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   N0.2





9.ルクセンブルク観光(2日目)
 
今朝はゆっくり起きて、9時前に朝食を済ませる。1階のカフェが朝食場所だが、昨日までのグラン・プラスのホテルと同様に、朝食内容は貧弱なものである。パン2個とハム、ソ−セ−ジが1枚ずつ、それにコ−ヒ−が付いているだけである。料金が安いだけに、それは致し方のないこと。それでも、なんとかお腹は満たされ、出発の準備ができる。


両 替
珍しい夜来の雨もからりとあかって、今日も見事な快晴だ。まずは軍資金用に両替と行こう。駅前に銀行があるというので、そこえへ出かけてみる。まず1軒目の銀行に行くと、日本円の交換はできないと言う。隣の銀行に行ってみてくれと言う。そこで今度は同じ並びにある別の銀行に行ってみる。すると、ここでもダメと断られる。世界の金融センタ−の街というのに、日本円はお呼びでないらしい。円も地に落ちたものだ。
 

他に銀行はないのかと尋ねると、その道路向かいにあると言う。そこで道路を横切り、3軒目の銀行に入ってみる。両替を申し出ると、ここでやっとそれに応じてくれる。やれやれ、これで一安心。ここの中央駅には両替所がないのだ。


貸自転車屋探し
軍資金が用意できたところで、旧市街へ向かう。馬鹿の一つ覚えではないが、今日は自転車を借りてペトリュッス渓谷やその他の観光ポイントをめぐってみたい。そこで、昨日訪れたギョ−ム広場の近くにある自治宮殿の建物内にインフォメ−ションがあるので、そこで尋ねてみることにする。
 

再びアドルフ橋を渡って旧市街に入り、案内所を目指す。すぐに見つかり、レンタサイクルのことを尋ねると、案内図にマ−クを付けてくれ、そこへのル−トを教えてくれる。ペトリュッス渓谷へ下り、その川向にあるという。その方向へ移動しようと歩き始めると、通りにある八百屋さんで見事なイチゴをパックに入れて売っている。思わず食指が動いて1パックを買うことに(値段は1,000円ちょっと)。この地では、今が旬のきれいな白アスパラガスも店頭に並んでいる。
 

この大粒のイチゴは新鮮で甘く、なかなかおいしい。これを買ったのは大当たりである。これを頬張りながら、教えられたル−トを辿って歩き出す。が、アドルフ橋のたもとまで来ても、それらしき渓谷へ下りる道が見当たらない。そこで地図をもう一度よく調べてみると、どうも方向を間違えたようだ。そこへちょうど、ミニトレインが向こうからやって来る。これにもぜひ乗りたいところで、後の楽しみに取っておこう。
 





ペトリュッス渓谷からグルントまでを周遊するミニトレイン








憲法広場の方へ引き返し、そこで尋ねると、その先から下へおりるのだと教えてくれる。なんと逆方向へ来てしまっていたのだ。教えられた所に階段があり、そこを下って渓谷へ出る。この渓谷の底面はきれいに整備された平地になっており、緑豊かな格好の公園地帯になっている。ここから北の方へ進むとグルントと呼ばれる低地帯に出る。


グルント(低地)歩き
地図を見ながら、よく整備された緑陰の舗装道路を爽快な気分で歩いて行く。だが、貸自転車屋がこんな所にあるのかなと半信半疑で歩いていると、向こうから地元の人らしいショ−トパンツ姿の中年おじさんがやってくる。どうもアジア系の人のようだ。これ幸いに彼を呼び止め、目的地の地図を示して場所を尋ねてみる。すると、それだったらグルントの方だ。いま朝のウォ−キング中だが、よかったら案内しましょうと言いながら、きびすを返してグルントの方へ一緒に歩き始める。
 

