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  N0.2
(&デンマーク)



2.グリ−ンランドへ
2日目。朝5時半起床。外の気温は5度で曇り。この地は意外と気温が高いが、恐らく沿岸に近いからだろう。内陸部では零下の気温になっているはずだ。夜明けて見ると、すぐ側は海なのだ。そういえば、飛行機が着陸する際、海上すれすれに降下して着陸していたことを思い出す。


デラックスな朝食
今朝は9時15分発の飛行機で、この旅の目的地グリ−ンランドへ飛ぶ。果たして最大の目的であるオ−ロラは見られるのだろうか? その期待ばかりがふくらむのだが……。それはともかく、朝食に出かけよう。6時半の開店を待って食堂に行くと、そこは喫煙席と禁煙席に区別されており、禁煙席に案内してもらう。さすがに豪華ホテルだけあって品揃えが豊富だ。各種のパン、ケ−キ類、ポテト料理、ソ−セ−ジ、ハム、ベ−コン、スクランブルエッグ、半熟玉子、飲物はコ−ヒ−、ティ、各種のジュ−ス、ミルク、それに各種のフル−ツが揃っている。1人なのに、コ−ヒ−はポットごとテ−ブルに置かれて好きに飲むことができる。豪華な気分にひたりながら、早目に朝食を終わる。あまり、ゆっくりできないのだ。


空港へ
部屋に戻ると、少ない荷物をまとめてバッグに詰め、階下に下りてレセプションでチェックアウトを済ませる。忘れないようにダウンジャケットをしっかり片手に持ちながら、空港ロビ−へつながる陸橋フロアを渡って行く。ホテルが空港の目の前というのは実に便利至極である。エア−・グリ−ンランドの発着タ−ミナルを空港スタッフに尋ねると、第二タ−ミナルだという。


そこまでかなりの距離があり、チェックインを済ませて搭乗ゲ−トに向かう。これがまた遠くていつまで行ってもたどり着かない。途中のフロアにはさまざまなショップがびっしりと立ち並んで賑やかだ。ようやくゲ−トに到着して一休みする。


隣席の友は歯医者さん
搭乗時間となって機内に入ると、指定された席は2人掛けの通路側である。隣にやって来たのはコペンハ−ゲンに住む年配の歯科医である。定刻に離陸した機はグリ−ンランドのカンゲルルススア−クを目指して飛行する。間もなくして、撮影チャンスはないかと盛んに私が窓外の景色を気にしていると、「こちらと替わりましょう。私は度々訪れているので珍しくはありませんから……。」と親切に提案してくれる。そこで、言葉に甘えて席をチェンジしてもらうことに。


コペンハーゲン空港を飛び立ったところ

その後はいろいろと話がはずむ。第二次大戦を経験した同世代だけに、話がよく合うというわけだ。TVのフライトマップを見ながら、ここはこんな所で、こんな特色のある地域だとか、ここはアイスランドでグリ−ンランドと異なり、政治的に完全に独立した国だなどと解説してくれる。グリ−ンランドの産業は何かと尋ねると、エビなどの漁業で、それを日本に輸出しているという。日本人はエビ好きで、世界中のエビを食い漁っていると話すと笑っている。グリ−ンランドには度々出かけて、時には半年間も滞在して歯科医の仕事をすることもあるという。今度は1ヶ月の滞在だそうだ。


彼の妻はグリ−ンランド人(原住民のイヌイット人)だそうで、子供は男女2人。息子は医師を目指して勉強中、娘は看護士で今度スウェ−デン人と結婚することになっている。我が家はこれでコスモポリタン家族になる……などと言いながら笑っている。医師になるには6年かかるそうで、もう間もなく卒業のころだと言う。私に、日本のどこに住んでいるのかと問うので、長崎だと答えると原爆の話になり、お互いの戦争体験談を語り合うことになる。


コペンハ−ゲンの街も第二次大戦中にはドイツ軍から攻撃を受け、全滅ではないが少々の被害を受けたと言う。子供ながらに恐怖心を抱いた記憶があると言う。私の原爆体験談には真剣に耳を傾け、貴重な話を聞かせてくれて感謝する。あなたは私の出会った中で、生涯忘れ得ぬ人だと言いながらしきりに感動している。


