No.6 





7.幻のイル・デ・パン
 
今日は滞在最後の日、それに待望のイル・デ・パン行きの日でもある。張り切って6時に起床。空を眺めると天気は上々、南国の晴れ渡った青空が広がっている。絶好の離島行き日和である。日焼け止めクリ−ムは手に入れたことだし、準備はOKだ。7時半集合となっているので、それまでに朝食を済ませなくてはいけない。
 

身仕度をし、オ−プン早々の食堂に出向いて朝食をとる。早めに食べ終えて部屋に戻り、水着、タオル、日焼け止め、水筒、帽子などを揃えて出発に備える。ロビ−へ7時半集合となっているので、そろそろ部屋を出てロビ−ヘ集まる。参加者は私の他に日本人家族5人である。今日のイル・デ・パン行きは現地旅行社に申し込んだもので、ホテルまでピックアップに来てくれる。
 

今日の日程は次のようになっている。空港から25分のフライトでイル・デ・パン空港に到着し、その後バスで島内観光、それから自由行動でクト−ビ−チやカヌメラビ−チなどで時間を過ごす。その後、ランチタイムがある。そのメニュ−は次の内容になっている。

*伊勢エビのサラダ
*魚介類のフリッタ−
*盛りだくさんのバイキング
*デザ−ト
*ご飯、パン(飲物:ワイン)

ランチの後は、ティ−タイムまで自由行動。その間にオプションでオロ湾ツア−(所要2時間半で2,200F=2,500円)がある。その後は、紅茶とお菓子でティ−タイムを取り、空港へ向かう。17時発の飛行機で帰島し、ホテル着は6時となっている。


空 港 へ
期待に胸をふくらませながら待っていると、時間ちょうどに出迎えのバスがやってくる。今日の案内役はイル・デ・パン出身の若いポリネシアンの陽気な女性である。バスはこの先のル・メリディリアン・ホテルに立ち寄り、そこでもお客を拾ってマジェンタ空港へ向かう。この空港は国内線専用の空港で、国際線が発着するトントゥ−タ国際空港とは別の所で、アンスバタから車で30分足らずの距離にあるマジェンタ湾の方にある。
 

ひとしきり走って空港に到着すると、ガイドが「そのまま待っていてください。」と片言の日本語で言い残して一人空港事務所の方へ歩いて行く。ところが、彼女はなかなか戻って来ない。飛行機に搭乗するはずなのに、どうして下車させないのだろう?  そんな疑問を抱きながら待っていると、ようやく彼女が戻ってくる。そして言うには、

「今日は飛行機飛びません。イル・デ・パン、ダメです。ストライク!」

と言う。彼女はフランス語しか話せないらしいので、それ以上は尋ねられない。
 

車内のみんなは?という顔つきで、きょとんとしている。とっさに事情がのみ込めず、何がどうなったのか分からないでいる。“ストライク”と言っているところをみると、空港でストライキが起こっているのか、あるいは乗務員のストなのだろうか? そんな事情も分からないままに、バスは引き返し始める。飛行機が飛ばないというのでは、どうしようもない。
 

とにかく、ホテルまで送り戻され、降り際に「あと2分で係が来ます。ここで待ってください。」と言い残して彼女は去ってしまう。旅行社のスタッフが同乗していないので、ガイドだけの彼女では臨機の対応ができない。時間が間に合えば、行き先を切り替えてアメデ島に行ってみたいのだが、2分待ちというのになかなか係はやって来ない。
 

結局、半時間ほど待たされた挙げ句、現れた係の話によれば、その事情はこうだ。イル・デ・パンの島民たちが空港滑走路を占拠して座り込みをしているという。なんでも、長年要求している各戸への水道引き込みがなかなか実現せず、業を煮やした住民たちが要求貫徹のために実力行使に出たらしい。いやはや、運悪くも、とんだとばっちりを受けたものだ。
 

それはともかく、他への振り替えを求めてみるが、すべて出発時間切れで後の祭り。もっと早く来てくれれば、アメデ島への振り替えもできたのだろうに! 事実、他の旅行社のグル−プでは、すぐに切り替えて行っているのだ。なんとも、踏んだり蹴ったりである。これでは動きが取れず、途方に暮れてしまう。最後の貴重な1日なのに、とんだことになったものだ。こうして、楽しみにしていたイル・デ・パン行きも露と消えてしまい、幻のイル・デ・パンとなってしまう。なんとアンラッキ−で、残念なことだろう!
 

