがまた痛いのだ。とうとう業を煮やして、上向けにしてしまう。
アクティビティの防寒対策
今日のアクティビティも10時開始に違いない。そう思いながら、そろそろ出発の準備を整える。昨日と違って、今日の種目はもろに外気に触れる上、それも各2時間ときているので、生半可の寒さではないだろう。そう思って、しっかりガ−ドする。今日こそレンタルの防寒着も出動だ。自分の防寒着の上に、これをさらに重ね着しよう。ただし、ダウンジャケットだけは、よしておく。厚着過ぎて、身動きがしにくいからだ。
それにもう一つ、カメラの防寒対策だ。これに備えて、保冷バッグと貼るカイロを持参している。今日はこれも出動だ。ハンカチを広げ、カイロを二箇所に貼りつけて畳み、それを保冷バッグの底と側面に配置する。そして、この中にカメラと電池を入れてチャックをする。これをデイバッグの中に押し込んで置けば万全だ。
10時近くになったので、バッグにカメラを入れ、防寒着を手にぶら下げながらロビ−に出てみる。すると、そこには誰もいない。申し込んだグル−プの青年の姿もまだ見えない。時間が早いからかな? そう思っているところに、同じメンバ−の日本人女性が通りかかる。確か、今日は犬ゾリを申し込んでいたはずだ。そこで尋ねてみると、11時出発と聞いているという。?・・・。こちらには何の知らせもなかったが……。不審に思ってガイド嬢の部屋へ電話してみる。そして、午前はどちらの種目なのかを尋ねると、10時からスノ−モ−ビルだという。OK!
このスノ−ボ−ビルだが、以前から一度は体験してみたいと思っていたので、絶好の機会だけに、この際ぜひ挑戦してみたい。北極圏の大雪原を疾走するなんて、滅多にない機会だ。それにしても初体験なので、ちょっと怖い思いもあるが、そこは昔取ったきねづか、青年時代にバイクを駆っていたころを思い出し、挑戦してみることにしたのだ。
スノーモービル初ドライブ
しばらくすると、ガイド嬢や相棒の青年も姿を見せる。ほどなく欧米人らしき中年の男性ガイドが迎えに現れ、車でピックアップする。このホテルから出発するのかと思って防寒着の着用を始めていると、それは不要で別のものを用意しているという。そこで防寒着はガイド嬢に預け、車に案内される。今日の参加者は、われわれ2人のみで、車は地元の人たちの居住区まで移動する。車で5分少々の距離で、ホテルから遠くに見えている集落である。
その一角にバイクの保管庫があり、そこで防寒の装備を行う。オレンジ色のつなぎ服に目だし帽をかぶり、その上にヘルメットを乗せる。初めてつけるヘルメットが意外と重く、しかも自由に首が回らず、防寒服とあいまってなんだか身動きしにくい感じである。装着が準備できたところで、ガイドの分と3台のモ−ビルを引き出して出発準備にかかる。
エンジンを始動すると、まず運転操作の説明が始まる。左ハンドルの外側に自転車と同じように付いているレバ−がブレ−キ、右ハンドルの内側に付いているレバ−がアクセル、そして右ハンドル下部にあるレバ−を引き出すとバックになる。ただそれだけのシンプルな操作である。このモ−ビルはスク−タ−に似たスタイルで2人乗りになっている。前輪に当たるところには2本のソリが付いており、後輪に相当するところにはエンドレスのキャタピラ−が付いている。
じゃ、この庭で試運転してみようということになり、よいしょとまたがって乗車し、おっかなびっくりで動かしてみる。うん、これだと何とかイケそうだ。だが、ハンドルがバカに重いぞ。車輪ではないから回転が悪く、すごく抵抗力が加わる。これだと簡単にハンドルが切れないぞ。そして、アクセルの手加減をうまくやらないと、急に飛び出して身体が後ろにのけぞり、放り出されてしまいそうになる。思わずハンドルを握りしめる。狭い庭を一周すると、そのまま出発である。大丈夫かな?