その後はお互いの年金制度の話になり、デンマ−クもその制度はあるそうで、自分の場合は67歳になれば年金がもらえるので、その時に引退してゆっくりしたいと言う。そうして、私のようにあちこち旅行して回りたいと言う。考えることはどこの国の人も同じことだ。こうした話の間にも、窓外の景色について私の質問に対し親切に答えてくれる。
 

これまで長い間疑問に思っていたことについて、彼に質問してみる。それは「コペンハ−ゲン」の呼び方についてである。頭の部分は“コペン”と発音されるが、ト−マスクックなどの時刻表では“KØ BEN”となってBの発音になり、“コベン”となっている。これはどちらが正しいのかと尋ねると、それは英語読みとデンマ−ク語読みの違いなのだという。つまり、英語読みでは“コペン”と発音し、デンマ−ク語では“クォ−ベン”と発音するのだそうだ。これで長年の疑問が思わぬ機会で解決し、気持ちがすっきりとなる。


今度の旅の目的がオ−ロラ観察だということを話すと、どうも話が通じていない様子だ。そこで、ひょっとしたら“オ−ロラ”という言葉が通じないのかもしれないと考え、「北極圏の夜空の中で発光する自然現象は何といいますか?」と尋ねてみる。すると、「英語ではNorthern Lightsといいます。」と教えてくれる。恥ずかしながら、そのことは知らなかった。てっきり、オ−ロラで通じるとばかり思っていたのだ。道理で怪訝な顔をしていたわけだ。
 

オーロラの語源
(ちなみに、オ−ロラの語源を調べてみると、これはロ−マ神話からきたものだという。神話に登場する女神オ−ロラは、地上の生き物に夜明けや希望をもたらす神であった。この女神の名が極地に舞う光に与えられるようになったのは17世紀に入ってからのことだそうで、ガリレオがその名付け親だという。)
 

間に食事や飲物が配膳され、彼はワイン、私はジュ−スで一緒に食べながら雑談がはずむ。彼はアルコ−ルが好きらしい。その後、機内販売が行われると、私にウィスキ−をプレゼントしたいがどうか?と問うので丁重にお断りする。飲めないこともないが、荷物になりそうなのだ。そうこうするうちに、きれいなブル−の景色が見え始めるので、あれはどこかと尋ねると、グリ−ンランドだと言う。もう、アイスランド上空を通過し、グリ−ンランド上空を飛行している。その西端にあるカンゲルルススア−クまで、もう一息だ。


ブルーに輝く夜明けのグリーンランドの大地(機上より)

飛行ルート
コペンハーゲンからの飛行ルートを見ていると、ノルウェーの西岸に沿って北上し、そこからノルウェー海を横切りながらアイスランド目指して西へ飛行する。そして、アイスランド上空を西へ横断しながらその先のグリーンランドを目指す。その上空に達すると、南岸沿いに西へ飛行しながら西端のカンゲルルススアークを目指す。


冠雪したグリーンランドの風景(機上より)

グリーンランドのこと
ここグリ−ンランドは北極圏(the Arctic Circle)にあって北極海に面し、カナダの北東に位置する世界最大の島である。面積は日本の5.7倍の広さで、全島の85%は氷河で覆われている。海岸部には巨大なフィヨルドが形成され、内陸に向かって氷河が高くなり、最も厚いところでは3,000mを超える。月平均気温は内陸でマイナス50〜マイナス14°C。この国の産業はエビ、タラ、ニシンなどの漁業である。
 

この島の世界遺産は「イルリサット・アイスフィヨルド」が自然遺産として登録されている。正式国名はグリ−ンランド(デンマ−ク自治領)で、首都はヌ−ク。人口は56,000人で人種はグリ−ンランド人とデンマ−ク人である。公用語はグリ−ンランド語(東イヌイット語)とデンマ−ク語。時差は日本より10〜13時間で、それだけ遅れている。通貨はデンマ−ク・クロ−ネ。 
 

到 着
機は高度を下げながら飛行を始める。窓外に冠雪した山並みが見えてくる。まさに白一色の世界だ。さすがに北極圏だけのことはある。よくこんな雪の中に大型ジェット機が離着陸できるものだ。いったいどうなっているのだろう? 不思議に思っていると、どんどん高度は下がり、雪原が見えてくる。いよいよ着陸だ。どし〜んとした振動があって滑走路に着陸すると、到着ゲ−トに向かう。滑走路は見事に除雪されて、離着陸には何の支障もないのだ。その維持管理には恐れ入ってしまう。
 