こうして行きそこなったイル・デ・パンだが、そこがいったいどんな島なのかをニュ−カレドニア観光局のホ−ムペ−ジの案内で見ていただきましょう。
ニュ−カレドニア観光局のHP


再びカナ−ル島へ
これ以上、悔やんでも仕方がない。海水着その他も準備している。そうなれば、またあのカナ−ル島へ行くしかない。そう決断したのは9時過ぎのことである。今からだと昼過ぎには戻れるだろう。そう思いながら昼食準備なしに出かける。通い慣れた道をてくてくと歩き、インフォまでやってくる。早速、タクシ−ボ−トを申し込んで島へ渡る。なんだか今日は、乗客が多そうだ。
 

島へ上陸してみると、昨日とは打って変わってビ−チは人出で賑わっている。急いでパラソルを探し回るが、みんな塞がっている。空いているパラソルが幾つかあるので寄って見ると、すべて“RESERVED”のカ−ドが置かれている。係のお兄さんに聞いても、今日はみんな塞がっていると言う。「お前までもか!」と言いたくなってしまう。今日は台風明け後の日曜日とあって、地元の家族連れがどっと押し寄せたらしい。時間が早いので、大丈夫と思っていたのだが……。パラソルの予約制があるとは知るよしもなしだ。
 

パラソルなしでは日干しになってしまうので、ここで過ごすわけにはいかない。木陰もないので、どうしようもない。こんなことが分かっていれば、船賃まで払って渡って来なかったものを! ここでもまた、悔やむことしきりである。折角、渡ったのだから、一度だけでも泳いで帰ろうと、シュノ−ケリングなしで海につかる。しばらく泳いでから帰り支度を始める。わずか1時間足らずの滞在で撤退だ。


アンスバタビ−チで水泳
島から戻って上陸すると、ホテルへ向かってすたこらと歩き始める。ビ−チ沿いに続くプロムナ−ドの木陰を歩きながら、ビ−チで楽しむ人たちの姿を眺めていると、ふとここで泳ぎたい気持ちに誘われる。海水はそれほどきれいではないが、泳ぐのには十分である。カナ−ル島と違って、このビ−チ沿いには椰子の木などの樹木が生い茂っているので、木陰は十分にある。その木の根元に荷物を置き、泳ぎの準備にかかる。今度は顔や体中に日焼け止めをたっぷりと塗って防備する。日焼け止めのクリ−ムを塗るのは初体験である。
 

足場のよい砂地を歩いて渚に達し、どんどん沖へ歩き進んで行く。腰までの深さに達すると、そこから先は急に深くなっている。これは気をつけないと、子供たちは下手をすると深みにはまる恐れがある。子供の頃は、こんな傾斜の浜辺は恐がったものだ。あまり沖合へ行かず、渚に平行して行ったり来たりしながら泳ぎ回る。気持ちはいいけど、疲れやすいのが難点。
 

ひとしきり泳いでは休憩し、そしてまた泳ぐ。これを数回繰り返して終了とする。その後は木陰に腰を下ろし、沖合の海を眺めながらゆっくりと憩う。その彼方には恨めしいカナ−ル島が静かに横たわっている。目の前のビ−チでは、数人の少年たちが側転宙返りをしながら遊んでいる。普通の前転・後転の宙返りでないところが面白い。みんなで練習しているのだが、その中でいちばんのっぽの少年が上手く、形も決まっていて着地も立派。他の少年たちは、もう一息というところだ。渚に向かって助走し、側転宙返りをして海中に着地するという段取りだ。なかなかうまく考えたものである。
 

このビ−チには1ヶ所だけ露天のシャワ−施設がある。プロムナ−ドの縁に設けられており、プッシュボタンを押すと一定時間シャワ−が出るようになっている。このシャワ−を浴びて帰り支度をする。
 

帰る途中、ホテル前のショッピングセンタ−に立ち寄り、いつものスナック店で、いつものサンドイッチを作ってもらい、昼食用に持ち帰る。部屋に戻ってシャワ−を浴び直した後、コ−ヒ−を入れてサンドイッチをいただく。お腹が満たされると、眠気を催してくる。夕方のサイクリングをめざして、しばらく横になろう。


サイクリングの夢かなわず
夕方5時前になって、陽もだいぶ傾いてきたので出かける準備をする。サイクリングしながらサンセットを拝むのが目的である。そこで、例のインフォメ−ション目指して、再びてくてくと歩いて行く。ようやく到着して、ロワジ−ルの店に自転車のレンタルを申し出る。するとどうだろう、「5時半には店を閉めるので今日はダメです。」とすげない返事が返ってくる。予想外のことに、がっくりしてしまう。
 

もう一軒、レンタサイクルのショップがあるというので、そこへ行ってみる。それは例のス−パ−の近くのホテル内にあり、旅行代理店が取り扱っている。再び引き返してス−パ−へ向かう。と、その手前に目指すホテルはあり、その中の旅行代理店に入る。そこには日本人女性の係が一人で座っている。そこで、レンタサイクルのことを尋ねると、確かに取り扱っていると言う。「でも、今からだと日没まで、あまり時間がありません。この地では、日没以後のサイクリングは禁止になっているんです。だから、今日は無理でしょう」と言う返事。
 

ここでも断られ、ついにサイクリングは断念せざるを得なくなる。なんという不運の連続! 今日という日は、早朝からイル・デ・パン行きが空港でドタキャンとなり、その後はカナ−ル島で居所がなく引き返し、そして今、2軒の店でレンタルを断られる。こうして、ことごとく思いを果たせないとは、なんというアンラッキ−な一日なんだろう。気持ちも打ち沈んで、一人ホテルへ向かう。