背の高い彼の大股歩きに引きずられるように歩きながら、いろいろと話が始まる。彼は上手な英語が話せるので不自由はない。話によると、彼は韓国人でこの地に住んで16年になると言う。空手を教えているそうで、門下生には弁護士、医師、教授など、上流階級の人たちばかりだという。一人暮らしの彼は、よく週末になると弟子たちたの家へ招待されてご馳走になるという。これまで世界各地を歩き回り、今はこの地に安住しているらしい。故郷の韓国には滅多と帰国しないと言う。また、歴史に造詣が深く、普段はよく図書館に行って歴史関係の図書を読み漁っているという。
 

そんな彼だけに、このグルントの歴史についても詳しく、歩きながらここはこんな歴史が、あの地層はどうのこうのと、なかなか専門家はだしのように解説してくれる。だから初めは、あなたは歴史関係の教授なのかと尋ねたほどである。日頃の彼のウォ−キングコ−スだけに、この地帯のル−トもなかなか詳しい。歴史を感じさせる石積みの塀に沿った石畳の細い路地を通り抜けたり、高台に上っては低地帯を眺め下ろしたりと、なかなか変化に富んだコ−スを歩き進む。晴天で気温が高く、おまけに長袖シャツときているので汗だくとなる。
 





歴史を感じさせる小道(左側)















 低地帯の風景
 右側は城壁









こんなに歩かされるとは予想だにしなかった。もう半時間以上も歩いている。これではウォ−キングになってしまった感じである。彼は貸自転車屋を探していることは忘れて、ただグルントの案内にはまっているようだ。いずれにしても、こんな地形ではサイクリングは無理な様子なので、すでにあきらめてはいる。でも、いったいどの辺りにあるのだろう? それらしき店は見当たらない。
 

とうとうグルントを抜けて高台へ上り始める。その途中、この一帯の景観を眺望できる素敵なビュ−ポイントに出る。ここでフォトストップして小休止だ。この一帯を眺め回すと、この街が渓谷から切り立った垂直の断崖の上に堅固な城壁を築いて要塞化しているのが分かる。なるほど、これを見ればこの街が難攻不落の城塞都市であることが推察できる。低地帯は格好の閑静な住宅地になっていて、似た造りの民家が立ち並んでいる。この方角から遠くにノ−トルダム寺院の尖塔が眺められる。ずいぶんと回り込んで移動して来たものだ。



 断崖の上に築かれた堅固な城壁の跡が見える。右側の尖塔はノートルダム寺院。




その間にカメラのフィルムを入れ替え、再び歩き始める。さらに先へ進んで行くと、絶壁の岩盤に古代人の住居跡のような穴があちこちに開いているのが見える。これが有名なボックの砲台である。この城塞都市ルクセンブルクは、その昔この城壁とこの穴の砲台から打ち出す砲弾とによって堅固に守られたといえるのだろう。
 

 断崖に穴があけられたボックの砲台。左側の尖塔はサン・ジャン教会


今は、この砲台も観光名所となっている。この方角からボックの砲台を眺められるのは、わざわざここまで歩いてきた者でないと見られない光景である。一般の観光客は、このグルントまでは足を伸ばすことは少なく、私のようによほど時間の余裕がある者でないと来られないだろう。その私だって来る予定はなく、たまたまこうして案内されたから来たまでに過ぎない。左下手にはこれも鋭い尖塔を持つサン・ジャン教会(現在は女子刑務所)が見える。
 





 モダンなブリッジと
 箱庭のような低地の住宅









ここからグルントを抜けて平地に上りあがるとボックの砲台の方へ出る。そのすぐ近くに、こぢんまりとしたサン・ミッシェル教会が現れる。折角だから、中に入ってみよう。中央祭壇も小さく、全体のスペ−スもそれほど広くはない。手前には美しい花が盛られたボウルが置かれ、みんなの心を和ませてくれる。狭いながらも荘厳さの雰囲気は、どこにも劣らない。






 サン・ミッシェル教会

















 
教会の中央祭壇

















昼食はスパゲッティ

ここで昼食にしようということで、彼に案内のお礼にご馳走したいと申し出ると、恐縮して辞退する。再三促すと、それでは安くておいしい店に案内しましょうと言う。何を食べたいのか尋ねるので、スパゲッティをと答えると、すぐ近くにあるイタリアレストランへ案内してくれる。イタリア料理ならここ、中華料理ならあの店だと教えてくれる。
 