カンゲルルススアークの冠雪した山並み(機上より)


着陸寸前。飛行場の様子。

コペンハ−ゲンから4時間40分の飛行で、定刻の9時55分よりやや遅れての到着である。この地はコペンハ−ゲンとの時差が4時間なので、時計の針を4時間遅らせる。コペンを出発したのが朝の9時15分。それから4時間半以上も経っているのに、まだ同じ時間帯の9時台に到着とは何だか変な感じである。昨日も時差を8時間調整し、今日もそれから4時間の時差調整である。これも何だかへんてこりんな感じである。


機がゆっくりと停止ポ−トに移動するにつれ、次第に周辺の様子が見えてくる。山裾に低く横長に広がる白い建物が見える。多分、あれがカンゲルルススア−ク・ホテルなのだろう。空はようやく明け始めた感じで、まだ何となく薄暗い感じである。とうとう、北極圏の地まではるばる来てしまったという感じである。今日はどんな天候になるのだろう。
 

横長の白い建物(手前の二階建ての方)がホテル。奥の4階建ては別棟。

カンゲルルススア−クのこと
舌をかむような名前のここカンゲルルススア−クは、第二次大戦中の1941年の始めから米軍の輸送防衛基地として活動し、戦後の冷戦時代には空擦の常駐基地としての役目を果たしていた。米軍がここに基地を設けたのは、何といってもその晴天率の高さにあるといえる。冬期の月間平均降水量が10mm未満で、その晴天率の高さでは世界でも屈指の場所なのである。 


そんな基地もソ連崩壊で役目を終え、それがグリ−ンランド空港当局によって現代的な研修・会議センタ−として生まれ変わり、また空港タ−ミナルに付属してカンゲルルススア−ク・ホテル(3☆ホテルで部屋数336、バ−、カフェテリア、レストランがある)が設けられている。ここから3km離れたところに主要基地があり、そこには2つのホテル、ボ−リングセンタ−、スイミングプ−ル、教会、基地博物館、極地研究センタ−などがある。私が宿泊するのはこの町ではなく、空港に付属したカンゲルルススア−ク・ホテルである。
 

そんな基地の歴史もあって、グリ−ンランドには珍しいアパ−ト形式の居住区が広がっており、町の中には公共の無料バスが運行している。周辺には約900人のイヌイット(以前はエスキモ−と呼ばれていた)が住んでいて、漁業とアザラシ漁に従事している。この地が晴天率を誇るだけに、絶好のオ−ロラ観察ポイントともなっている。
 

ホテルへ
機は停止して、いよいよ零下20度の世界に降り立つ。見上げる肝心の空は厚い雲に覆われている。今夜の天候が心配だ。ダウンコ−トを着用しただけの姿で機外に出ると、予想したよりは冷たさを感じない。冷凍人間になるのではないかと案じていたが、まずその心配はなさそうだ。到着ゲ−トまで50mほどの距離を歩いて到着ロビ−に入る。
 

狭い到着ロビー

そこに現地旅行社のスタッフが出迎えるはずである。狭いロビ−の人混みの中を見回すと、社のプラカ−ドを持って若い女性スタッフが待っている。名前を告げると、部屋のキ−と予約していたレンタルの防寒服を渡してくれる。期せずして同じ便で日本人の若者5人(女性3人、男性2人)が到着しており、彼らと合わせて都合6人が彼女の案内になる。


迷路のような廊下
とりあえず、荷物を部屋に置いて半時間後に再度ホテルのロビ−に集合してくれとのこと。その時、滞在中のアクティビティなどの希望を聞きたいという。そこで到着ロビ−と隣接しているホテルロビ−を通り抜けて各自の部屋へ向かう。部屋番号が3111とあるので3階なのかと思い、フロントにエレベ−タ−はないのかと尋ねると、「ありません。」との返事。仕方なく二階へ階段を上ってみると、三階は見当たらない。
 

左がホテルレセプション。その奥がカフェテリア、レストランとつづく。(到着
ロビーから見たところ)