サンセット
ふとビ−チの方を見ると、夕日が真っ赤に燃えながら水平線の彼方に落ちかかっている。折角のチャンスだから、南太平洋に沈む入り日を眺めて行こう。幸いなことに雲もかからず、見事なサンセットが見られそうだ。ビ−チの木陰に腰を下ろしながら太陽が沈むのを待つ。テ−ブルとベンチが備えてあるが、そこはまだ陽が当たっていて暑い。
 

刻々と時が過ぎるにつれて、夕日は周りの空を茜色に変えながら沈んでいく。目の前には穏やかな南太平洋の海が広がっている。大自然だけは予定変更もキャンセルもなく、間違いなく確実にその素晴らしいパフォ−マンスを見せてくれる。だから、安心して見ていられる。この落日のシ−ンをぜひ写真に収めておこう。
 

やがて夕日が水平線に近づいたところで、カメラを用意して構える。何度もファインダ−をのぞきながら、シャッタ−のタイミングを待つ。早過ぎて夕日をまともに捉えるとハレ−ションを起こして画面が見えなくなる恐れがある。だから、水平線に沈みかけたタイミングを狙う必要がある。沈み始めたら早いので、タイミングを失しないように気をつけなくては……。 夕日が水平線に着水し始めてからシャッタ−を切り始め、都合3カットのシ−ンを撮影する。夕日が落ちると、夕闇が迫るのは早い。この時のサンセットタイムは6時半である。そろそろ、きびすを返してホテルへ戻る。






南太平洋に沈む夕日
アンスバタ・ビーチにて










フランス料理で最後の晩餐
今夕で最後の夕食になるのだが、まともなスパゲッティを食べて最後を飾りたいと思う。そこで、出掛ける前に予めホテル内のレストランで尋ね、トマトソ−スのスパゲッティもあることを確認して、その心積もりでいたのだが、今になって急きょフランス料理に予定変更してしまう。というのは、部屋へ戻る途中、顔見知りの人から、この近くにおいしいフランス料理店があることを聞きつけたからである。そこで、衣服を着替えて、その店へ行くことにする。  


教えられた方角へ歩いて行くと、そこは建物も何もない空き地になっている。結局、探しあぐねて、また先夜と同じ旅行代理店に入って尋ねてみる。すると、まるきり反対の方角になっている。多分、ホテルからの出口を間違えたらしい。ビ−チ側とは反対の玄関から出るべきだったのだ。そこで、人通りのない夜道を探しながら歩いて行くと、前方にそれらしき店が見える。やはり、ここがそのレストランなのだ。
 

中に入ると、結構お客が座っている。室内はそれほど広くはないが、落ち着いた雰囲気が流れるレストランである。予約無しだが、席に迎え入れてくれる。早速、メニュ−を見せてもらい、エビのス−プと鴨料理、それにビ−ルをオ−ダ−する(締めて2,500円)。この料理にはワインがお似合いだが、喉が乾いているのでビ−ルでないと潤わない。
 

ここは日本人に馴染みがあるのか、日本人客が多い。奥のテ−ブルには女性のグル−プが座っているし、横と背後の席には新婚カップルが座っている。場所的に目立たない所なので、どうしてこのレストランを知ったのか、2組のカップルさんに尋ねてみる。すると、1組の方は当初からパックに組み込まれていたのだそうで、他のカップルはガイドブックを見て知ったのだと言う。
 

まずは最初に運ばれてきたビ−ルで一人乾杯する。喉が乾いているので、そのおいしいこと。この地元産ビ−ル“NO.1”もなかなかのものである。やがて運ばれてきたス−プを味わうと、エビの風味が口内いっぱいに広がって、さすがにいい味をしている。ややとろみがあって、ボリュ−ムもある。ゆっくりと時間をかけて味わう。
 

メインの鴨料理は、これもなかなか良い味がして、最初の夜に食べたホテルのレストランのよりもおいしい。そのコシコシとした歯応えがなんとも言えず、鴨らしいおいしさを引き出している。これを食べ終えると、お腹はいっぱいで、デザ−トまでは入りそうにない。これでオ−ダ−ストップにしよう。料金にしても、この地では割安の感じで、満足できるレストランのようだ。
 

店を出ると、南国の夜風に吹かれながらホテルに向かう。これでいよいよ最後の夜。明日の夜はもう日本なのだ。振り返ってみると、今度の旅ほどアンラッキ−な旅はない。台風接近で3日間も日の目を見ず、やっと天候回復したかと思えば、念願のイル・デ・パン行きがドタキャンになるなど、意のままにならないことばかり。これも旅のうちかと思うには、あまりにも心残りのする旅である。
 

しかし、それを悔やんでも仕方がない。南国の星空の彼方へ、その思いを遠く追いやりながら帰るとしよう。満ち足りた最後の晩餐の余韻にひたりながら、静かな夜の道を歩いて行く。ともかく、カレドニア最後の夜を素敵な夢で結ぶことにしよう。

                                         (完)
                             (2003年3月31日脱稿)










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