出されたメニュ−を見ながら、彼は大きなピザを、私はトマトソ−スのスパゲッティを選び、それにビ−ルを注文する。和やかに歓談しながら、それぞれに食事が進む。彼の英語はネイティブでないだけに、ゆっくりと話すので分かりやすい。それにしても、あのピザの大きさでは、私なら持て余すに違いない。が、彼はおいしそうにビ−ルを2杯もお替わりしながら、きれいに平らげてしまう。お見事! 


ボックの砲台
食事を終えて外に出ると、そこで彼とはお別れすることに。彼は自宅へ、私はボックの砲台見物にと、それぞれ反対方向へ進んで行く。砲台への入口は道路下の岩窟の中にあり、そこで入場料1.75ユ−ロ(=250円)を払って中に入る。ここはボックと呼ばれる断崖絶壁で、そこに要塞としての砲台洞窟が築かれている。18世紀にオ−ストリアの兵士たちによって造られたという。そこには奥深くまでほぼ直線の洞窟が掘られ、その左右には一定間隔で断崖に通じる横穴が掘られている。洞窟の大きさは大人が十分立って歩ける高さと広さである。中は電灯が所々に点いているが薄暗く、ひんやりとして涼しい。
 





 砲台の中は長い洞窟










ある洞穴には往時をしのばせるように大砲が据えられており、それがくり貫かれて窓のように開けられた砲台穴の中に浮かび上がって見える。断崖の洞窟穴から外界を覗くと、直下は断崖になっているだけに目が回りそうで、写真を撮るにも両側の壁が遮って視野が広がらない。






 往時がしのばれる大砲










この洞窟はなかなか奥深く、末端のほうは迷路のようになって入り乱れている。当時は、どんな工具を使って掘ったのだろう。機械がなかった時代だけに、これだけの長いトンネル様の穴と左右の横穴を掘るのには、相当の年月をかけたと思われる。
 

かなり奥の方まで行くと、下段の地下に下りる階段まであり、入り組んでいて迷ってしまう。とにかく、どん詰まりまで行ってから引き返すことにする。「出口」の矢印に従って進んでいると、その途中にこの洞窟全体の見取り図が掲示されている。これを見ると、蟻の巣のように掘り巡らされているのがよく分かる。これでは下手をすると迷子になってしまう。入場者が多い時はいいが、それが少なくひっそりとしている時など、独りでは少々無気味過ぎるだろう。今日は、まあまあの入場者のようだ。
 





 洞窟の地図










出口と思われる方向へ進んで行くと、そこはかなり広い空間になっており、いよいよ出口かと思っていると行き止まりになっている。おや? そんなはずはないがなあ〜。出口の表示は確かにこの方向だったのに……。この歩き疲れた足では、いまさら引き返して確認しに行く元気はない。そこで行き止まりの地点をよく調べると、奥の隅っこに小さな下り穴がある。まさかこれが出口ではあるまい。下手に下りて行くと、また戻って来るのが大変だ。
 

少し不安になりながらしばらく様子をみていると、数人のグル−プがやってくる。やはり彼らも同様に迷っている。そのうちの一人がその穴を下って行く。やがて下から仲間を呼んでいる。それに連れて皆も下りて行く。この穴の所には出口の表示もないし、どう考えても、ここは出口とは思えないのだが……。あれこれ迷った挙げ句、だまされたと思って行ってみようと決心する。細く薄暗い洞窟の階段を下りて行くと、その先に外の光が見えてくる。やはり、ここが出口だったのだ! ほっと胸をなで下ろしながら洞穴を後にし、上の道路に上りあがる。もっと、案内表示を徹底せよと言いたい。