部屋の案内表示に従って進むと、細い廊下が何箇所もドアで区切られ、その開け閉めがなかなかやっかいだ。暖房効果を上げるためなのだろう。


細い廊下を挟んで左右に客室が並ぶ。突き当たりは仕切りのドアで、これ
を通り抜けて先へ進む。


幾つかのドアをくぐり抜け、曲がったり、下ったりしながら進むのだが、迷路に迷い込んだ感じでなかなか目指す部屋が見当たらない。2000番台の部屋が現れたりして、いっそう混迷してしまう。部屋番号は階数の意味ではなく、どうも棟別の番号のようだ。建物がA、B、C、Dのブロックに分かれており、そのブロックごとの番号のようだ。探し歩いてようやく自室にたどり着く。
 

室内の様子
ドアを開けて室内に入ると、内装設備はいたって簡素なもので、昨夜のデラックスホテルとは雲泥の相違である。これは場所柄やむを得ないことだろう。冷蔵庫付きの小さなデスクと椅子が2脚、幅60cmほどの小型ロッカ−がぽつんと1つ。それに細目のベッドが2台。バスル−ムはシャワ−のみでバスタブはなし。だが、さすがに暖房だけは完備され、窓際にラジェ−タ−が据えられてほかほかと暖気が上がっている。また、バスル−ムにも暖房が効いている。
 






 室内の様子
 窓の向こうに滑走路が見える。
 居ながらにして、この窓からオーロラ
 が観測できる。













窓からの眺めは上々で、正面に滑走路が見え、その向こうに小高い山並みが見える。さえぎる物がないから、窓から外の風景が丸見えである。これは絶好のオ−ロラ観測部屋かもしれない。そう思いながら早速、旅装を解いてレンタルの防寒服を試着してみる。上下のつなぎになっているので、着るのがスム−ズにいかない。ボディ部分のサイズはまあまあだが、足の長さが長すぎる。そこで、裾を折り曲げてみると、これで何とかおさまり、OKとなる。
 







 これがレンタルの防寒着















アクティビティの打ち合わせ
間もなく集合時間となり、部屋からロビ−までのル−トを確認しながら歩いて行く。そこまでかなりの距離である。日本人青年男女5人と熟年男性1人の計6人が集まると二階のバ−に案内され、そこでガイド嬢の説明を受けながら滞在中のアクティビティについて各自の希望を申し出る。私はスノ−モ−ビル、犬ゾリ、それにアイスキャップ(Ice cap……氷冠)の見物を申し出る。若者たちはこれらの1つ〜2つで、私だけが欲張って3種目を希望することに。
 

これを受けてガイド嬢は業者との打ち合わせに席を立ち、電話連絡に行く。しばらくして戻ると、次のようなスケジュ−ルが決められる。今日の午後は何もなし。明日は一日がかりで「氷冠見物」、そして最終日はスノ−モ−ビルと犬ゾリという。私だけが最終日に2種目に挑戦するわけだが、それぞれ2時間ずつのアクティビティだけに疲れは大丈夫かと気になるところである。それも午前10時出発で12時に戻り、1時間で昼食をすませて午後1時から次の種目という。やれやれ、これはかなりのハ−ドスケジュ−ルだ。今日の午後に1種目を割り当ててくれたら助かるのに、先方の都合があるらしい。それでも折角の機会だからカットするのは惜しいし……、とにかく挑戦することにする。
 なお、現地のアクティビティには次の種目がある。

 
    *****************************************************
            (現地のアクティビティ)05年1月現在

・犬ゾリ体験……所要時間約2時間、DKK850(17,000円)、最少催行
           人数2名。最大6名まで。(旅行記参照)

・スノ−モ−ビル……所要時間約2時間、DKK795(15,900円)、最少
             催行人数1 名。(旅行記参照)

・ジャコウウシとトナカイのサファリ……所要時間3〜4時間、DKK295
                        (5,900円) 最少催行人数3名。

・アイスキャップ(Ice cap……氷冠)見物……所要時間4〜5時間、
                   DKK475(9,500円)、最少催行人数
                   3名。(旅行記参照)

・オ−ロラウォッチング……所要時間2時間30分、DKK350
                 (7,000円)、最少催行人数3名。

・カンゲルルススア−ク観光……所要時間2時間30分、DKK250
                     (5,000円)、最少催行人数3名。

・アイスフィッシング……所要時間4時間、DKK500(10,000円)、
               最少催行人数3名。

                  (用具のレンタル)

・防寒着……1日DKK150(3,000円)、滞在中DKK300
         (6,000円)、利用可能人数10名まで。

・クロスカントリ−用スキ−セット……1日DKK50(1,000円)