ガイドが先頭に立ち、その後に私、青年と続く。前の道路を横切り、脇路の積雪した部分を徐行する。進むにつれてそこは次第に段差が高まり、道路と2mぐらいの差にまで高くなる。道路には雪がないから、この脇路を通るらしい。それがモ−ビル1台がやっと通れるぐらいの狭い幅だから怖くてしようがない。もし、運転操作を誤れば、2m下の道路に転落し、モ−ビルは破壊した上に足なども骨折する恐れがある。そんなことが頭をよぎって、はらはらドキドキしながら慎重に運転する。乗り始めたばかりで慣れないのに、難しいル−トを走らされるものだ。
50mほど走ると次第に段差もなくなり、道路と平行になる。そこで、今度は道路を右に横切って野っ原に出る。ここで待ち受けていたガイド氏が2人に「大丈夫か?」と問いかける。2人ともOKと返事すると、この野っ原を横切ってその先にある坂道を上り始める。この原っぱで少しは練習するのかと思いきや、そのまま坂道に入るので戸惑ってしまう。出発前に「坂道が少し難しい」とガイドが言っていたからである。緊張のしっぱなしで、周りの景色どころではない。ガイドのスピ−ドについていくのに必死である。
坂を上りあがって野原に出ると、でこぼこの雪原を進んで行く。枯れた雑草の根があちこちに点在している。これに乗り上げると危険だ。慎重にガイドのわだちをなぞってコ−スを外れないように走って行く。この時点で、ようやく30〜40kmの速度で走れるようになる。ガイド氏が時折ストップしては後を振り返り、2人に「大丈夫か?」と問いかける。
雪原は一様に真っ白だから、どこに凸があって、どこに凹がある判別できない。だから時折、これに当たって大きくバウンドし、身体が跳ね上がる。その度に、振り落とされまいと必死になってハンドルを握りしめる。それを取られたら大変だ。これの繰り返しなので、いつの間にか身体は緊張で火照り、汗ばんでくる。無風状態とはいえ、この零下の空気を突っ切りながら疾走しているにもかかわらずである。手指も熱くなってくる。ハンドルを強く握りしめるからだろう。モ−ビル運転が、こんなにも全身が熱くなるとは思いもよらないことだ。
野原を突っ走ったり、野道を飛ばしたりしながら、どんどん奥地に向かって進んで行く。ガイド氏が「ハンティングの場所に連れて行きましょう。」といいながら、どんどん走って行く。こちらも遅れまいと必死に追いかける。速度計をちらっと見ると、50km前後で走っている。ずいぶんとスピ−ドが出てきたものだ。前方の凸凹に気を取られて、なかなかスピ−ドメ−タ−さえ見る間がないのだ。
大雪原を疾走
こうして山野を縫いながら駆け抜けると突然、広大な雪原地帯に入って行く。そこは低い山並みの間に開けた砂漠地帯なのだ。湖かと思っていると、底は砂地らしい。だから、枯れ草の根もどこにも見当たらない。途端に、スピ−ドを上げて疾走する。ガイド氏に遅れまいと、ハンドルのアクセルレバ−を強める。ぐんぐんとスピ−ドが上がって行く。怖いがスリル感があって痛快でもある。さらに加速してスピ−ドが上がって行く。ちらっとメ−タ−を見ると、90km近い。車輪ではないキャタピラ−で、こんなに速度が上げられるとは意外である。
障害物のない直線を走るので、スピ−ドを上げられる。しかし時折、凸凹に当たって身体が跳ね上がる。これがいちばん怖い。身体が放り出される危険があるからだ。だから、それに備えて尻を軽く浮かしながら走るのがコツである。お尻をどっかり乗せたまま走行すると、凸凹にはまった時に、尻から跳ね上げられて全身が宙に浮いてしまう。これがひちばん危ない。それを避けるために、尻を少し浮かせながら走ると、そんな場合も膝のクッションで衝撃を和らげ、身体への衝撃も軽くなる。これは乗馬の要領と同じなのかもしれない。
雪原の真ん中に出ると、ここで小休止する。ガイド氏がいうには、この一帯が猟場で、モスクスなどが獲れるという。この機会を利用して、早速記念の撮影をしておこう。北極圏の人気のない白一色の大雪原に、たった3人のみがたたずんでいる。地球の果てまでやって来たという感じで、この世に取り残されてしまった思いである。冒険家や探検家は、この何倍もの孤独感を感じるのかもしれない。
無風状態の中で、し〜んと静まり返った北極圏の大自然の懐に抱かれながらたたずんでいると、完全な異次元の世界に身を置いている感じがする。こんな体験は滅多とできないこと。この機会をとらえて、たっぷりとその感触を味わっておこう。外気は零下の世界だが、身体は汗ばむほど火照っている。スキ−をやれば同じことなのかもしれない。ウインタ−スポ−ツは意外と身体をホットにするものだ。
バッグを開けてカメラを取り出そうとすると、中はほかほかと温かい。やはり、保冷バッグとカイロの効果は抜群だ。バッグは首に通して胸の前にぶら下げている。この状態でもう1時間も疾走し続けている。だから、相当な冷気の風を受けてデイバッグは冷え込んでいるが、保冷バッグの中はほかほかである。これなら電池機能の低下防止も大丈夫だ。 |
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