ホテルへ
この砲台を最後に今日の観光は終わりにしよう。時計はもう3時を過ぎている。これ以上歩くと明日が動けなくなる。砲台を出ると、そこから断崖の端に沿ってエスプリ広場の方まで素敵なプロムナ−ドが伸びている。断崖上からの絶景を眺めながらの遊歩は、時間と疲れを忘れさせてくれる。
 

このプロムナ−ドは緩やかに蛇行しながら走っているので、カ−ブの要所要所で絶好のフォトポイントを提供してくれる。そこで立ち止まっては眼下に見下ろすグルント(低地)の絶景を連続写真に収める。そびえる断崖、幾つものア−チを描く橋、それに鋭い尖塔を天に突き刺すサン・ジャン教会……それらが深い緑に埋もれた光景がなんとも美しい。
 

 左上がプロムナード。右下がグルントで尖塔はサン・ジャン教会。

さらに進んで行くと、グルント(低地)の様子が一望に見渡せるビュ−ポイントに出る。低地や高台に大小の建物が並んで、静かな午後のたたずまいを見せている。ふと気づいたことだが、ここでは他のヨ−ロッパ地域とは異なり、レンガ色の赤い屋根は一つもなく、すべてが申し合わせたようにグレ−の、それも瓦葺きではない平板の屋根になっている。日本の屋根と同じ色だ。これがレンガ色の屋根だったら、この豊かな緑との鮮やかなコントラストを見せてくれるのだろうに、それが見られないのは少し惜しい気がする。ここでも連続写真を撮っておこう。




 グルントの風景。屋根の色ははグレイばかり。



移り行くグルントの風景を眺めながらプロムナ−ドを過ぎると、昨日の帰路に渡った橋をもう一度通りながらホテルへ向かう。もう間もなくというころ、通りの一角にレストランやカフェが並ぶ場所がある。その並びにアイスクリ−ムを売っている店があり、それが目に入った途端、子供みたいにそれが欲しくなってしまう。小さな店に入ってテ−ブルに座り、得意のバニラを注文して渇いた舌にゆっくりと乗せ、流し込む。ここのアイスクリ−ムもなかなかおいしい。どこの国のアイスリ−ムでも、これまでまずいと思った経験は一度だにない。どこも一様においしいのがアイスクリ−ムの特徴なのかもしれない。
 

どうにか汗が引いたところでホテルへ向かい、やっとゴ−ルインである。今日はそんな気持ちである。というのは、これほど歩きに歩き回ったことはないからである。韓国人と出会って予定外のグルント歩きまであり、サイクリングで楽に観光しようとの魂胆とは逆に、とんだ遠足になってしまった感じだからである。汗びっしょりの身体をシャワ−で流し、疲れた脚をマッサ−ジして、しばし横になる。


ホテルのカフェで夕食
今夕の夕食は外出をやめ、このホテルで取ることにする。6時半ごろになって階下に下り、午前のおばさんと交代したこの店のマスタ−に料理を注文する。メニュ−を見て、オムレツ、ス−プ、サラダにビ−ルを注文する。一人だからマスタ−も忙しい。店の飲み客の相手もしながら、奥の調理場に入って料理を作っている。
 

ビ−ルはルクセンブルクの銘柄を注文すると、これがお勧めのビ−ル「Diekirch」だと言って見せてくれる。じゃ、それをいただきましょうということで、コップに注いでもらう。一口飲んでみると、あまり口ざわりはよくない。私にはもう一つの感じである。これより、ベルギ−ビ−ルがおいしい。
 

ス−プもオムレツもまあまあの味で、盛り合わせのサラダも全部食べ切る。あまりボリュ−ムがないから、私のお腹には手頃である。それでもス−プとビ−ルでお腹は膨れ、満腹となる。これで今夜も満ち足りた気持ちで眠ることがでる。食事を終えると、良い気色になって階上の部屋へ戻る。寝る前に、汗まみれの下着の洗濯をしなくては……。それが済めばお休みの時間だ。今日は強行軍で、かなり疲れている。早目に休んで、明日に備えよう。


(次ページは「ルクセンブルク観光編(3)」です。)










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