・湯沸かし器……1日DKK100(2,000円)
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周囲の下見
このスケジュ−ルの打ち合わせが終わると、あとはフリ−の身だ。昼食は機内食を食べているので、お腹は空かない。そこで早速、ホテルの周囲を偵察に出かけてみよう。ダウンジャケットに身をかため、毛糸帽を耳深くまでかぶり、マスクをしてフ−ドで頭部を覆い、二重の手袋をはめて完全武装する。そして、デイバッグにカメラを入れて首からぶら下げる。到着ロビ−には温度計の表示があり、時々刻々と外の気温を示している。今、それを見ると零下20度を少し割っているところである。
 

一般出入口は到着ロビ−にあるのだが、ここは裏側にあるので飛行場側に出るにはホテルの建物をぐるりと1周しなければいけない。そこでガイド嬢に、飛行場側への出入口はないのか尋ねると、非常口を教えてくれる。しかし、ここから出るのはいいが、入る時は外から開けられないので一般口へ回らないとだめだという。とにかく、外へ出て風景写真を撮ってみたい。 


ドアの外に出ると、積もった雪をサクサクと踏み分けて歩き進む。これだけ防寒していれば、寒さはほとんど感じない。まずは前に広がる飛行場の風景を撮ってみよう。前方には午前に着陸した滑走路が伸びている。そして、その向こうには夕焼け空の中に低い山並みが連なっている。白一色の世界に、その山の一角だけが黒い山肌をのぞかせている。


今、夕焼けと書いたが、実はまだそれは夕焼けではないのだ。そのように見えるのは、北極の地で太陽が高く昇らず、この山の端に少し顔を出すぐらいの高さで移動するためである。この時季では、日中でも夕暮れ時のような明るさしかないわけだ。
 

二枚重ねの手袋ではカメラのシャッタ−ボタンが押せないので、右手の一枚を脱いで薄手袋だけになり、カメラを取り出す。オ−ロラ撮影の説明を読むと、カメラなど金属部分を絶対素手で触るなとある。金属に触れて指が凍傷になるからだという。それで、二枚目の手袋は薄手のものを着用してカメラ操作ができるようにしている。こうして、この珍しい北極圏の風景を5枚連続の写真に収める。



ホテル前から見た飛行場の風景




ホテルの建物に沿って歩いていると、ちょうどその中間地点に出入口を発見。ドアを押してみると開くようになっている。中に入ってみると、建物を横切って直接裏側へ出られる出入口がある。これはしめたぞ! 夜のオ−ロラ撮影には、ここから出入りするようにすればOKだ。


ここを通り抜けて裏側へ出てみる。そこには広い道路が設けられ、すぐその向こうには山裾が迫っており、それを背にしてこのホテルは建てられている。この山並みと今見た反対側の山の間に滑走路が設けられているというわけだ。これで周囲の様子はほぼ掴める。
 

ホテルの裏手側。道路が走っている。


上の写真と反対側の風景。小高い山裾が迫る。

観察ポイント
一通り周囲を見回して、ここなら夜の撮影ポイントに最適だろうと決めた場所は、やはり飛行場側の出入口付近である。ここなら空をさえぎる障害物はないし、360度に空が見えるので格好の場所に違いない。ここは居ながらにして観測ができるのが最大の利点であろう。他の地域のように、離れた観測小屋まで出かける必要はないのだ。折角、観測小屋まで出かけてもオ−ロラが現れるとはかぎらないし、ここならどっちに転んでも問題なしである。
 

午睡で出遅れ
ぶらついている間に、もう午後の2時を過ぎている。この周辺には何も見る物がないので、部屋に戻って午睡の時間としよう。まだ、時差ボケによる睡眠不足気味のようだ。夜まで何もすることがないから、眠るにかぎる。部屋に戻ると、ベッドに潜り込んで横になる。
 

感動のオーロラ初見!
ぐっすり寝込んでしまい、ふと目を覚まして時計を見ると夕方の6時である。窓外はすでに真暗である。これはしまった!とばかりに慌てて飛び起き、窓際へ駆け寄る。眠気眼で空を眺めると、星空の中に何やら青白い光がうごめいている。あっ! あれがオ−ロラなのだ!! 夢にまで見たオ−ロラとの遭遇……それが今、現実のものとなったのだ。感動の一瞬である。胸は高鳴り、気も動転せんばかりに真暗な部屋の中でただ一人興奮のるつぼに落ち込む。午睡する前までは、あんなに厚く曇っていたのに、眠っている間にすっかり晴天になっていたのだ。 

