No.8
(エストニア・ターリン編)
8.タ−リン市内観光
6日目。どんどん日にちが飛ぶように過ぎ去って行く。楽しみの時は短く、あっという間に終わってしまう。時の進行を止めたいが、魔法でもないかぎり、それもできない。とにかく、目いっぱい心残りのない過ごし方をするしかない。朝7時まで十分な睡眠を取ってからベッドを離れ、しばし柔軟体操で疲れた身体をほぐす。そして身仕度を整えると、楽しみの朝食だ。
朝 食
ここの食堂は地階になっている。そこへ下りて行くと、レンガの壁むきだしの部屋になっており、なんだか重苦しい感じがするが、どことなく趣もある。廊下を隔てて2部屋が食堂に当てられ、テ−ブルとイスも分厚い素朴な木製で趣がある。素敵ム−ドにひたりながら料理を物色すると、ここも劣らず品揃えがいい。パン類といい、肉類といい、サラダ類、フル−ツ類、飲物類といい、十分に揃って申し分ない。玉子などは半熟と完熟が揃えられ、気配りのサ−ビスが行き届いている。豊かな気分になりながら、十分な朝食をいただく。
部屋に戻る途中、玄関から外に出て様子を見ると、なんと今朝は素晴らしい青空が広がっているではないか! 今度の旅では初めての快晴に、心が踊り、胸も高鳴る。弾む心を抑えて部屋に戻り、食後の一息を入れる。そして地図を見ながら、今日の観光ル−トを頭の中に畳み込む。郊外を除く旧市街であれば、2.5kmの城壁に囲まれたこじんまりとした街だから徒歩で十分だ。7年前に訪れた時には現地ツア−に参加したのだが、郊外を車で回った後はすべて徒歩で旧市街を案内されたものだ。だからこの街は歩くに如かずである。
旧市街観光へ・「キ−ク・イン・デ・キョク」
デイバッグにカメラと水と地図を入れて出発だ。大通りの地下道を渡り上がると、すぐ左手の丘に広がるきれいな公園が見える。その横の上り坂をト−ムペアを目指して上って行く。晴れ上がった青空のもと、すがすがしい気持ちで上って行くと、右手に円筒形のトンガリ帽子の建物が見えてくる。リガの街の火薬塔にそっくりだ。これでも高さ49mもあり、街の防御のために15世紀末に造られたものという。その名は「キ−ク・イン・デ・キョク」と変わったものだが、ドイツ語で「台所をのぞけ」という意味らしく、昔はここから下町の家々の台所が手に取るように見られたという。今は博物館になっている。
「キ−ク・イン・デ・キョク」
高さ49m
ネイツィトルン
これに続いて、今度は昔の高い城壁にくっついて建つトンガリ屋根の塔が見える。この四角い塔はネイツィトルンと呼ばれ、中世には売春婦の牢として使われたそうで、現在はカフェになっている。
四角い塔(手前)のネイツィトルン
目指すト−ムペアは高さ24mの狭い丘の名前で、いわゆる山の手地域である。先述したように、13世紀にこの街を占領したデンマ−ク王がこの丘に城を築いて以来、下町を支配する権力者の居城となっている。今でもこの区域には政府機関や議会が入るト−ムペア城や大聖堂など、かつての権威を表わす建物が並び、商人や職人たちが築いた下町とは雰囲気が異なっている。
ネフスキ−聖堂と大聖堂
ゆっくりと坂を上りあがると、木陰の向こうにネギ坊主のアレクサンドル・ネフスキ−聖堂と、そのすぐ右手に尖塔がそびえる大聖堂が仲良く並んでいるのが見える。ト−ムペアの丘ならではの素敵な風景である。しかしこれが、20世紀初頭に帝政ロシアによって政治的な意味合いから建てられたロシア正教会ということを考えると、この聖堂はやはり異分子的な存在と言えるのかもしれない。
ネギ坊主のアレクサンドル・ネフスキ−聖堂。そのすぐ右手に尖塔がそびえるのは大聖堂
ト−ムペア城
ネフスキ−聖堂の前に出ると、その正面にはト−ムペア城が丘の端いっぱいに朝日を浴びながら端正な姿を見せている。淡いピンク色の壁とチョコレ−ト色の屋根を持つこの建物も、およそお城とは見えない代物である。それは前述したように、13世紀に建てられたものだが、その後支配者が替わるたびに補強改築され、18世紀後半には知事官邸用として改築したために現在の宮殿風の建物になったという。現在は議会や国の機関が入っているため入場はできない。
お城の感じがしないト−ムペア城
早くもお城の前の広場には何組もの観光グル−プが押し寄せ、ガイドの案内を受けている。まだ、日本人のグル−プは見えないようだ。この真向かいにあるネフスキ−聖堂を覗くと、内部の撮影は不可とのことで見るだけであきらめる。
大聖堂
残念な思いで展望台の方へ歩いて行くと、その途中に白壁と黒い塔を持つ大聖堂があり、ここに立ち寄る。これは13世紀初頭にデンマ−ク人がこの街を占領してすぐに建設したこの国最古の教会で、17世紀後半には大火災で焼失している。その後、100年の歳月をかけて現在の教会が再建されたという。聖堂内は薄暗く、壁には往時からの紋章などが幾つも掲げられて、いやがうえにも中世の雰囲気をただよわせている。
白壁が映える大聖堂
聖堂の内部
壁に掛けられた多くの紋章
ここを出て展望台へ向かっていると、路地の向こうにネフスキ−聖堂のネギ坊主が青空の中にくっきりと浮かんでいるのが見える。これはなんとも絵になる風景だなあと思いつつ、カメラのシャッタ−を切る。こんな時、さらさらっとスケッチが描けたら言うことないのだが、そんな素養がないのが悔やまれる。詩歌でも作れればいいのだが、それもできない無粋な野郎ではどうにもならない。
青空に浮かぶネフスキー聖堂の塔
展望台
ここからコフトゥ通りを少し北に進むと、右手に展望台が開けてくる。ここは崖上になっているので、旧市街が手に取るように丸ごと見渡せる。7年ぶりに見る懐かしい風景だが、今も変わらず中世の香りをただよわせながら静かなたたずまいを見せている。前と同じように、ここで5枚連続のパノラマ写真を撮る。今日はよく晴れているので、前回よりも良く撮れていることだろう。こうして見ると、タ−リンの旧市街はほんとに限られた狭い範囲に肩を寄せ合うように集まった街であることが分かる。
左前方には港があり、その向こうにはバルト海が開け、その海をひとまたぎした対岸はヘルシンキだ。中央手前のトンガリ屋根の上に見える白いのっぽビルがヴィルホテル、右側に見える白い塔が聖ニコラス教会、そのすぐ右隣に見えるトンガリ屋根の円筒が先ほど見てきたキ−ク・イン・デ・キョクで旧市街の南端になる。その前を右手に上ったところにネフスキ−聖堂や大聖堂、それにト−ムペア城がある。そこから北に歩いてきたところがこの展望台である。 |
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