撮影にもたつく
すぐさまデジカメを持ち出して撮影にかかる。あちら、こちらと、天女の羽衣の舞いのようにオ−ロラが淡い光を放ちながらうごめいている。そしてついには、典型的なカ−テンウォ−ルまで出現している。なんと素晴らしいことだ! ただ一人で興奮しながら感嘆の声をあげ続ける。位置が頭上の空なので、アングルを合わせるのが難しい。


ところがこのデジカメ、ファインダ−を覗こうにも、その横に小ランプが付いており、その光が暗闇の中では目に邪魔になってファインダ−をのぞけない。そこでモニタ−画面で見ようと思うが、電池節約のためにオフの設定にしている。仕方なく適当に方向を定めて出現している方向に向かって撮影する。かなり高い位置の上空でばかり出現している。
 

暗闇の中で慌てふためきながら当てずっぽうに撮影を繰り返し、時には再生画面にしてチェックしてみる。ところが、真暗な画面ばかりでオ−ロラの光らしきものは何も写っていない。フラッシュをオフにしてもシャッタ−時間がわずか1秒しかないので、やはり無理なのかなあとあきらめる。そこで普通カメラをと思うが、この上空角度ではファインダ−を覗くのが無理なようだ。よし、今回の撮影はあきらめ、次のチャンスに外で撮影しようと心に決める。
 

あとは星空に目を釘付けにしながら、天空に舞う神秘的な極光の輝きに、ただこう惚としながら見入るばかりである。しかし、こうして暖房の部屋の中で居ながらにして観察できるとは、実に理想的なオ−ロラ観察といえるのだろう。いつ出現するか予測できないオ−ロラを夜通しかけて見張ることもできるわけだ。こうして半時間ほど過ごすうちに突然、猛烈な空腹感に襲われる。午前に機内食を食べたきりなのだ。居てもたってもいられず、急いで身仕度をしてカフェテリアへ急ぐ。早く食事を終えて次のオ−ロラチャンスに備えなければ……。
 

カフェテリアで夕食
このホテルにはセルフサ−ビスのカフェテリアとレストランがある(どちらも夜9時まで営業)。セルフで十分なので、そこでサンドイッチとコ−ヒ−をセルフサ−ビスし、そしてメインに大きな肉が入ったシチュ−を注文する。これで料金合計は92クロ−ネ(=1840円)。やはり物価は高い。
 

テ−ブルに着いて食事していると、一緒の日本人青年がやって来たので同席しながら食事を取る。日本人客は、どうも我々6人だけのようだ。彼も独り旅だそうで、ストックホルムに立ち寄ってから、この地に入ったという。ストックホルムではロストバゲ−ジに遭い、2日ばかり荷物なしで過ごす羽目になったと語る。
 

今夕のオ−ロラ出現のことについて、お互い興奮気味に語り合う。絶好の観測ポイントを案内するからと、一緒に連れ立って昼間に下調べしていた場所へ向かう。一般出口から出て裏手へ回り建物の中ほどまで来ると、そこに出入口がある。そこから入って反対側の出入口へ通り抜けると滑走路側の敷地に出る。そこが絶好のオ−ロラ観測ポイントなのである。裏手側は道路があるため、大きな街灯が数本点灯して明るく、それが観測の妨害になっている。
 

星空見えず
外に出てふと空を見上げると、おや? 食事前まではあんなに星空だったのに、今は星ひとつ見えない暗闇の空になっている。食事の間に雲が出てきてしまったのだ。このまま曇ってしまうのだろうか? とにかく場所を確認し、残念な気持ちで引きあげる。この中央出入口から廊下が続いており、そこにはスタッフの事務室が並んでいる。こっそりとそこを通り抜けて突き当たりの階段を上がると、なんとそこは自室のある廊下の入口につながっている。これは一大発見! このル−トを利用すれば、わざわざ到着ロビ−の一般出入口まで遠回りせずに、直行で簡単にポイントまで行ける。これだと1分もかからずラクチンだ。
 

部屋に戻ると、デジカメのモニタ−画面の設定をオンに切り替えたり、普通カメラを三脚に取り付けたりしながら撮影の準備にかかり、次のオ−ロラ出現を待つことにする。TVをつけると室内が明るくなって窓外の様子がわかりにくい。そこで室内を真暗にし、上着だけを着用すれば出動できる姿でベッドに横たわる。そして時折、窓際まで近寄っては星空になっていないかをチェックする。
 

こんなことを繰り返しているうちに、喉の渇きを覚える。もう夜の10時過ぎである。このホテルの難点は、湯沸かしの設備が部屋にないことだ。お湯を沸かすには、特別料金を出して湯沸かしポットをレンタルしなければならないのだ。恐らく電力使用の関係でそうなっているのかもしれない。この地では発電もままならないに違いない。
 

そこで、水の補給をしなくてはと、ミネラル水の調達にバ−(夜の12時まで営業)へ出かける。すると、下のフロントにあるから、そちらで買いなさいという。フロントに行くと、中ビンのミネラル水が置いてある。それを1本(1本10クロ−ネ=200円)買って部屋に戻る。ついでに、気温表示計を見ると、ただいま零下24度になっている。やはり夜になると、ずいぶんと冷え込んで来ている。
 

朝までまどろむ
部屋に戻って喉を潤すと、再び同じようにベッドに横たわってオ−ロラの出現を待つ。その後は、まどろんではハッとして窓際に駆け寄り……の行為を何度となく繰り返し、気になって安眠できない。とうとう明け方になっても遂に星空は見えず、後に残ったのは睡眠不足の顔だけとなる。結局、この日は残念ながらオ−ロラの写真は1枚も撮れずじまいである。
 

こんなわけで、この日の分のオ−ロラ写真はお見せできないので、その代わりにオ−ロラ現象のことについて調べたことを以下にまとめてみよう。

《オ−ロラとは》
太陽から放出される電気を帯びた荷電粒子(太陽風・プラズマ)が地球磁気の勢力範囲に入り込み、磁力線によって加速され、極地の大気と衝突して発せられる光のこと。このオ−ロラは街のネオンサイン、家庭の蛍光灯と同じ放電現象ともいえる。



 地球の磁場のイメージ(NASAより)
 地球の中心に強力な棒磁石を置いて
 磁場をイメージしている。







《オ−ロラはどこで見えるか?》
オ−ロラは地球の磁場の極を取り巻くように現れる。統計的にいちばんよく見える場所は、地磁気緯度で65〜70度で、この領域はオ−ロラ帯、またはオ−ロラベルトと呼ばれる。そこでは天気さえ良ければほとんど毎晩オ−ロラを見ることができる。磁極が地理上の北極のある北極海から、グリ−ンランド北西部(つまりアメリカの東海岸側)へずれているため、アメリカやカナダの東部では、それほど寒くなくてもオ−ロラを見ることができる。
 

オーロラ帯の地図。左側の赤線枠がカンゲルルススアーク




 









スペースシャトル(高度300〜400km)から見たオーロラ( NASAより)

20世紀の半ば、オ−ロラの現れている地域は楕円のように地球を取り巻いていることがわかり、これをオ−ロラ・オ−バルと呼ぶ。このオ−バルは、地球の自転軸と磁軸が11.8度ずれているため、一日のうちに刻々と変化することになる。


《オ−ロラ観測の場所選びと時期》
次の諸条件を満たす所。

条件1……約北緯64度〜北緯70度に位置するオ−ロラ帯の下であれば
       高い確率で現れる。


条件2……オ−ロラは高度90km〜300kmという宇宙空間と地球大気の
       境界ともいえる領域で発光するので、雲が出ていてはオ−ロラ
       の光が遮られ、見ることはできない。 したがって、晴天の多い
       時期と場所を選ぶ必要がある。その点、アイスランドやノ ルウェ
       −の近くは暖流が流れているため常に雲が発生しやすく、オ−
       ロラだけを見 るために訪れるのは不向きかもしれない。


条件3……オ−ロラは微弱な光のため、市街地ではその灯が邪魔になっ
       てほとんど見えない。そのため、オ−ロラを見るためには郊外
       へ行くか、街灯の少ない場所を選ぶ必要がある。
 

オ−ロラ観賞の時期は、日照時間が短くなる9月〜4月上旬ごろ。オ−ロラ現象そのものは1年中起こっているが、発光現象のため暗くないと見えない。オ−ロラが出現する極地方では、夏は太陽が沈まず日照時間が長いため、オ−ロラを見ることはできない。通常、オ−ロラは一晩に2〜3回出現し、1回につき1時間ぐらい発光していることもあるが、光量が多く大きな動きを見せるピ−クは約10分ほどである。


《オ−ロラの色や形》
オ−ロラの色は黄緑色が一般的には多く見られる。この色、形、強さは高エネルギ−粒子の降り方によって決まる。高エネルギ−粒子が五月雨のようにばらばらと降ってくると、ぼんやりとしたオ−ロラが作られ、これが局所的に集中豪雨のように降ると形をもったオ−ロラが作られる。
 

この粒子の降り方が弱いと厚い大気を深くまで進入できないので、200km〜300kmの上層部にある酸素原子と衝突し、赤い光を放出して赤色のオ−ロラとなる。




反対に粒子の降り方が強いと、より低い高度まで進入することができるので、高度110km〜200kmにある酸素原子と衝突し緑の光を放出する。さらに勢いがあると、高度90km〜110kmの窒素分子と衝突し、人の目にはピンク色に見える光を放つことになる。
 

低い高度で光る緑のオーロラ(高度110〜200km)と、高い高度で光る赤
いオーロラ(高度200km以上)(エビハラ氏撮影)



オ−ロラは「はっきりオ−ロラ」と「ぼんやりオ−ロラ」の2つに分類される。「はっきりオ−ロラ」の中には、その形に応じて
*ray(レイ:細い線)
*torch(ト−チ:たいまつ)
*surge(サ−ジ:大波)
*corona(コロナ:冠、放射状)
などの名称がつけられている。
 




 コロナ型オーロラ
 活発なカーテンのヒダを真上に見ると、
 まるで全身が光に包まれてしまいそう
 な錯覚に陥る。

 私の場合、このコロナ型を二日にわた
 って体験した。






「ぼんやりオ−ロラ」は、文字どおり薄くぼんやりしていて、慣れないと雲と間違えることもあり、薄暗くて色も感じられない。これらの他に、チカチカと点滅を繰り返す脈動オ−ロラもある。同期は1秒より速いものから、10秒以上の比較的ゆっくりしたものまであるという。


《リアルタイムデ−タによる観測》
インタ−ネットに接続できれば、人工衛星によって取得された太陽、惑星間空間、地球周囲の宇宙空間などのリアルタイムのデ−タをNASA(米航空宇宙局)などから取得できる。これを解読利用すれば、変化する光量などが分かり、その光度が増した時だけ屋外に出てオ−ロラを観測するなど効率的な観察もできる時代になっている。


《オ−ロラ撮影の準備》
*カメラ
オ−ロラの光は微弱なのでシャッタ−を長時間開いていなければ撮影できない。そのためシャッタ−速度を最低でも15秒〜60秒の間まで設定できるもので、バルブ撮影のできる一眼レフカメラが必要となる。低温下なので電池を使う電子式より機械式のカメラが適している。低温で電池の性能が低下するからである。オ−ロラは全天に広がるのでレンズは広角(35mm以下)で明るい(f2.8以下)レンズを使用。


*フィルム
自然な発色をするもので、感度はISO400以上を使うとよい。


*露光時間
レンズの明るさ、フィルムの感度、オ−ロラの強さによって変わるが、おおむね10秒〜60秒が適正。露出時間をいろいろ変えて撮影するのがコツ。


*焦点・絞り
焦点は∞、絞りは開放にする。


*三脚とレリ−ズ
長時間シャッタ−を開くので三脚とレリ−ズが必要。三脚は雪の上でもしっかり固定できるもの。


*予備の電池
低温下では電池の性能が著しく低下する。温めれば復活するが、その余裕がない時のために予備のバッテリ−を持参する。


*防寒カバ−
カメラなどを長時間冷気にさらさないように、それを覆うマフラ−、上着などを用意する。


*その他
低温下でカメラに息を吹きかけない。直ちに凍りつく危険あり。また、素手で機材を触らないように、操作しやすい手袋を用意する。金属に手が凍りついて凍傷の恐れがある。屋外で使用したカメラを急に屋内に持ち込むと露結してしまい、いざという時に撮影不能になる恐れがある。それを避けるため、屋外にいるうちに密封性のある袋に入れて中の空気を追い出し、室温になじむまでは、この袋をバッグなどに入れておく。


(次ページは「氷冠見物・オーロラ観察2日目」編です。)










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